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その日の午後僕は別の喫茶店にいた。喫茶店と言っても今の時代そんなたくさんいい喫茶店があるわけもなく、ここは大型ショッピングモールのテナントで入っている有名なチェーン店だ。
僕はあの後そのままいつも通りの一人の休日を何事もなかったように過ごすのも彼女に対してなんだか悪い気がしたため、僕は普段読まない本を書店で買い、一日に2軒違う喫茶店で過ごすという普段しないような休日を過ごすことにした。
取り敢えず普通のコーヒーだけ頼み、席に着いた後、本を開く。
題名だけで選んだその本はどうやらジェブナイル物だったようだ。
主人公の女子高生は町にある古びた図書館で同じ年頃の不思議な少年と出会う、その図書館を中心に様々な出来事が起こり、二人は仲を深めていく。
時が経つのも忘れ読みふける。
物語も終盤に差し掛かりで図書館に火がつけられ火事になってしまう所で僕は不意に名前を呼ばれた。
「大隈君?」
ふと目を上げるとそこには茶髪の若い女性が立っていた。その両手にはおそらくこのショッピングモールで買ったであろう服や、化粧品、雑誌、食料品などがいくつも大量に握られていた。
「大隈でしょ?! 久しぶり! 私のこと覚えてる?」
そのセリフから同級生だろうなと予想を付けた。ふむ……確かに学生服でもなく髪型も変わっているがその顔には見覚えがあった。しかも、僕は人の顔や名前を覚えるのが苦手なのだが、幸運なことにその女性の名前はすぐに思い出すことができた。
「鳥井さんだよね、2年の時一緒のクラスだった」
「よかった! 覚えててくれて、一人? ねぇちょっとここ座ってもいい? ちょっと疲れちゃって」
「どうぞ」と僕は向かいの席へ手を差し本を閉じた。
図書館がどうなったかはわからない。
「大隈君この間の同窓会来てなかったでしょー? けっこう集まってたよあの時」
「仕事が忙しくてね」
「へー今どんな仕事してるの?」
忙しかったというのは嘘だった。一か月前に希望休を伝えておけば普通に休みがもらえただろうが、僕はそれをしなかったし、同窓会の通知も返信せずに捨ててしまった。みんなで過去をほじくり返すようなネガティブなイベントには関わることさえ面倒臭かったからだ。
それから彼女は同じクラスだったであろう人の名前を次々に挙げ結婚しただとか、仕事を辞めた、転職した、子供がいて今二人目ができたなど報告してきた。
正直、名前を聞いてもほぼ顔が浮かんでこない。そんな奴いたかなぁ?位の記憶しかなく、全く興味もない話だったができるだけ懐かしんで興味深そうに話を聞くフリをした。そして、話をしていると違和感があった。
僕が覚えている高校時代の彼女はこんなに喋る人間では無かった。そりゃあ社会に出れば人は変わるだろうが、今の彼女は空回りというか空元気というか……妙にかみ合っていない。
彼女の心や感情、行動などどうもちぐはぐな気がする。他人の心の機微には人一倍無頓着ではあるのでこういったことに気付くのはかなり珍しいのだが、これには理由がある。
それは高校二年の春まで遡る。