cm5
読んでくれればうれしいす(@_@)
「なんでこんな年になってまで、わざわざ殺すんだろうねー?」
やれるときはいつでもあっただろうに。そう言いたげな口調の父親。時刻はPM9時。父親である加藤信夫ももう帰ってきていて、夕食を食べながらニュースとこじんまりとしたつまみを肴にビールを飲んでいる。その後でゆっくり一人だけとろとろと夕食を食べる。それはいつものことだから誰も気にしていない。テーブルだけは一回きれいに拭かれている。
信夫は言葉を切ったが、続けて『なぜ今になって殺してしまったんだ。何故我慢できなかったんだ』と言おうとしていたようなニュアンスが残ったが、誰にもわからなかった。口に出してもいないのだから無理もないし、気にもしていない。
「ねえ、聞いてるの?」
直人は漫画を読んでいたし、夫はニュースに夢中だ。なので、二人ともまったく晴美の話なんて聞いていない。母は探らずとも見て取れる態度に腹を立てているというよりは、構ってほしいらしい。
「なんのことだよ、母さん?聞いてないから」
夕飯を食べたにもかかわらず、直人は棚からポテトチップスを出して、食べながら漫画を読んで笑っている。ポテチの味はうす塩。晴美は怒りよりも呆れながらテレビを指差して説明し始めた。信夫は2人のやり取りなど気にもせず、2本目のビールを飲んでいる。実にうまそうに飲む。いつも息子に勧めるも、その都度、息子には拒否される。分かっていても勧めては拒否される。息子は酒が嫌いなのだ。
「そんな事件の事なんて気にしなければいいだろ?何かあるのか?」
晴美はもう45だ。45のくせに息子の前で若ぶっているのか、3センチほど前に口を尖がらせている。誰も見ていないので文句は言われなかった。ちなみに、父、信夫は48だ。
「そんな言い方ないでしょ。大事件じゃないの。母親が息子に殺されるなんて、かわいそうじゃないのさ」
息子はなおも無関心そうに漫画を読みながらポテトチップスを口に運ぶ。ポテトチップスで漫画が汚れないようにする方には関心があるようだ。指先に神経を尖らせ、ポテチを挟む面積を最小に抑え、なおかつ手をよく拭いていた。もっともページをめくる指は、使っていない指で行っている。
ニュースに無関心な息子を見て、晴美は深いため息を吐いた。その様子だけは直人の癇に障ったらしく、少しムッとして母親に向かって言う。あくまでも関心さは保ちながら声の高さは変えなかった。
「あのねー、俺はいちいち60になってまで母さんを殺す気なんてないよ。大体、80になった(自分の場合は母は85だけど)母さんを殺すなんてアホのすることだろ?そんなアホのニュースを見る方がおかしい。馬鹿だ馬鹿」
信夫が鼻で笑った。珍しく息子に便乗して意見を言ってみた。聞いていたことも珍しい。ビールも入って少しおちゃらけている様子だ。
「そりゃそうだな。直人の言う通りだ。そんな歳で親を殺す奴なんて馬鹿としか言いようがない。だったら今殺せばいいだろ?なあ、直人。じいさんになってから殺すんだったら若いうちのほうがよっぽど清々するよな?じいさんになって、それまで真面目に働いてきて(この犯人がそうだかは知らない)、年金貰える歳になってきて、そうまで生きといて人を殺すってことがなんなのか分からないわけじゃあるまい。けけけ。そんな馬鹿野郎のニュースなんざ見る価値はない(とはいえ、自分はしっかりと見ている)」
両親には聞こえないぐらい小さくため息を吐く。こんな親を殺したところで何の意味もない。それどころか、そんな無意味なことをして自分は警察に捕まるのだ。本当に馬鹿げている。トップリスク、マイナスリターン。
「そういえば、少し前は14歳とか未成年のニュースが多かったよな。最近は減ってきて、今度は年寄りが事件起こすか」
信夫は無関心そうにしているが、本音は会話したくてたまらないようだ。ポテチを口に運ぶ直人は父親の言葉には答えない。というか、漫画が今面白いところなのでよく聞こえなかった。目とめくる指だけはしきりに動いて、彼の耳も登場人物たちが放つセリフを必死になって音声化している。聞こえているわけがない。しかたがなく母親である晴美が答えた。
「そうね。ニュースにも殺人事件にも流行り廃りがあるのかもしれませんね。不謹慎だけど」
ぽりぽりとポテチを食べる音と、ごくごくビールを飲む音と、ニュースを読む声だけが聞こえる。静かではなかったが、ものすごく静かになった。
「もうさー、チャンネル変えてもいい?」
沈黙を破る一言に、父親は呆れながら言葉を垂らした。
「お前はテレビ見てないだろ」
ため息だけが、家族であることを確認するように3つ見事に揃った。無意味なシンクロ。
今日、直人は三上に呼び出された。理由は分からない。分からないなんて言えば、なんと真面目で自意識過剰な学生だ。なんて思われるかもしれないけどとんでもない。理由が1つに絞れないという意味で、分からないと言ったのだ。
読んでくれた方ありがとう(@_@)また見てねー(^^)/




