出会い+(美少女×魔法-記憶)=コスプレ美少女
さて、この物語の語り手にして主人公を名乗らせてもらう俺、白井結城は生来不運な体質であったと自分では思っている。
どのくらいかと言えばそう、余りにも運が悪すぎて二択の賭け事なら俺の反対に賭ければ絶対に当たると俺を知る周囲の人々に言わしめるほどである。
そんな俺はついにこの度、不運な出来事に遭遇し、非日常にこの身を置くこととなった。
ことの発端は2105年の夏。東京都内の町、アキバにて某TCGの店舗大会に出場し、持ち前の不運を披露しボロ負けした帰り、傷心の俺が気まぐれに神社にて神頼みしたことに始まる。
「おぉ…神よ…!!私はこれまでの人生、さまざまな不運に見舞われたが、今日ほど己が運命を呪ったことは無い!!」
あぁ、我ながら痛いことをしている、きっと俺はどこかオカシイのだと思いながらも、傷心の俺は自暴自棄ぎみに、あるいは自傷的に身振り手振りを付けて続けてみる。
「なぜ神は私にこのような能力、65万分の1の不運をお与えになったのか!!」
うわぁ…痛い…痛いよ俺…なんだよロイヤル・バッドって…自分でルビとか振るのってすげえ恥ずかしいな…。
「この力のせいで私は、今日の死闘でも大敗をき…きしてしまったっ…!!」
恥ずかしい…もう適当に締めくくって止めよう…言葉が出てこなくなって適当なことをいい始めてる…
「もしこの身を哀れと思うなら、神よ!この身にたった一度の幸運を起こしたまえッ!!」
はぁ…なんつう恥ずかしいヤツだ、俺って自虐癖のあるドMなんだろうか…
なんて、下らないことをしながら、下らないを考えていたときだった。
ガサッ!!ガサガサ!!ドサッ!!
俺の後ろの方から何かが草木でも掻き分けて落ちたような、倒れたような音がした。
それは無機物の出すような音ではなく、そこに何者かいることを想像させた。
まさか誰かに今の痛々しい一人芝居を見られていたのかと思って内心ドキドキしながら振り向くと、そこには一人の少女が倒れていた。
容姿的には中、高校生程度だろうか、色白の肌に白髪、体は未発達で華奢な印象を受ける儚げな少女だったが顔立ちもよく、その美しさは今起きている異常な事態を一瞬忘れさせ、目を奪われるほどに魅力的だった。
つまり美少女だ。
「ってそんなこと考えてる場合じゃない…がしかし、これは…」
普通に考えればすぐにでも駆け寄って安否を確認するべきなんだろうが、今の俺にはそれが躊躇われた。
なぜなら…
「なんで全裸なんだよ…こんなん思いっきりR-18じゃねえか…」
21歳にして童貞の俺には目の毒というか。眼福というか…なんとも手出ししにくい状況であった…
「なんの拷問だよ…某スタンド並に時も止まるってこんなの…」
しかし、そんな状況で時を動かしたのは、他ならない俺の時を止めるきっかけを作った少女であった…
「ッ__~__ッ!!」
彼女は突如体を起こし、周辺の中から俺を見つけると何か聞きなれない言葉を発し始めた。
「うぉああ!生きてた!?いや生きてて良かったけど…!てか、あれ?なんか…怒ってる?」
日本語で問いかけてから気づいたが彼女は日本語がわかるのだろうか…?
