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車が急に左折しある建物の中へ入っていく。
西洋の城のような派手な外装、一泊の料金と休憩の場合の料金が書いてある看板
(マジかよ……)
車はラブホテルに入っていった。
遊んでいた脳細胞をフルスロットルで働かせ現在の状況を把握しようとするが、いくら考えても訳が分からない。
すぐに駐車が終わり彼女は「行きましょう」と言いながらドアを開け車から出ようとする。
「ちょっと待って」
僕は出ていこうとする彼女の手首を掴んで引き止めた。
彼女はいぶかしげに僕を見て
「私じゃイヤ?」と言った。
「イヤとかそういう問題じゃなくてどういうこと?」
僕の悪い癖だ、また聞き返してしまった。
彼女は呆れた様な顔をした後なんとか車の座席に座ってくれた。
「どういうことなの? これは、彼のことがまだ好きって言葉は嘘だったの?」
「大隈君さぁ普通フラれた者同士、男女が一緒にいたら男の方から口説くもんじゃないかなぁ?」
「僕はそういうことを聞きたいんじゃないよ、さっきの君の言葉は嘘だったのかい?」
彼女は僕の言葉を聞いて車の前方を眺めながら投げやりに言った。
「わからない」
「わからない?」
その言葉に思わず聞き返してしまう。
「わからないの、彼のことは好きだけど、私から告白するって……馬鹿みたいじゃない。だから目の前にちょっといいなぁと思った人と一緒になった方が楽だと思って……でも」
「でも?」
わからないといった割には彼女の口からは次々と淀みなく言葉が紡がれていく。最初っから決まっていたことを言っているだけなのか……
いや、これは言葉にすることによって彼女の中にある感情が整理されていっているんだろう。話をしていくうちに彼女は自然体に彼女は彼女らしく戻っていく。
「私からこんな場所につれてきてなんだけど。やっぱりごめんなさい……あなたはいい人だし、やさしいし、私のわがままにも付き合ってくれる……でもどうしても彼のことをずっと考えている私がいるの、無駄だって意味ないことだってわかってるけどあなたといてどこかで彼と比べてしまっているの。
私は……私は……やっぱり
彼のことがどうしようもなく好きみたい」
それから彼女はまた泣き始めた。体を傾けてぼくの肩へ頭をのせる。
「ごめんなさい」
その言葉は誰にむけての物かはわからない。ただ彼女の顔は先ほどとは違い憑き物が落ちたような、そんな感じがする。
そうなのだ誰しも自分の感情にフタはできても、自分自身からは、自分の心からは逃げられない。
なぜか今の彼女の泣き顔は高校時代のあの日見た彼女の表情と重なって見えた。