(愛嶺×箒+俺)-異界の視線=幸せの終わり.
異世界向け紳士服(上級者編)
で服を入手した俺と愛嶺は転生の楽園の街中をさまざまな露店を物色しながら歩いていた。
「…なぁ?相変わらず目立っている気がしてならないんだが…」
「それはにぃさまと私が、私が可愛いからですよっ♪」
「別に良いが、なんか今、自分の事だけ2回言わなかったか…?」
「気のせいですよ?それにしてもにぃさま、魔法少女がよく似合ってますねっメイクもバッチリ決まってますよっ」
そう、俺はあの後、魔法少女コスをした後、そのままだとあまりに目立つということで、店員さんと愛嶺によって女性らしく見えるメイクを施されていた。
「元が美形だからにぃさまは女装もバッチリですねっ」
「誉めれても全然嬉しくないんだけどな…てか女装した俺と一緒でいいのか?デート的に」
「いいんですよにぃさま、これはこれで百合プレイの属性付きのような気がしてお得感がありますっ」
「そこにお得感を感じちゃってるのかよ…」
相変わらず度しがたい…
「あっにぃさまっ、あそこ!!あのお店、絶対見たいですっ」
にしても愛嶺のやつ、今日はいつにも増してテンションが高いな…せわしないというか、それだけ俺とのデートを喜んでくれてるのか…
「んー?何々?「世界の箒名店」…?ここ、異世界だよな…?」
なんだこの謎の店は、異世界まできてなんで箒専門店…いや確かに元の世界じゃ珍しい部類だし、異世界らしい?とは思うんだが…
「ねっねっ、にぃさまっ、良いですよね?ねっ?」
「わかった、わかったよ…今日は愛嶺が満足するまで付き合ってやるよ…」
「…にぃさま…」
俺のその言葉に愛嶺は頬を赤らめて答える。
なにもそんな、照れるほどのことだろうか。
「…突き合うといっても私には…」
俺の盛大な勘違いだった、この異妹はとんでもないことを考えていた。
「いい…それ以上は言うな…!」
まったく、こんなところでなんという18禁発言をぶっぱなす気なんだこの異妹は…
「そんなことより、ほら、行くぞ、愛嶺」
「はいっ、にぃさまっ♪」
「にしても、愛嶺はホントに箒好きだよなぁ…」
「えぇ、大好きですよっにぃさまの次くらいに大好きです!!」
そういうと愛嶺は気になった箒を手にとっては色々と触ってみたり、掃くように素振りをしてみたり、魔法の杖のように構えたり、魔女の箒のように跨ったりしていた…
「っておい、お前は箒に一体なにを求めているんだ、後半なんかおかしかったぞ?」
「いえ、機能性は大事だと思いますよ?にぃさま。」
「機能性って、箒に空を飛んだり魔法を放つ機能なんて…」
果たして俺は、そこまで言って気づいた。
無いと言い切れるだろうか…異世界の箒だぞ…?なら魔法が撃てたり、空が飛べてもなんの不思議もないんじゃないか…?
「あそこにある箒なんて魔法でゴミを吸引するみたいですよ?まるで掃除機のようですっ」
「…もうそれ、掃除機でいいじゃん…」
確かに魔法の箒はあったけど思ったより微妙だった…。
「ん~この箒、中々いい感じです。こう、掃いたときの感触がなんとも心地いいですっ」
「ふ~ん、箒にもそういう違いってあるんだな?」
「えぇ、なんというか…新卒で将来に希望を持ちながら社会に出たものの、ブラック企業に引っかかって辛い現実という名の壁にぶつかり、徐々に精神が磨り減っていく、現代の若者を使い減らしているイメージですっ」
なんだか凄く具体的な、リアルな感想だ…しかし…
「すっげえ使い心地悪そうなんだけど!?罪悪感しか沸かないよ!!」
「なんだかゾクゾクします…ふふっ♪」
やっぱ病んでる…っていうか黒い…何このギャップ…見た目の白さとは裏腹にとてつもなく腹黒いよ…
「でも私の好みにはちょっと届かないですねぇ…なんというか、にぃさま感が足りません。」
「なんでお前は箒相手に俺っぽさを求めてるんだよ…」
「いえ、にぃさまを使い込みたいとか、にぃさまを磨り減るほどこき使いたいとか、にぃさまが私色に染まるまで使い古したいとか、そういうことではないのですが。それとは別になんだか箒を持っていると落ち着くのです、神仏の巫女だからでしょうか?」
「絶対違うと思う…」
俺のこと都合よく使う気マンマンな気がするのは俺の気のせいですか…?