白髪だし色白だし、アニメやラノベならロシア人キャラって感じだが。
またしてもそんな二次元脳な考えを巡らせていると、彼女は何かに気づいた様子で聴きなれない言葉を発した。
「__っ!!&)’=*?‘H?*!!」
一瞬、「日本語でおk」とか思ったが。
今度はどうやら俺に言っているという様子ではない。
その様子はまるでRPGか何かの呪文詠唱のようにも思える。
すると次の瞬間、聞き覚えのある言語が聞こえてきたのだった。
「あの…いつまで裸を凝視しているつもりでしょうか…?」
一瞬俺は裸の少女とのツーショットを誰かに見られたのかと思い、一人芝居を見られたと感じたときよりもドキドキしながら周りを見渡すが周りには例の全裸美少女(仮)以外は存在しない。
「…むっ…どこを見ているのですか?こっちですよ…?」
今度こそ声のするほうを見てみると、どうも全裸少女(仮)が喋っていた様だ。
「な、なんだ、日本語わかるのか…よかったぁ…」
俺が間の抜けた返事でそう返すと、少女はいかにも不機嫌そうに答えた。
「いえ…そのニホンゴというのがわかるというわけでもないのですが…変換は上手くいっているようですね…」
変換…?妙な表現をする全裸(略)だな…などと思っていると少女は俺の考えていることを察した様子で
「なんだか今、すごく失礼な呼称を与えられた気がします…」
全裸(略)はこちらの反応に早くもなれた様子であきれ果てながらも続けた。
「あの、もう細かいことはいいのでなにか体を隠す物をかしてもらえませんか…?」
あぁ、そうだよな。
そういえばこの全裸(略)はその名の冠するとおりの全裸だった…
「ていってもこのクソ暑いのに上着なんて…あっ…そういえば」
俺はご都合主義にも服を、しかも女物の服を持っていることを思い出した。
(まあコスプレ用の衣装だけどいいよな…)
「ほら、これを着ていいぞ…」
そういって全裸(略)に服を渡すと全裸(略)は「こちらを見ないでくださいね…!」などと礼の一つも無く、俺に後ろを向くように要求しながら着替え始めたのだった。
「…ふぅ…ありがとうございました。」
暫くして振り向くと全裸(略)は着替え終わったようで、コスプレ美少女(仮)に二階級特進していた。
「いやいや、こちらこそいいモノを見せて頂きました!ごちそうさまです!」
つい本心が漏れてしまった。反省はしてない。
「なんというか…素直に感謝する気持ちになれない相手で困ってしまいますね…」
「いやいや、それほどでもあるぞ?」
「………(はぁ…)」
どうやらこれ以上はド壷に嵌りそうなので気になる本題に入るとしよう。
「なあ…無いとは思うけど、君は空から登場したのかな…?」
できれば否定して欲しいが、彼女の倒れていた位置を見ると、すぐ傍にある背の高い樹の枝が折れ、少女の居たあたりに散らばっているのが見え、それがこの言いようの無い嫌な予感を肯定しているように感じられる。
「…?正確には登上したのではなく落ちた訳ですが、そうなると思います…。」
どうやら俺の登場した、という表現を違った意味に捉えたようだが、話は通じているのでよしとしよう。
「そう…か……それで、君はどうして空から落ちてきたんだ?」
「わかりません…」
「わからないってどういうこと…?」
空から落ちた理由が分からない、それは空から人が落ちてくる意味が分からない俺にしてみれば謎でしかない。
「記憶が…私自身の記憶が、あまり無いようなんです…」
「記憶が無いようなんです…って…なんだか他人行儀な言い方じゃないか」
「いえ、まあ実際、なんだか他人事のように感じているんですよ…?思い出せることと思い出せないことがゴチャゴチャで…なんだか自分が他人であるかの様に感じるんです…。」
「そ、そうか…」
言葉に詰まった。本人が自身を他人と感じているようでは、本当の他人の俺に言えることなんてどれほどあるだろう。
とはいえだんまりといわけにもいかないだろう、とりあえずはこの状況を整理したいところだ。
「記憶が無いとはいうけど、話はできてるわけだし、とりあえず君の名前は?どこに住んでるのかな?」
「名前はわかりません…住んでいる場所もわかりません…ですが、どうやら私は別の世界に来てしまったようです…」
おぉっと…?なんだかすごい発言が飛んできたぞ?別の世界にきてしまった?HAHAHA、それじゃあまるで自分のことを異世界人だと言っている様じゃないか。
すると彼女は見透かした様子で俺の思考に答える。
「私はこの世界ではない別の世界、ザナドゥと呼ばれる世界から来たのだと思います…。」
「…記憶喪失なんだろう…?どうしてそう思うんだ?」
「私の言語は貴方に通じませんでしたから…ザナドゥに置いてあの言語は世界共通の言語ですので通じないということはまず無いはずだからです…」
「でも今はこうして日本語で話せているじゃないか。」
そろそろ俺も頭が痛くなってきた、こっちが記憶飛ぶんじゃないのかなどと思う。
「それは魔法で言語の変換、共通化を図ったからです。」
なんだ、今度は魔法?言語の共通化って…?そんな某ネコ型ロボットの秘密道具の蒟蒻みたいなことができるっていうのか?
