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輪廻

作者: 夏目はづき

 ここはどこだろう?

 僕は誰だろう?


 僕という人は四角い箱のようなところにいて、その場所は窓と言うところからオレンジの明るくて暖かい光が入ってきていて、心地よい感じがする。そして、その空間にはクッションのついた椅子のような出っ張りや掴むためにあるのか取っ手のようなものがぶらさがっていた。

 僕は考えた。ここはどう言った所で僕は何故ここに居るのか、と。平時でも揺れ、景色が移り変わる。揺れはなんだか心地よく、眠りを誘うものであったが、僕は寝たりしなかった。何故か、僕はここで待っているような気がした。それは何かを僕は確かめたいと思った。でも、考えても分かるはずがなくて、僕は色とりどりの文字や絵が描かれている紙がエアコンからの風でゆれる天井を見て、呟いた。

「僕はどうしてここにいるのか。」

そんな問いに誰が答えると僕は思ったのでしょうか?

「教えてあげようか?」

そう言った目の前に居る僕以外の人という存在は無邪気に笑って言いました。


あまりにも突然に、彼は現れて言いました。

「君は向かっているのさ。」

「どこに?」

「それは言えないな…。でも、君が今まで見た事のない素敵な場所だよ。」

そう言われて、僕が考えられる限りの素敵な場所を考えてみました。でも、僕はまだ、素敵な場所と思える場所を見た事がないので、全然見当もつきませんでした。彼が言う素敵な場所はどんなところなのか、僕には分かりませんでした。

「僕ももうすぐそこに行くんだ。」

「君も?」

僕がそう彼に聞くと、彼は頷いて、うん、と答えました。

「僕もまだ直接見た事は無いんだ。だから、その場所を見るのが楽しみ。」

とても楽しそうに、嬉しそうに彼が言うものだから羨ましくて、僕も行けるのか不安になって聞いた。

「そこには僕も行けるの?」

すると彼は笑って、

「行けるよ!きっと行けるさ!」

と言ってくれた。僕は嬉しくて、笑って、

「うん。」

と頷いた。

 すると、ガタンと大きな揺れが起きて、心地よかった揺れが止まってしまった。彼はその変化に笑って喜ぶと、

「僕はもう行かなくちゃ。」

と彼が言うと、下車口と書かれた扉がガチャンと開いて、彼はその扉に歩いて行った。

「また会える?」

と聞くと、彼はどうだろうねと苦笑いして言った。

「その場所はとても広くて、とてもたくさん人が居るから。」

僕は会えなくなるのは寂しいと言うと、彼はそうだねと頷いて言った。

「でも、会えることだってあるんだ。会いたかったら一生懸命探して僕を見つけてよ。」

と彼は言った。僕は不安になって、ちゃんと見つかるか彼に聞いたら、彼は笑顔で、

「君ならできるよ。」

そう言って、彼は僕の頭を撫でた。人に撫でられたのが初めてだった僕はとても心地よい感覚に嬉しさを感じた。

「じゃあ、バイバイ。」

彼はそう言い残して、素敵な場所と言うところに行ってしまいました。

 僕は自分の行くところが素敵なところなのだと学びました。


ガタンガタン

 僕だけを残して、僕は彼の言う素敵な場所に向かっていました。一人は寂しかったが、素敵な場所のことを考えていれば寂しくはありませんでした。

 僕は素敵な場所をどんな場所なんだろうとずっと考えていました。きっと、素敵な場所なのだから素敵な物が溢れているのだと僕は思いました。きっと、心地よい場所なのだと思うと早く僕も行きたいという気持ちが強くなりました。

