CM12
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奈美恵の場合。
今さら言うまでもなく、本編の主人公、加藤直人の彼女である。同じ大学、同い年。出番は少ないし、直人との関わりもほとんどない。ヒロインとはいえ脇役の彼女がそんなことを感じることは微塵もないと思うが、万が一でもそんな感情を彼女が抱いているとしたら困るので、そのことをここに記述しておこう。
奈美恵、少しやせているがまだダイエットをしようとしている美に熱心な普通の女の子だ。直人のことは好きだし、当たり前だと思うが直人一途だ。ただ、直人からメールが返ってこないことには素直にイライラしている。返ってこないと言ってもたったの1日の(時間に換算すれば24時間経っていない)話だがそれだけで彼女には重罪だ。
「直人の奴、何やってんだよ。また・・・三上の奴と一緒に何かしているんだろ。あの二人・・・怪しすぎる」
携帯の画面を見ながらメールが来ないか待った。下着姿でベッドに横になる。携帯を置くと、天井のライトが目に入り、まぶしかった。
「・・・・んんーーーもおおおお」
目の前にはライトしかない。直人がいないのはさびしい。イライラするのもそれが原因だ。直人の匂いが鼻に感じた。なんの香りだったのか、似た香りを感じ、直人に抱かれたことを思い出す。寂しい。指で触っていても寂しさは紛れない。直人じゃなきゃダメだ。幻でもない。実物の直人じゃなきゃいけない。
「・・・寂しいよ。・・・もおおお、メールぐらいしなさいよ!!」
メールでもそのままそう打った。送信。携帯を滑らせるように枕の隅に置いた。そのまま続きをしよう。ほんとに、ひとりでするのはさびしいというのに。
奈美恵も、そこまで不細工ではない。むしろ、きれいな方・・・普通?月並み?まあ、不細工じゃないと自分では思っている。きれいといえばきれいだ。そんな奈美恵も振られた経験だってある。まあもちろん直人ではないけど。それは高校の時だ。
高校のときは直人と奈美恵は同じ高校ではない。直人と出会ったのは大学に入ってからだから当然だ。
高校の時の奈美恵は、まだまだ子供だった。誰かと付き合おうとか、そういったことには疎かった。ましてや、援助交際などの体を売るような事なんてしようとすら思わなかったし、そんなことに奈美恵を誘うような友達もいなかった。している友達はいたようだけど。
直人と付き合った時も実は処女だった。直人も(もちろん!!強めて言うけど)童貞だった。だから、当然互いにいろいろ下手くそだったし、互いにのめり込むこともできた。直人にとっても奈美恵にとってもそれはよかったと言える。
ただ、高校時代の奈美恵は今とは少し違っていた。いろいろなことに疎かったのはさっきも言ったが、何より外見が随分違っていたのだ。今よりも10キロほど、体重が重かった。それでもデブという訳ではない。むしろこの時点でもやせ気味といえばそうだった。気にしているのは彼女だけで、直人はむしろ、昔のほうの彼女がより好みだと思う。
ほとんど裸で眠る大人の少女。木の枝のような体で力強く生きている。少女からは少し無理なダイエットによる異臭と、大人の体からはシャンプーの香りが漂っていた。
直人は常々、奈美恵に言っていることがある。
「やせすぎ。もっと飯食えよ。骨っぽいよ」
笑いながらいいつつも、笑いの中に本音を忍ばせているが奈美恵は気が付かない。冗談を言われていると思っているのだ。抱かれた後に抱かれながら直人に言われる。お尻が好きらしいが如何せん、彼女のお尻はないに等しい。胸は、それでも少しはあるが、これまた小さい。脂肪がないのだから仕方がない。奈美恵は抱かれていることも、触れられていることもうれしかったのだが、直人の口癖のようないつものしつこさには内心で頭に来ていた。ほんの少しだけだけど。
「直人だって、直してほしいところいっぱいあるんだから。それを言わないでいるのよ、こっちは。だから、しつこいわよ」
本当は彼の全部(まあ許せる範囲で)が好きな彼女には口に出しておいて直してほしいところなんて特にはなかった。でも、うるさいので適当言って答えをはぐらかす。あ、一つあったわ。うるさいところをもう少し直してほしいわ。
「まあ、でもこれ以上はやせないでくれよ」
ため息交じりに、優しくそういいながら奈美恵の髪の毛を少し香りながら、彼は少年の面影を大人の体に宿しながらすやすやと眠ってしまった。奈美恵にしてみれば、直人のほうがもっとやせてもいいと思っている。そんなに肥満ではないと思うが、やっぱり直人も太っていると思う。
「自分だって、もう少し痩せた方がいいですよーだ」
べーと舌を出しながらかわいく意地悪くしてみせた。こんなかわいい仕草、見せてあげないんだから。なんて思っている間に、2人して眠りに落ちていた。
夢に出るは高校のときの奈美恵。彼女はここで人生最大の勇気を振り絞った。初めての恋、はじめて好きになった彼に、生まれて初めての告白をしたのだ。
忘れもしない。秋風が少し冷たくなってきた頃。紅葉の香りが辺りを埋め尽くしてきた頃、街の風景も黄色や赤に変わってきていた頃。新学期が予定通りに始まってすぐの頃。
夏休み中、奈美恵は友人にずっとこの悩みを相談してきた。友人も、こうまで思っているなら、もう告白するしかないと思っていし、揶揄するわけでもなく、本心から励ましてくれていた。その気になるのは時間の問題だったのだ。
奈美恵は、恋も何もあまりしてきていないけど、決して消極的な女の子ではなかった。むしろアグレッシブだ。常に先手必勝、自分から動く。青春だった。この恋愛も一つの青春を盛り上げてくれるピリ辛いスパイスのはずだった。
「なに?話って」
友達と協力して初恋の人を呼び出した。校舎の裏ではないが、あまり人が来ない校舎の影。お膳立てをした共犯者は結末を知りたかったがデバガメを決してしなかった。
「どんな場所にいても、学校特有のにおいがする」
緊張と不安を消すために大きく深呼吸をした奈美恵は一人、そんなことを思いながら初恋の人が来るのを待っていた。
「・・・はあ」
空を見る。足元ばかり見ていても何も変化のない地面しか見ることができないので、待っている間、空を見ることにした。
空は、周りと違って秋ではなくいつもの青空だった。少し、白みがかった秋っぽい青空だ。赤さは微塵もない気持ちのいい青空だ。
『これから』来る結果は『これから』が来ないと分からない。けど、この行動に、自分の行動に今は後悔していない。後悔はなんにでもついてくる。しかし、それは必ず後にやってくる。失敗も成功も後悔も喜びも、事を起こした後の結果だ。何もしないでも来る後悔には一番出会いたくない。
「頑張って奈美恵。頑張って」
一人で待っている間にできることは精一杯の独り言だけだ。それも励ましの独り言。自分を奮い立たせることができるのは常に自分だけ。普段は自分のことを名前でなんか恥ずかしくて呼ばないけど、今は私が奈美恵を励ましているんだ。強張って体が熱くなっているからか、吹く風も寒いのか暖かいのか分からなくなってきた。時間も空間も、どこにいるのかも何をしようとしているのかも、分からなくなってきていた。
うれしくもないのに笑顔になり、哀しくもないのに号泣しそう。頭の中がグルグルしすぎてパンクしそう。意識は頭の中にあるのに、外にまで出てしまったようだ。髪の毛が風でたなびく。撫でられているような打ち付けられているような、もうよくわからない。いい加減、早く来いよ。
「奈美恵、連れて来たよ」
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