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というわけで僕らは二人で溶けかけのアイスを食べながら海へと向かった。アイスはチューブに入って二人で分けて食べれるやつのファミリーパックだった。車内で運転をしている彼女が言う。
「浮気よ! 浮気! もう信じらんない!」
「別れた理由?」
「そう! 友達にね、あなたの彼氏をレストランで見かけたって聞いたの、でもその日は仕事が行き詰っていて休日出勤するって言ってた日だったの。外に出るような職種じゃないしでもまさかあの人がそんなことするはずがないって思って念のために今度もし見かけたら写メとって送るように頼んどいたの。それで昨日その友達からきた写真がもう決定的なの!女の人と二人でホントに楽しそうな顔しているの、それを問いただしたら浮気じゃないの一点張り! じゃあ何なの?って聞いても言えないって言うのよ! もう頭にきてそれじゃもう別れましょうって言って今日になってもイライラしてたからあそこに買い物に行ったの」
「ふーん……」
アイスをちゅーちゅー吸いながら思った。
彼女の話によると彼氏さんは不器用ながら誠実な人だったようだ。その分彼女は裏切られたことにショックを受けてしまったのだろう。
……でも本当に浮気だったのだろうか?
もしかしたら生き別れの姉と再会でもしたのかもしれないし、今僕がしているように同級生と会って話をするくらいするだろう。そっちの方がしっくりくる。
問題はなぜ彼女に頑なに隠そうとしているかだ。女性と隠れて二人で会っていて浮気じゃない理由も言えないでは信じてもらえないのも当然だろう。
しかし、僕にはその事情がさっぱりわからない。
行先のなくなった思考のようにただ前から後ろへ流れていく道路の白線を見つめながら、僕はぼんやりと僕はいまどこへ向かっているんだろうと思ってしまった。
まぁ海に向かっているわけだけど
その後は特に何事もなく適当な砂浜に到着した。
オレンジに染まる海
水平線へと落ちる赤や黄色に輝く塊を僕らは何ともなしに眺めた。
彼女は着いてから砂浜で体育座りをし何もしゃべらない。僕は彼女の横に立ち、何故塩には匂いがしないのに大量の塩水だからと言って潮の匂いがするんだろう?
とまた訳のわからないことをずっと考えていた。
日も完全に沈みすぐに、ただどこまで続いているかわからない闇と波の音だけが残った。
「帰ろう」
まだ10月とはいえ夜になれば気温は大分下がる。海からの刺すような寒さとしょっぱい香りのする風は自分の身を錆びさせるようで好きではなかった。どうしてもぽろぽろと崩れ落ちかけていく自分の姿が浮かんでしまう。
僕の声は届いたかどうかわからない。ただ彼女は体育座りのまま体を丸めるように座っている。先ほどから何一つ動くことさえしていない。
「帰ろう、このままここにいたら風邪ひくよ」
そう声をかけても返事はなかった。彼女の丸まった姿を凝視し一瞬寝ているんじゃないかと疑ったがそういうわけではなさそうだった。
「大隈君」
ぽつりとつぶやくように彼女が僕の名前を呼んだ。