などと思いつつも、なんだかんだで愛嶺の箒選びに付き合う俺。
しばらくすると、愛嶺は欲しい箒が決まったようで、俺にねだってくるのだが。
「に・ぃ・さ・まぁ~♪わたしぃ~、この箒がほしぃですぅ~♪」
なんだろう、ぶりっこキャラだろうか
ちなみに俺はこう見えて、デレデレキャラは好きだがぶりっこは苦手である。
「愛嶺、その媚びるようなぶりっこを止めないと買ってやらんぞ。」
「あれ?やはりにぃさまはぶりっこキャラがお嫌いですか?」
「キライ…とまでは言わないけどな、やはりというか、好きでは無い。」
「そうですか…では…」
そういって愛嶺はすこし考え込むと、しかし次の瞬間には何かを決めたように頷いて再度ねだって来る。
普通にいつもどおりにねだってくればすぐ買うんだけどな…こんなところは愛嶺ならではの面白さかもしれない。
「べ、べつにこの箒が欲しいんじゃないんだからねっ。でも、どうしてもっていうなら、プレゼントさせてあげなくも、ないんだからっ!」
「今度はツンデレっすか…」
「ツンデレはお好きですよねっ、にぃさまっ♪」
確かに俺はツンデレは好きだ、俺には嫁キャラとかいないけど、それでもツンデレ好き~ではある。
とはいえ、それだけに愛嶺にツンデレは似合わないと思う。
するとそんな俺の考えを察したのか、今度は新しいキャラを突っ込んでくる。
「ねぇ、ゆぅ君!お姉ちゃん、この箒が欲しいなぁ~(チラッ」
今度は姉キャラだろうか…呼称が姉さんみたいになってる。
しかし仮にも義妹だぞ?やはりこれもちょっと無理がある。
…ちなみに俺は姉萌えでもある、てかさっきから妙に狙いがピンポイントだな…?
「愛嶺、別に変にがんばらなくても、いつも通りのお前に頼まれたら、俺は喜んでプレゼントしたいと、そう思うよ?」
「ぁ…う…い、いゃ…その……」
ん?なんだろう。愛嶺の頬が赤い、熱でも出たのか、それとも痛いキャラ作りに恥ずかしさが出てきたのか?
「これは…そのぉ…照れ隠し…というか…ですね…?…素直におねだりするのが…その…あぅ…」
………なんてことだ……義妹がかわいい……だと……
いつも好感度MAXで求愛してくる愛嶺でも、本気で恥ずかしがったりとか、照れたりとかするんだな…
俺は一瞬愛嶺を思いっきり抱きしめて撫で回して愛でまくりたくなったが、そんなことしたら愛嶺ルートが確定して抜け出せなくなりそうなので、その気持ちをぐっと堪える。
「そ、そうか…ん、よし。その箒が欲しいんだよな?買ってくるからちょっと待ってろ?」
「あ…はい……えへ…♪」
くそ、この俺が一瞬でも愛嶺のことを、義妹のことを本気でかわいいと思い、あまつさえ純愛ルート直行しそうになってしまった…。
俺も愛嶺とのデートに、多少なりともテンションとか上がってしまっているんだろうか…こんな魔法少女の格好までしているのに…。
「ほら、愛嶺、初異世界デートの記念だ。」
そういって俺は愛嶺に箒を渡す。
「…ぁ……」
またしても愛嶺の様子がおかしい。
「ん?どういした、やっぱり他のがいいのか?」
「い、いえっ違いますっ、これで、これがいいですっ!!えっと…そうじゃなくて…その…」
「ん?」
なんだろう、何か他に気になることでもあったのか…とはいえ俺には、俺の服装が魔法少女である、ということくらいしか思い浮かばない。
「…あ…の…その……。ありがとう…にぃさま…」
「…お、おぅ…」
そう、照れて顔が真っ赤の愛嶺に言われて、俺は不覚にもまた、「可愛い」とか思ってしまった…。
とはいえそれは、愛嶺が照れながらも素直に礼を言ったからではない。
むしろ基本的にいつも、若干他人行儀にすら聞こえる敬語を交えてくる愛嶺が、「ありがとうございます」ではなく。照れながらも素直に「ありがとう」と言った事に、俺は可愛いと思ったのだ。
まずいな…このままでは今日で俺のほうが攻略されてしまいそうだ…。
「世界の箒名店」を出た後も、俺と愛嶺のデートは続いた、時に冗談を言い合い、照れたり、笑ったり、笑いすぎで泣いたりもした。
そんな感じで、割と普通のカップルのように過ごしたデートも、終わりが近づき、しかしそんな時、俺はようやくあることに気がついた。
…なんだか最初の頃より、周りに見られてる感じが強くなっている。
そしてその視線が、この魔法少女コスをしている俺ではなく、愛嶺に向かっていることにも、この時ようやく気がついたのだ。
「あ~っもうっ楽しいですねっにぃさまっ♪大好きな人とのデートって、こ~んなに幸せな気分になれるんですねっ」
「ん、あ、あぁ…そうだな。」
しかし、心のそこから楽しそうな愛嶺に、俺が上の空で気の抜けた返事をすると愛嶺は今度は心底落ち込んだ様子で、もうすでに泣きそうな顔で俺の顔色を伺いながら聞いてくる。
「…にぃさまは…楽しくなかった…ですか…?」
「いや、そんなことは無い、この俺がアニメやゲームより楽しい事があると思えたのは、もう何年ぶりだったかわからないくらいだ。」
とはいえこれは嘘である、上の空だったから出てしまった、本心に近い嘘。
「そうですか、それならよかったですっ…ふふっ…」
そう、嘘だ。
俺は愛嶺と出会ってから、愛嶺と一緒に居る時間を、ゲームやアニメを楽しんでいるときより退屈だと思ったことなど一度たりとも無い。
愛嶺と一緒にいる時間ほど、幸せな時を、俺は知らない。
「なんだかんだ言って…こんな生活が一番幸せなんだよな…」
「…どうしたんですか、にぃさま?死亡フラグですか…?」
「いやいや、やめてくれよ、心にも無い言葉が口端からちょっと漏れただけだよ。」
「そうですかぁ?ふふふっ♪」
ったく、いいよ、認めてやるよ。
俺の異妹は可愛い、恐らく全世界、全異世界1可愛い。
しかしそんな幸せな時は、先ほどから感じていた視線の理由によって、突如終わりを告げることになるのだった…