CM2
読んでくれればこれ幸い(@_@)
デートの待ち合わせ場所は横浜駅。特にこの場所が好きとか嫌いとかはない。休日で、ほかにもいろいろなやつが街をうろうろしていたのが失敗したって思ったぐらい。それでも早めに来た男は、いつものようにイヤホンを耳に当てながら、音楽とは全くリズムを合わせない通行人たちのことをぼんやりと眺めながらその中に彼女を探していた。その幻が実体化するのだから、文句などあるはずもない。
ギリギリに来てはいちいち直人の心情をきにする彼女の名は奈美恵。容姿は月並み・・・というのは俺の遠慮からかもしれない。客観的に見れば、誰かから『お前程度が贅沢言うな』なんて聞こえてきそう。今はその顔も何もかもが好きだから、奈美恵を測る物差しなどとっくに壊れてしまっている。ただ不満があるとするならひとつ。奈美恵の体が細すぎた。身長は160センチぐらい。直人の背が172センチなので、奈美恵の身長は直人の目測だ。体つきも直人は大してスポーツなどはしていなかったので中肉中背。それに対して、奈美恵はダイエットが趣味?と思えるぐらい細かった。今じゃ常識なのか?それとも直人が何にもしないで美意識にかけているのかな?知らん。
親友の両親の葬式。息子に殺されたのだから、そんなに大袈裟にやるものじゃないけど、俺は顔を出した。閑散としていたきがするけど、それは後付けのイメージかもしれない。ぼんやりとした記憶だから、よく覚えていない。何故、こんな葬式に出なければいけないんだ?ただそう思っていた。俺は、そのときもこれからも、葬式なんて行きたくもなかった。想像すらしていなかった。親友の葬式?馬鹿げてる。そんなこと考える馬鹿がいるか?いない。でも、現実になった。
死んだ人は棺桶にいたと思うけど、その場にいた人たちはみんな幽霊のようだった。まるで存在感なんてない。俺も、きっと他から見れば幽霊だったんだと思う。歩く。人間によく似た顔も見えない幽霊。葬式にでも行けば、何かわかるかもしれないと思ったのかもしれない。周りの幽霊たちも、同じ心境だったのかもしれない。幽霊同士、なんかのシンパシーで伝わるものもある。行って分かったことは、よく知る親友の親がただの写真となって飾られていたこと。収穫は以上。誰とも話もしないので往復の時間も全く変化なし。
「どうかしたの、今日は少し元気なさそうね」
奈美恵が心配そうに直人の顔を覗きこんだ。直人はストローでジュースをゆっくり啜る。視界が記憶から現実に戻ると、親友の両親の写真が、オレンジジュースの鮮やかなオレンジ色に変わり、ゆっくりと空になっていくコップは透明な色へ、氷と、ストローだけに変わっていく。音もなく啜られていたのに、空になればズズズと、耳に不愉快な音が立ち、飲んでた直人が不快な顔をした。これが現実の音だ。記憶には音がなかった。
「・・・ちょっとね。今日はあまりいい日じゃないんだ」
奈美恵は「私と会ってるのに?」なんて言ってわざと怒ったような顔を見せる。直人はその様子に「あはは」と曖昧に笑う。少しだけ上の空だ。現実に心を持ってこようとはしているけど、なかなか難しかった。
死なんて、あまりにも非・日常的だった。どのような死でも、どう対応すればいいのか分からない。ましてや殺人事件なんて。しかもその犯人が俺の親友だなんてありえない話だ。マスコミってやつも俺のところに取材にも来たが、意外とあっさりしていた。
俺も、そっけなかった。でも、正直、親友が殺人犯になってしまったことには恥ずかしいと思う部分もある。自分もそう思われているのではないだろうか?それが恐怖だった。でも、どこかやっぱり他人事で、終ったこととして、日常の記憶の中に消えていった。
人は、その時まで寿命以外では死なないと、どこか思い込んでいるような節があった。車に轢かれれば当然死ぬ。ナイフなんてちっぽけな刃物でも刺されさえすれば死ぬ。銃の弾なんて小指よりも小さい。そんなものが当たっただけで、あっけなく死ぬ。しかしそれは、映画や海外や、ましてや隣町の出来事だけの話であり、自分や自分の周りの人間なんてなんやかんやでじいさんになって、家庭でも作っていて、孫などに看取られて死ぬ。
人間なんてそんなもんだと思っていた。だから、思い出すと体がぶるっと、震えはしたものの、それは一時的なことにもならない。
年間・・・月間・・・毎日・・・毎秒・・・世界で何人も死んでいく。そんなものは漫画だけの話だと思っていたし、それが漫画の話ではないと悟った瞬間、俺は自分のことがどれだけ幸せだったと気が付いた。でも、同時に、死というものが普通に俺にもあるものだとも知り、恐怖も感じた。当たり前すぎて感じなかった恐怖と幸せが、こんなにも身近に感じられた。そこの曲がり角を曲がっただけでも死ぬかもしれない。でも生きている。ありがたくも怖かったのだ。
読んでくれた方、ありがとう(@_@)これからもよろしく




