cm8
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(直人の)親友の場合。
親友は、多分どこにでもいる高校生だった。特に特徴もない。まあ直人にとっては面白い奴で、彼とは話があった。親友は特に高校も休まない。まじめな奴。むしろ直人のほうが不真面目。・・・特には不真面目でもない・・・か?
親友が両親を殺害する前、直人はその予感がしていた。
「おれさ。両親と最近仲悪いんだ」
親友が帰り道でそう言った。なんの脈略もなしに突然こぼすように。直人には親友からそんな感じはしなかったので、喧嘩でもしたのだろうとしか思わなかった。そういえば、直人も先日両親と喧嘩したばかりだ。だから、直人も両親と仲が悪いといえば悪い。でもそれはいつものことだ。
「俺も、昨日両親と喧嘩したな。まあ、いつものことだけど」
思い出すと帰るのがめんどくさくなった。でも時間を潰す術もない。まっすぐ帰るほかない。それも、いつものことだ。
「おれ、多分仲直りできない」
親友はいつもそうだ。物事をやる前から決めつける。悪い癖だけど、直人も似たり寄ったりな部分もある。ただ、直人は親友よりもはるかに楽観的だ。嫌な想像、悪い勘。いろいろなことを考えていても始まればすぐに今までのネガティブな感情は忘れ、立ち向かう。
だからなんだかんだ言っても親友の肩を叩いて慰めた。
「あんまり深く考えんなよ。そんなの一時の事さ。・・・すぐにどうでもよくなるよ」
親友は下ばかり見ている。肩を叩く直人のことを見ようともしない。歩調は同じなのだが、見ようともしない。そんな体勢で出た言葉は、辛うじて地面に跳ね返り、直人の耳に届いた。地面にぶつかった衝撃で砕けなかったのはこの上ない幸運だったのだろうか?
「そうかな・・・。そうだよな」
ほとんど消えかけた言葉、それが最後の会話だった。本当の意味で、親友との最後の会話だった。その日のうちに、親友は両親を殺害。自らも自殺を図るも失敗。
ホントか嘘かはわからない。ここからは人づてに聞いた話。親友は両親を残酷に殺したらしい。刃物でめった刺し。死んでも刺し続けたという。まずは母親。父親は会社だから、帰ってきてから殺したのだそうだ。検死結果ってやつ?それで死んだ時間が分かるらしい。殺しの順番はいかにも単純なことだった。事件が発覚したのは親友が両親を殺害してから警察に電話をしたため。自分で殺しておいて、どういうつもりだったのだろうか?
親友が、そこまでした理由はなんだろう?つまりなぜ、殺さなければならなかったのだろうか?そんなに追い詰められていたのか?そんな予兆じみたものはなかったように思える。あまりにも突然だった。何かに影響されたのか、感化されたのか?
三上は言う。
「本当に、漫画やアニメ・・・そんなものの残酷な描写や表現に悪影響を受けて、人は人殺しまでするものだろうか?偉い人たちが言うことが果たしてすべて真実になるのか?君はどう思う?」
皮肉がかった問いかけに、集中するように視線を下げてゆっくり考える直人。時間はたっぷりある。この時点で一日はまだ半分しか過ぎていない。時計もやっと一周を終えたところだ。普通の奴なら一番活発な時間帯。三上もそれは例外ではない。いつものように静かな佇まいをしているが内面は活気に漲っている。しかし面白いことにここにはその、数少ないはずの少数派の例外も存在していた。もはやいう必要もないほどに、それは直人のことだ。
「何が原因なのかは分からない・・・です。偉い奴らがいうことも一理あるといえばそんな気がするし、家庭環境や学校などの生活によるもの・・・原因なんて山ほどあるよ。そんな中で特定のものを選ぶだなんて・・・無理だ。選べない。」
考えをまとまらないうちから直人は吐き捨てた。選べるはずがない。何に影響するかなんて、生きていれば何にでもぶつかる。なんだって影響する。ヒーローにだって悪にだって、友達にだって、他人にだって、家族もテレビも歌手もタレントも芸能人にも大富豪にも貧乏人にも政治家にだってもしかしたら影響するのかもしれない。関わった者・・・関わった物なんにでもだ。
「そうだな。人は生きている限り、影響もするし、影響もさせる。してしまうし、させてしまう。そうだな。誰でもそうなのだ」
三上も若干、疲れてきているようだ。そりゃそうだ。2人は今、人が人を殺すことを真剣に話あっている。2人とも頭の中がぐちゃぐちゃだ。はっきりはしていた。だが、どす黒い気分になり、やっぱり頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「・・・ちょっと待てよ。先生。ちょっと待ってくれよ」
直人は三上を強い形相で睨み付けた。三上はその眼を黙って見つめ返した。目を見ながら顔を見て、そして感情や心を覗き込んだ。その見透かしたような瞳に、直人は目をそらしかけるも、負けまいと三上を見透かそうと試みるたが、全然見えなかった。
「なんだい?何を・・・待てばいいんだ?私は、君に意見を聞いてるんだ。元々。初めから・・・君に聞いているんだが?」
三上は、優しさを感じるほどに静かな口ぶりだ。でも、きっと怒っているだろう。三上は怒れば怒るほど、それを隠すように優しくなる。本質を他人に見られるのを嫌っているのだろう。怒れば怒るほど、冷静になり、呼吸も整い、万全といえる態勢になる。すぐに謝罪の意を相手が示せば、その怒りは簡単に流れるだろう。だが、一度その怒りに火が付けば、相手は身も心も完膚なきまでにボロボロにされるだろう。例え、相手が格闘技の天才だったとしても、凶悪犯罪者だったとしても、天才の学者などであっても、彼の怒りには勝てそうもない。
直人はその真逆だ。感情は感情ですぐに表に出す。隠そうとなんかしない。隠し方なんか知らないのだ。直人ももちろん例外ではない。三上を怒らせればすぐに敗北してしまう。分かっていながら無鉄砲に怒りをぶつけてしまった。ぶつけなければ当たらない。
「・・・先生のその口ぶりだと・・・誰にでも殺人の可能性があるってことじゃない・・・ですか!?なら、今まで生きてきた、生きてきて学んだことは意味がないってこと・・・かよ?小学校で習った道徳は?今まで培ってきた経験は?モラルは?学んできたものは全く意味がなく、影響されたことに左右されて善人にもなれば悪党にもなっちまうってこと・・・そう言いたいのかよ!?」
直人の思いをしっかりと聞き入れる三上は、決してはぐらかしたり受け流したりはしない。
「だから、影響はあくまで影響だといえる。今、君が言ったようにほとんどの人間が教育というものを受け、悪さをすれば罰を受けるということも知っている。メリットとデメリットを無意識で考えるから、デメリットの多いものはしない」
まあ当たり前のことだ。デメリットを求める者は少ない。ならば、犯罪者はその通りにデメリットを好む変態ばかりだというのか?
「それでも、犯罪を犯す理由は?」
三上は分かったような顔をしつつも、横に首を振った。
「理由は犯した者にしかわからんよ。結局は私たちの話は(仮)にすぎないのだから」
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