10
そして、いよいよ彼女の誕生日――
僕は朝から精一杯彼女をエスコートした。午前中は服を選び昼食は予約していたお洒落な店でコース料理を食べ、その後エステに行き、今は髪型をバッチリ整え、服を着替えているのを待っている最中だ。
こうやってやってみるとあっという間だった。僕のエスコートはとてもじゃないが気の利いたものではなかったが、店のチョイスが良かったのだろう彼女は大分楽しんでいてくれているようだった。
全ては友人のおかげだな。こんな店僕も来たことなかったのに、何で知っているんだろう。なんか申し訳ない気がしてしまった。
そこで僕はまた無駄な思考をする。今は運命なんて言葉は流行らないが、ちょっとそういった存在を考えてしまう。彼女と僕が再会したのは偶然だ。しかし、その一点さえ除けば、仕組まれているとしか思えないような流れができてしまっていた。もしあの場所で彼女と出会っていなければ全く違った結末が用意されていただろう。しかし、まるで最後のピースがはまるように僕たちは出会い、今、僕はここにいるわけで…… 自分たちではどうしようもない大きな流れのようなものを今回感じぜずにはいられない……。
まぁそれが単なる偶然、自然現象でも、偉い誰かが作った運命とやらでも僕はそれに従うにやぶさかではない。それによって誰かが幸せになるんなら僕は喜んで協力しよう。僕は基本、世間一般の人と同じく誰かの幸せな姿を見るのが好きなのだ。
そこで彼女の準備が終わったようだ。
「どうかな?」
彼女は近づいてきて言った。彼女の一言に僕はすぐには返せなかった。今の彼女を形容する言葉を僕が言うのがはばかれたからだ。だが何か言わなければならないし、別に悪口ではないと思い、見たままを口にした。
「すごく綺麗だよ」
自分で言ってちょっと恥ずかしかった。これではまるで恋人みたいだ。しかし、彼女は「うん、ありがとう」とだけ答えた。どうもあたふたしているのは僕だけのようだ。彼女の方はこれから行う彼への告白で頭がいっぱいのようだった。
今夜、彼氏さんはここの近くの公園に来るように言ってある。その公園を中心に放射状に商店街がありいろいろと準備してから歩いて行ける距離ではその公園が条件的に一番だったのだ。
「大隈君……」
彼女が思いつめた顔で問いかけてくる。
「大丈夫かな? 私?」
「大丈夫だよ、僕が保証する。少なくとも彼氏さんは絶対君が結婚の告白しても断らない」
僕は珍しく断言してみた。
「でも……」
それでも彼女は不安そうだった。まぁ僕の言ったことだ、信じてくれるはずもない。
「でもじゃないよ、もっと気楽に行きな。ところで彼が結婚の告白をOKしたとして今度は君はどうするのさ? 彼の浮気がまだ許せてないんでしょ?」
「どうして今そんなこというの?」
泣きそうになっている。大分弱気のようだ。今日一日一緒に過ごしてわかったがどうやらこっちのちょっと弱気な彼女が素のようだった。
「まぁ大丈夫。君なら許せるよ彼をほんとに……本当に何も問題はないんだ。だからもう少し笑顔で堂々としてくれよ。僕はそのために今日一日頑張ったんだぜ? だから君もあともうすこしだけ頑張ってくれよ」
「……うん、がんばる」彼女はうなずいてくれた。
「あっ! これ」
彼女が持っていた紙袋を差し出した。
「あげる」
「なにこれ?」
僕が中を見ようとすると手で遮られた。
「まだ見ちゃだめ。終わってから見て」
そういわれるととても気になるが……まぁ僕は楽しみはとっておくタイプなので我慢できるだろう。僕はわかった、とだけ返事をして袋を受け取った。
「ありがとうね」
物をもらって逆にお礼を言われたのでつい聞き返したしまう。
「なにが?」
すると彼女は何がおかしいのか急にクスリと笑った。
「なにが? っていうのが大隈君の口癖なのね」
「ぼくは賢くないからね。それが何に対してなのかわからないことが多いんだよ」
「うそつき」彼女はまた可笑しそうに笑った。
「とにかくもうまとめて全部お礼言っとくね。本当にありがとう」
人からそんなに感謝された経験がないので戸惑ってしまった。取り敢えず僕は「どうも」とだけ返した。
「もし彼より先に大隈君に再会してたら私大隈君に惚れちゃってたかも?」
「もしもの話をしてもしょうがないよ」
「そうね、しょうがない」
それ以上話すことはなかった。彼女は大分緊張がほぐれた様だった。
「じゃあ私行くね」
「あぁ いってらっしゃい」
彼女の眼には確かに何か意思のような光が灯っていた。
そして僕はただ決戦へ行く彼女の後姿をただ見つめ続けた。




