cm10
お・・・おもしろいよ(@_@)
直人の言い方は、少々ガキっぽく不貞腐れた感じになってしまった。俺もまだまだ大人げないと、素直に反省した。(そこは大人だろ?)親たちも心を読んでか軽く笑う。どんなに鈍感かもしれないけど、今、小ばかにされているのは分かる。けど、こんなことでは直人は怒らない。飯もさっさと食い終わり、直人はすぐさま風呂に入った。食事の前から入れといたのだ。保温はばっちり!!
「はー、熱い」
湯船につかり、熱が言葉を押し出し、体全身に広がる。寒気が外に出て行ったのか、腕にはびっちり鳥肌が立ってすぐに消えた。どこ見るともなくお湯を見る。なんか疲れたな。湯船は体を屈折させて溶けるようにぐにゃんぐにゃんに歪んでいる。お風呂は疲れを癒すようだが、癒されたのか眠くなってきた。
「ここで眠ると、本当に死んじまうんかな?嘘くさいな」
試しに口まで潜ってみた。今さら、幼少の自分から幾度も体験してきたことを無駄に繰り返す。当然何も起きない。鼻でも呼吸できるんだから当たり前。安全の中で試している、いわばペテンだ。ならばと、今度は鼻まで入れてみた。
「ご・・・ゴぼボ・・・ぐは」
死にかけましたぁ。当たり前だ。呼吸ができないんだから死ぬわ。俺は馬鹿なのか?時々思うが、多分正解だろう。せき込んでお湯を少し飲んで、鼻水と涙を撒き散らしながら必死に呼吸を探した。空気はどこだと死に物狂いで探しに探した。口に入った水のせいでいつまで経っても空気がどこだかわからなかった。吸いたいのに出そうとする人間の機能は相反して咳を撒き散らしてますます呼吸困難。馬鹿なことをしたと直人は本気で思った。助かってから気が付いた。人は死ぬ。くだらないことをして哲学的なことに気が付いた。ギャグのような展開に思わず笑いそうになったが、まずは呼吸だろ!ますますバカだな。
風呂場で死にかけたというのに何事もなかったようにしれっとした顔で直人は着替えて眠ることにした。疲れた。死にかけると疲れる。生きていても疲れるというのに、死にかけると益々疲れてしまう。こんなことに気が付くなんて、今さら気が付くなんてなぁ。なんてはずかしい。
ベッドに横になると、今この瞬間に起こっていた九死に一生の出来事など頭の片隅に、ベッドにすら持ち込まず、すぐに眠くなった。寝る前に一応携帯を見た。何時なのかも知りたかった。まだ9時半にも手前だ。それ以上に最悪なのは、奈美恵からのメールがさらに2通増えていたことだ。無視しているようで怖くなったけど、読む気にもなれなかった。何故なら眠いから。ただそれだけ。三上からの本も、今は読めない。むしろ読もうかな。簡単に眠れるぞ。かんた・・・・・・・
もう朝だ。
三橋良子の場合。
良子は恋をしていた。相手は同じ学年の男の子。彼はサッカー部の部長・・・などではない。ましてエースでもない。良子はサッカーを好きでもなければ嫌いでもない。ただ同じクラスのサッカー部の男の子に恋をしていただけ。
彼には、あまり声をかけることができなかった。席も離れていたし、あまりにも接点がなかった。授業中に彼のことを見つめていることもできない。良子は前で、彼は後ろ。運が悪いのかなんなのかもわからない。こんなな席にした席替えに心底腹を立てるも、元々席替えをする前から彼とはバラバラの席だったので今さら感はある。嘆いたことは確かだけど。
授業が終わってから彼と接触してみようとしたことも1度や2度ではない。毎日が狩人のような生活。でも、彼は放課後すぐに部活に行ってしまうし、彼女には彼に合わせられるような話題も持ち合わせていない。
同じ教室にいながら、席が少し離れているというだけで初めから別々の教室だったほうがまだ救いがあるのだ。良子には協力者もいない。自分の気持ちを親友にすらも話していないから、後ろ盾はいないのだ。
「良子?どうかした?」