なんだかただの痛い設定のオタク少女を相手にしている気がしてきたぞ…?
「魔法っていうけどそういう記憶はあるんだな?正直都合がよすぎて記憶喪失が怪しく感じてきたんだが…」
「基本的な生活の知識は覚えていますから…そういうモノの1つとして魔法を覚えている…ということだと思います。」
「………」
たしかにアニメやゲームなんかじゃ記憶喪失でも日常生活にかかわる記憶だけは覚えている…なんて話はよく目にも耳にも入る気はするが…
「なら魔法を使って見せてくれないか?」
「記憶喪失を疑った後は魔法についてですか…まぁいいですよ、どういった魔法なら信じてもらえるんでしょうか?」
「…そうだな」
俺はふと考えてから、枝が折れてボロボロになっている樹を見る、そうだ、この樹でも治してやってもらおうか。
「君が落ちたときにクッションになって折れてしまったあの樹の枝を治してやったりはできないか?」
少女は樹のほうに視線をやると一瞬はっとした様子になった後、ゆっくりと、確かに頷いた。
「{‘*~~=|~*?>*」
まただ、俺の聞いたことの無い言語で少女は魔法の詠唱の真似事を始める。
しかし俺がそれを真似事と断じられたのはそこまでだった。
「…嘘だろ…?!」
「何が嘘だというのですか…?せっかく治したというのに…」
そう、少女の言うとおり、ボロボロに折れた枝も、すっかり元の樹に戻り治っていたのだ。
こうなってやっと俺には彼女の言う魔法と記憶喪失を信じることができた。趣味のおかげでこの手の展開が見慣れているせいだろうか。
「いや…すまん…嘘じゃない…確かに治ってる、君の言っていたことを信じるよ。」
「そうですか。信じてもらえてなによりです。」
とはいえどうしたものだろう、記憶喪失の異世界からきた魔法使いの美少女というこの短時間で全裸(略)から大出世したこの少女の扱いに俺はほとほと困ってしまう。
ここまでのことを信じたとはいえ、こんな境遇の少女を俺はどう扱うべきなのだろう…。
いつの間にかもう日も暮れてしまっている。
(警察に連れて行くのはこの場合選択ミスだろうな…ギャルゲ的に…)
ならば何が正解かと考えた後。仕方ない、と自分に言い聞かせ、俺は選択した。
「とりあえずこんなところでいつまでも居るわけにも行かないし家に来いよ。記憶もないっていうんじゃ今すぐ異世界に帰るってわけにもいかないんだろ?」
俺は後にこのときの選択を振り返り考える。
俺というヤツは全く本当に不運なヤツだと。
なんて安易に安直な選択をしたのだろうと。
俺は自分がこんな選択をする人間だとは思っていなかった。
アニメやゲーム世界にばかり生き過ぎた俺は、このときすでに彼女を抱え込む覚悟をしてしまった俺は、自ら自分の立つ日常から、非日常に大きな一歩を踏み出したのだ。
しかし振り返る度にこうも思う。
「確かに不運だったが不幸では無い…反省はしてるが後悔はしていない…」と。