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 僕にも行きつけのバーというものがある。たまに美味しいお酒が飲みたいことが僕にはあってここにくればそれが必ず飲めるのだ、しかもその時の気分に最適なものを。

バーなんだからあたりまえだと言われればそれまでだが、何事も基本が大事だ。

それにいつも適度に空いているのもこの店を気に入っている理由の一つだ。今日はまだはやい時間の為か、カウンターには僕とマスターしかいなかった。

 まず軽く一杯静かにグラスを傾けながら思い出した。

今日別れ際に鳥井さんから貰った紙袋だ。

終わったら見てもいいと言っていたのでもう見てもいいだろう。

そして、僕は袋の中の物を取り出して見てみると息を飲んだ。


「……これは」


そこにはサイン色紙に小さなメッセージとともに見覚えのある懐かしい絵が描かれていた。



学生の頃、僕が自分の机に盛大に描いたはずのあの……ツキノワグマだ。




僕は思わず笑ってしまう。その絵の下には小さく


お礼をずっと言えなくてごめんなさい。ありがとう

                      鳥井


と書いてあった。

 あの時した行動が、あの海岸でのことや、今日手を貸したことが……決して間違っていなかったんだと。僕は小さい存在だけど少しくらい生きる価値があるんだよと。生きててもいいんだよと誰かに言われた、そう感じてしまった。

 一人その色紙を見て静かに笑っていると不意に声をかけられた。


「やっぱりいいことあったみたいだな、兄ちゃん」


気が付くといつ店に入ってきたのか隣に男性が座っていた。しかし、やっぱりと言われても僕はこの男性を知らなかった。


「思わず声を掛けちまったよ。この前喫茶店で喧嘩してただろ? あんた」


「あぁ あの時の……」


それで思い出した。鹿島さんに別れを告げられたあの日「いいことあるよ」と声を掛けてくれたサラリーマンだった。


「俺の言う通りだっただろ? な?」 


「えぇまぁ」


その答えを聞いて男は満足そうにうなずいた。


「マスター俺とこの兄ちゃんに一杯ずつ頼む。俺のおごりだ」


「いえ、そんな悪いですよ」


「遠慮するなって! そのかわり……なぁ? 何があったか聞かせてくれないか?」


そういわれて困った、一体まず何から話せばいいんだろう? と戸惑っていると


まぁまぁ!! 無理にとは言わないから! 取り敢えず乾杯しようや!」


マスターが出してくれたのは青みがかかった緑色のカクテルだった。


「「じゃあ、乾杯!」」


たまには知らない人間と二人で飲むのも悪くない。


まだ耳にはあの祝福の音楽が残っている。


この外ではまだみんな歌い踊り祝福しているような気がした。


世界中がみんな誰かの為に何かを頑張っている気がした。


そういう風にして世界は廻っているんだと、世界はそういうことで溢れているんだと思った。

乾杯した後、カクテルを一気に飲み干し体中が満たされていく。


「あぁ」


そして僕は思った。



なんて幸せな日なんだろう。











 

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