「素敵な場所か…。」

そう呟くと、

「違うよ。」

と言う声が聞こえました。目の前に居る彼女は、彼と同じように無邪気に笑いました。


彼女は彼と同じように突然現れて言いました。

「君が行く場所は素敵な所なんてところじゃない。もっと別のところだよ。」

彼女は笑いながら言った。僕は、

「どうして?彼は言ったよ?僕が行くところは素敵な場所なんだって。」

と聞いた。彼女はまだ笑い続けていいました。

「全然違うよ。この電車とかいう乗り物はね、素敵な場所なんて向かってないよ。私が見た限りでは、最悪だよ。醜くて、汚いところだよ。」

僕はびっくりしました。彼はちゃんと素敵な所に向かっていると言っていたのに。

「本当に?」

「うん、本当。」

「そこは、どんなところなの?」

と僕は聞いた。彼女は少し考えて、

「私もまだ直接見た事がないから、良く分かんないけど、素敵な場所ではないよ。」

「なんで?どうして、みたことがないのにそんな事が言えるの?」

と、僕が聞いたら、彼女はまた考えた。そして、分かんないと答えた。

「上手くはいえないけど、なんだか、夢を見るんだ。」

「夢?」

僕が聞き返すと、彼女は頷いた。

「その夢はね、自分がこの乗り物でどんな所に行くのか分かるんだって。でも、私の夢は全然素敵な場所でも何でもなかった。だからね、きっと君も素敵な場所ってところには行けないんだと思う。」

彼女が段々浮かない顔をしてきた。僕は慰めようとしたけど、何を言ったらいいか分からなかった。

「私、ここから出たくないな。だって、この外は醜くて汚い世界だもの。」

彼女はついにぽろぽろと涙を流し始めてしまった。彼女は僕の方を見て、

「ねぇ、なんで何も言わないの?」

「僕は、まだ何も知らないから、君に何て言って慰めたらいいのか分からないんだ…。」

というと、彼女は納得して、ふーんと相槌を打って、

「いくじなし。」

涙声の小さな声で、そう呟いた。


僕たちが乗る、僕たちをある場所に連れていくためのこの乗り物は電車というらしい(彼女が言っていた)。電車には僕と彼女しか乗ってなくて、彼女がすすり泣く声とこの乗り物が動く音だけしか聞こえません。僕は何もせず、彼女の前で座っているだけで、彼女もただ泣くだけ。

僕には分からなかった。彼が言っていたことと彼女が言っていたこと。どっちが本当のことなのかとずっと考えていた。でも、考えても、考えても分からなくて、でもう知りたくて考えて、でも分からない。最初に逆戻りなのが、少し僕は悲しかった。

しばらくすると、電車は大きく揺れて、止まった。そして、下車口と書かれた扉がまた開いた。きっと彼女が行かなくちゃいけない番だと僕は思いました。なんとなくだけど、僕が行くのはもう少し先だもの。でも、彼女はいっこうに座ったままで、動こうとはしませんでした。

「ねぇ、なんで行かないの?」

「行きたくないから。」

そう言って、彼女はそっぽを向いてしまった。

「ねぇ、行かないの?」

「行かない。」

彼女は膝を抱えて丸くなった。僕はこういう時どうすればいいのか分からない。でも、僕は意を決して、彼女に言った。

「君は、君が今から行くところはそんなに嫌なところなの?」

「行くんだったら、死んだ方がまし。」

そう返事が返ってきた。僕は、

「じゃあ、どんなところか見たことはある?」

「ないけど、嫌なの!」

と、怒鳴り散らし、さらに丸まり、縮こまってしまった彼女に僕は言った。

「でも、それは違うんじゃないかな?」

と言ってみた。彼女はそう言われたのが驚いたのか、飛び起きて、

「なんでっ!」

と涙をぽろぽろ出しながら言いました。僕は彼女にだって、と笑顔で言ってやりました。

「まだ直接見てもいないのに、勝手に決め付けるのはおかしいでしょ?」

言われた時、彼女は驚いて、目が点になりました。そんな驚く彼女を見て僕は、

「まだ直接見てないんでしょ?もしかしたら、君が思うほど醜くくないかもしれないし、汚くもないかもしれないじゃないか。」

と僕は言った。自分では慰めたつもりであったけど言ってみると、慰めた感じがしないし、彼女は俯いてワナワナ震えていた。僕は失敗したのかなと思った。すると、彼女はバッと顔をあげて、笑顔で言った。