今日の外、彼を探すわけでもなくぼんやり街と空の境界線にある雲を見つめてため息をついていると、良子の友達が心配そうに声をかけて来た。話はしていなくても顔に出ていたのかな?隠すのが下手。少なくともため息は隠そうよ。私って馬鹿なのかな?心の中だけで反省することにした。その心模様を表に出したらまた心配される。それはよくない。
「ううん。なんでもない。私、なんか変な顔でもした?」
しまった!!言って今のセリフを友人の耳に届く前に消しゴムで消しさろうとしたがもう遅い。今ので変な顔をしていたと自分で気が付いていると相手に気が付かれなかっただろうか?良子は変に心配するも相手は思いのほか素直で、良子の言葉にほっと胸を撫で下ろしたようだ。良子もその様子を見てほっとした。
声もかけられない恋があるだなんて。誰にも言えないもどかしさ。こんなにつらいだなんて。悲劇のヒロインはかっこいいだけかと思っていたのに。知らなかった。恋なんて、簡単に解決すると思っていた。簡単に始まるか、簡単に終わるか・・・そのどちらかだと思っていた。まさか、そのどちらでもなく始まりもしないだなんて思いもよらなかった。
恋って、なんだろう?着替えながら良子は考える。片思いって恋なのかしら?部屋に一人いるとなんだか考えてしまう。
ドキドキするこの気持ち。ワクワクとも違う。うれしいのに心の下の方には怖さがある。いつもはすぐに好きな歌を流すのだが、そんな気分にもなれないなんて。確かに、恐怖が存在している。その恐怖のせいで、こんなにも行動を制限されるなんて。
始めることもできない。終わらせることもできない。我慢しなければ、涙が流れてくる。こんなことは初めてだ。
終わらせたい。どんな結果でもいいから、この状況を終わらせたい。私の体と心・・・協力して連結して動いてほしい。いっそ終わってもいいから。怖い。でも、ワクワクする。
彼のことを考えてばかりいる。何をやってても上の空。教室で一緒に居る時が一番おかしくなりそう。私の気持ちが気が付かれたら・・・そう考えると彼を見ることができない。と、彼の顔を見つめては、すぐに目をそらす授業中が一番もどかしい。振り返るのは明らかに不自然だ。誰にも気づかれたくないから、妙に授業にも積極的に参加する。頭に入らないけど、無理やり入れて集中して熱心なことを発言してアピールする。
出来れば、いつも隣で一緒に・・・。それだけで、良子は幸せだ。それは、すでに恋人同士・・・じゃなくてもいい。彼に良子の気持ちが伝わなくてもいい。今はただ、例え席だけでも隣同士でいられれば・・・それでいい。それが今の本心の願いだ。
「やっぱり何かあったの?」
良子の友達は、心配性だ。優しい顔で良子を心配してくれている。でも、今はその優しさが煩わしくうっとうしい。良子はその心配を無視した。無視してないように振る舞いながら無視した。こんな気持ち、友達にはわかるまい。それでも、しつこく聞いてくるのでしかたなく適当に答えた。
「なんでもないって」
答えになっていない。
「・・・はあー」
しまった。またため息が漏れてしまった。ため息を聞かれれば、ますます心配されてしまう。それは問題。問題というよりも、ますますめんどくさくなってしまう。その予感は的中した。なんでもないって言っているのにますます問い詰めてくる。
だから、言えないの!空気読んでよ、察してよ。友達でしょ!?
「もう、私帰る!」
友達を置いて部屋を出た。寂しさから友達の家に無理行って遊びに来たっていうのになんつう我が儘。友達は今日、他の予定を断ってまで私に付き合ってくれたというのに。小動物のようなすばしっこさで逃げたから、友達は不意を突かれ(ついてやったのだ)、すぐには追いかけてくることはできなかった。追いかけてくる者がいる気配は一切ない。最悪は最悪だけど、これで安心だ。
「・・・でも、一人でいたくないな」
読んでくれた方、ありがとう(^^)/




