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「ねぇ? 大隈君聞いてる?」
「うん? ごめん聞こえて無かった」
「あのね、私もうそろそろ帰るね。そういえばアイス買っちゃってたんだった。はやく帰らないと溶けちゃう」
確かに彼女の大量の買い物袋の中には食料品らしきものがあった。
――――その時―――
その時ちょっとした気まぐれが起きてしまった。今振り返ってみると僕らしくないが、僕は目の前にいる彼女についての変化や違和感について興味を持ちすぎたのだろう。
「持つの手伝うよ」
「ありがとうほんと助かる。じゃあ車までお願いしていい?」
僕は一番重いであろう飲料の入った袋と本の入った袋を持ってあげた。彼女の背中を追いかけ車まで運ぶのを手伝う。途中に会話は一切なかった。彼女は心ここにあらずといった様子で空の方を見つめながら歩いていた。
「ありがとう大隈君、じゃあね、次の同窓会はできるだけきてね? また会いましょう」
「あぁ 行けたら行くよ」
車に荷物を詰め終わった後お互いに挨拶を交わした。しかしいつまで経っても彼女はうつむき立ったままで車に乗ろうとしない。
「どうしたの?」
心配になって声をかけてみる。
「……ごめんなさい」
「なにが?」
「なんか今日は迷惑をかけたみたいで……私本当はいつもはこうじゃないの」
突然の謝罪にも驚いたが顔を上げた彼女は泣きそうになっていて不意を突かれた僕はさらに驚いてしまった。そんな僕には構わず彼女は続ける。
「昨日、彼と……付き合っている人とちょっと喧嘩して……気晴らしに買い物たくさんしちゃって……本当いつもは私こうじゃないの。ちょっと頭が混乱してて……休みの日にゆっくり本を読んでいたのに邪魔だったでしょう? だから、ごめんなさい」
早口なうえに鼻かんだ声でしゃべったのでうまく聞き取れない部分もあったが、要するに彼女は昨日彼氏とちょっとではない喧嘩をして気晴らしにここへ買い物をしかも大量にしに来た。まだ心の整理がついていない状況で偶然僕を見つけてしまいいつもの状態だったら邪魔しては悪いと思い話しかけないだろうがうっかり僕に話しかけたりしたことを今このタイミングで我に返って申し訳なくなった。そう伝えたかったらしかった。
なんというか、僕は僕が一番嫌いな言葉をつい言いそうになる、思いそうになる
(やれやれだ)
「全く迷惑なんかじゃ無かったよ」
「いいの本当ごめんなさい」
彼女は僕の言葉を遠慮か社交辞令と受け取ってしまったらしい。
「僕も実は今朝ずっと付き合っていた人と喧嘩して別れたところなんだ。気分を変えようと思っていつもは来ない喫茶店でいつもは本なんか全然読まないのに読書していただけなんだ。要は気分さえ変えれればよかったんだから久しぶりに会った昔のクラスメイトと話せてよかったよ。ありがとう」
「それ本当?}
彼女は疑いの眼差しをこちらに向けてきた。
「もちろんだよ、僕がそんなつまらない冗談を言うようなやつに見えるかい?」
彼女の眼差しは変わらなかった、嘘か本当か判断がつきかねているらしい。しかし、小さくため息を一つ吐き考えるのが面倒になったとでもいうようにこういった。
「ねぇ? それじゃ一緒に海でも行かない?」
「海? いつ?」
「今から」
「今から!?」
「今からよ」
彼女の顔は真剣だった。
「今からふられた者同士海へ行って心を癒すの。いい考えだと思わない?」
そう言われて少し迷う。正直行きたくないが断る理由が見つからなかった。いろいろ考えてみたが逆になんで行きたくないのかがわからなくなってきたので困った。最後のあがきとして一言言ってみた。
「アイスは大丈夫なの?」
彼女は車の中の袋を覗いたあとにっこり笑った後言った。
「大隈君冷たいの好きでしょ?」そのまま彼女は車に乗り込んだ。
……なんとまぁ……まぁいいか
僕は観念し車のドアに手をかけ一言返した。
「好きだけどね冷たいの」