「そうかもね。」

彼女は下車口に向かって歩き出した。彼女の足は震えていたけど、確実に行こうとしていた。彼女は、下車口の前で小さな声で、

「バイバイ」

と言ってくれた。でも、僕はもう一つの言葉を聞き逃していた。彼女が本当に行く前にバイバイより小さな声で、ありがとうと言っていた声を。


ガタンガタン

 僕はまた一人になってしまいました。彼女にはあんなことを言ったけど、正直、僕は不安でいっぱいでした。

僕はここで二人の人に出会いました。一人はとても幸せそうで、僕の行く先をとても素敵なところなのだと言っている人。もう一人はとても不幸そうで、僕の行く先をとても汚くて醜いところなのだと言っている人。僕はまだ僕の行き先について何も知らないから、どっちが本当で、どっちが嘘なのか僕には分からない。僕はどっちが本当だと思えばいいのでしょうか?僕は考えていると、突然、

「すいません、僕はどこにいくのでしょうか?」

と話しかけられてしまいました。


彼や彼女のように突然現れた、小さな子。流石に三人目もなると、僕もまたかと思いました。

「君は?」

と目の前に居る子に聞く。聞かれて困った目の前の子は、おどおどと答える。

「えっ?え、えーと、何なんでしょうね?自分でもよく分からなくて…。気がついたらここに居ました。」

困った顔の目の前の子に僕は、

「そう、僕もだよ。」

と言った。目の前に居る子は苦笑いをして、

「これ、どこに向かっているんですかね?」

と僕に聞いてきました。僕は黙り込んで、小さな声で、

「僕にも、分からない。」

と言いました。目の前に居る子は、え?と言って、首を傾げました。僕は、目の前に居ることに言いました。

「ここに来た人から聞いたんだ。素敵な場所で、汚くて、醜い場所なんだって。良く分からない場所なんだよって言ってた。」

僕は膝を抱え、溜め息をつきました。目の前に居た子は、笑って言いました。

「ああっ!それって、世界のことですね。」

目の前に居る子は、それはもう嬉しそうで、僕はどこがそんなに嬉しいのか分からなかった。

「世界って、何?」

「世界は世界ですっ!広くて、素敵な場所であり、汚くて、醜い所なんです。」

なにそれと言いたくなる気持ちを抑えて、僕はさらに聞いた。

「なんでそんなに嬉しそうなの?」

「だって、僕たち、今から世界に生まれるんです。新しい命として。」

言われた瞬間、吃驚したと同時に特に驚いていない自分が居ました。僕は必死に理解した。

僕はやっと、分かった。僕が何を待っていたのか、僕が誰なのか、何故ここに居るのか。すると、目の前の子は、

「全部、答えは出ましたか?」

と優しく問いかけました。

「うん。なんか、あっさり分かっちゃって、逆にびっくりしちゃったや。」

自分があんなに迷ってた答えがすぐに出て。そう僕が言う前に、ガタンと大きな揺れが起きた。

 電車は止まり、下車口が開いた。目の前に居た子は笑って、

「君の終点ですよ。元気でね。」

と手を振ってくれた。僕も笑って、手を振った。

「出来たら、また会えるかな?」

と言ったら、その子は首を横に振った。僕は寂しくて涙がでそうだったけど、笑顔で別れなきゃと思い、笑顔を保とうと思って、無理やり笑顔にしたつもりになった。でも、きっと僕の顔はいびつで、歪んでいることだろうけど、僕は一生懸命力を振り絞って言おうとした。

別れの言葉を。

「バイっ…バ、イっ…。」

「バイバイ。」

ほら、笑わなきゃ。あの子はちゃんと、笑っているよ。

僕は一生懸命笑った。


オギャア、オギャア

 元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてきて、あたりがさらに騒がしくなった。

「元気なお子さんですよ!」

と赤ん坊を母親に渡して、赤ん坊は初めてみるお母さんの顔をまじまじと見て、赤ちゃんはご機嫌よく笑いました。そう、まるで…。

 こんにちは、お母さん!

と言うように。



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