歩く。
薄いピンク色だった。
何がって?
パンツの色が、だ。
今俺は、見ず知らずの女の子に馬乗りになられて首を絞められている。
そろそろ死にそうだ。
女の子は嬉しそうに笑っている。
俺を殺せるのが嬉しくて仕方が無いんだろう。
訂正。
人を殺せるのが嬉しくて仕方が無いんだろう。
誰でも良かったんだ。
きっと。
さて、どうしてこうなったのか?
状況を整理してみると。
……やはりさっぱりわからない。
何か俺の知らない間に、恨まれるようなことでもしたのだろうか?
………。
酸欠で頭が回らなくなってきた。
どうやら俺は理由もわからず殺されるらしい。
だがまあ、それもいいような気がしてきた。
思えば人生、理不尽なことばかりだった。
最後にこうして美少女の手で理不尽に死ねるのなら、まあそう悪くはない終わり方だろう。
未だ童貞であることだけが唯一悔やまれる。
さて、ところ変わってここは死者の行くところ。
まあなんとも寂れた場所である。
鬱蒼と生い茂る彼岸花を踏み潰して歩く。
ひたすら歩く。
いや、歩かせられる。
足を動かしているのは、俺の意思ではない。
ところで、歩いているのは俺だけではない。
もう少し右。
んで下。
そうそう、そこだ。
流れるような黒髪の女の子が見えるだろう。
どうやら会話することは許可されているらしいので、俺はどうして俺を殺したのかを聞いてみた。
特に理由はない。
彼女が俺に応える理由もないらしく、返事が返ってくることは無かった。
もうずっと歩き続けている。
足が重い。
いや、寧ろ軽い。
感覚が無いのだ。
一体どこに向かっているんだろう。
そんな風なことを聞いてみると、意外にも返事が返って来た。
どうやら特に目的地は無く、これから俺たちは永遠にここを歩かせられるらしい。
ひたすら歩きながら話をし続ける日々が続いている。
日にちなんて概念が機能しているかどうかなんてわからないが。
そうだ。
彼女は昔と比べてよく喋るようになった。
好きな動物はなんだとか、アイスクリームの味は何が好きだとか、そんな、くだらないけれど二度と体験出来ないようなことばかり、俺たちは話し合った。
それで、一通り話し終えると、彼女は思い出したようにむすっとした顔で黙りこくる。
これがまた可愛い。
どれだけ歩いても風景は変わらなかったが、少しずつ変わっていく彼女を見ていると、俺は心の底から幸せを感じた。
ある時、彼女は急に泣き出した。
ごめんなさい、ごめんなさい。
そんなことばかり呟いていた。
許す。
そう言ったら、別にあんたのことじゃない、と、そう言われた。
それ以来、俺の視界に彼女が映ることは無かった。
という夢を見た。
一人きりで不味いメシを食い散らかして、誰の役にたつのかもわからない作業に没頭する。
そうして疲れて帰ってみると、冷え切った家が出迎えてくれる。
そしてまた、あの夢を見れないかなだなんて恐ろしい事を考えて布団の中に潜り込む。
「何度でも殺してやるわ。
…別に、あんたのためじゃなくて、その、一人で歩くのはつまんないから」
そいつはありがとう。