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しーめる  作者: kippy
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CM1

よろくし

高校3年の時、俺の親友が両親を殺して自殺した。自殺は未遂に終わったけど、そいつは今でも刑務所内で懲りずに自殺を繰り返している。そいつは、ほんとの親友だった。一方的なものだったかもしれないけど。高校にも、俺よりはまじめに来ていたし、育ちも・・・よくは知らないけど悪くはない。

親友が、一家残虐をする前、おかしなことを言ってるな。当然する前の話。親友の家にも行ったことがある。横浜の一軒家。俺たちが住んでいるところは特別、都会ではない。都会に近いだけで、田舎。そのままの意味でその時、家には母親がいた。親友は一人っ子だった。だから、遊んでいても時々、親友のわがままに振り回されることがあった。彼には悪気なんてなかっただろう。

母親も、きっと単に俺が客だったから優しく接してくれて、どこの家庭にもある誰もが思うこと。俺は親友がうらやましく思えた。自分の母親もこんな母親だったらどんなによかったことか。自分の母親を想像してみた。親友の母親のようにいい香りもきれいな顔立ちもしていない。どこにでもいるただのおばさんだ。うっとおしく心配したりするところが本当にうっとおしい。親友の家に遊びに行くたびにいつも思った。

「あら、真人君。こんにちは」

「お・・・おじゃまします」

インターホンでちゃんと名乗っているのに、親友の母親はいつも俺のことを見て初めて気が付いた感じであいさつをする。俺はそのやり取りの答え方がいつもわからず、どもって応じてしまう。玄関は広くも狭くもなく、靴の棚には花が置かれている。何の花かは知らない。その香りなのか、作り物の香りなのか、玄関はいつもいい香りがしていた。少し苦手ないい香り。母親の後ろから、親友がいつもの感じで出迎える。俺じゃなけれが絶対に訪問者の相手などしないような、そんな意思が見えた。俺と同じでいちいち人が来るたびに対応するのがめんどうくさいんだろう。そういう所も気がある要因だったのかもしれない。多分普通の家族。

加藤直人。今はもう大学に通い始め、すでに2年生となっていた。初めの1年から、ダラダラと大学に通う劣等生。特にやりたいことも見つからず、大学に来たのも、特に興味も学びたいこともあったわけではない。友達が行くから行っただけ。適当に大学に通い、適当にバイトをして、適当に毎日を生きていた。

1年間で直人が学んできたことは、大学への道のりだけだったのかもしれない。人付き合いだって悪い方ではない。でも、大して知り合いも友人もできなかったし、無理に作ろうとは思わなかった。講義ですれ違う人たち。彼らを観察するも、どこか自分とは違うように思えてならなかった。みんな、どこかお決まりの大学生に見えたし、大人にも子供にも思えた。そう思うと、自分は何様なんだって思えてきて自虐的に笑ってしまう。表には出さないから周りから気味悪がられることもなかったけど、他の学生たちとは勝手に壁を作ってしまっていた。

電車に乗り、他人と反発しながらもがっちりとぶつかる。磁石のN極とS極が同時に反応しているみたいだ。毎日、他の人たちはこんなことをしながら電車に乗っていく。この先に降りる駅があっても、これを繰り返すだけの価値がその駅で待っているのか?価値を見出そうとするとおかしくなって犯罪を犯すものだって出てきても不思議じゃない。この痛みの見返りは、よっぽど下落しているのだ。それでも、この箱から苦痛を乗り越えて飛び出す人の群れは、希望を笑顔にこめて働いたり、自分たちの業務に打ち込んでいくのだろう。表には出ないもの。それを文字通り、この電車の中に置いて行くのだ。帰りにはしっかりと回収するのだから、帰りも同じような顔つきで人々は電車に乗って帰っていくのかもしれない。

カレンダーを見ると、昨日まで進んでいた数字が止まり、あの日がゆっくりと近づいてくる。親友が両親を殺害した日。最悪な記念日。その前日、明らかに親友の様子、挙動と言えばいいのだろうか・・・親友の挙動、言動がおかしくなっていたのを顧みれば思い出す。いつもは冗談で話をするが、その日のそれは、冗談などではなく、テレビで出てくるような明らかな精神異常者のようだった。うまくは説明できない。だって、それは思い返してみればそう思うことであって、その時は気にもしていなかったことだから。

おかしくなった日と、その前日の境。彼に一体何があったのだろうか?直人は、決行の前日には親友に会っていたが、その前一週間は全く会わなかった。連絡もまったく。高校は同じでも、彼らの教室は3年になってから別々になっていた。そこは学校側の考えがあったのか、単なるくじ運の問題かなんて知らない。

普段はそれでもメールなどでのやり取りぐらいはあった。でも、それもぱたっと途絶えてしまった。単に忙しいんだな。と、適当な解釈をしていた。教室はすぐ近くでも、会わないときは本当に会わないものだ。どちらも休んでいたという訳ではない。なんとなく。互いに別の友人もいたし、なにも親友だからと2人きりで遊ぶばかりではない。あくまでも親友なだけだ。だから、その一週間で何かあったのかもしれないが、直人にはそれがなんなのか皆目見当もつかない。もしかしたら全く関係ないのかもしれない。見当すらつかなかった。

「おまたせ・・・って、待った?」

今日はデート。大学2年にもなって、やっと彼にも彼女ができた。今日の格好は、流行の服装で、直人にはよくわからないけど、とてもよく似合っていたし、手に下げた小さなカバンも彼女のかわいらしさを引き立てていた。彼女とはバイト先で知り合い、何度か一緒に仕事をしているうちに、なんか付き合うこととなった。あとから「直人君とは大学でも一緒なんだよ、実は」と言われたときには本当に驚いた。驚きすぎて10センチほど飛び跳ねてしまったことを思い出すと恥ずかしくなる。

正直、顔に関してはタイプではなかった。嫌いでもない。話していくうちに段々と互いに好きになっていき、今では仕事以外の日にもこうしてデートをする仲にまでなっていた。

「え・・・いいや。全然待ってないよ」

仕事以外出会うのはもう何回目か?分からないくらい会っている。それなのにデートのときはいつもそう聞いてくる。直人は純粋に早く会いたいから時間よりも早く来るので、彼女より早くに着いているだけのこと。待っている気も待たされている気もない。だから、さっきの言葉に偽りも裏表もない。彼女は時間ぎりぎりになって来るからいつも気にしているようだが、正直、彼女が遅れて来ようが何しようが、来てくれれば問題はないのだ。


読んでくれた方、ありがとう(@_@)

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