干渉お断り
すみません、また趣味に走ってしまいました。
私は結婚9年目の主婦です。
子供は遊びたい盛りの8歳の息子と、4歳になる娘がいます。
そして肝心の夫なのですが、その夫の事で今日は相談があります。
私と夫は、元は同じ職場で働いておりましたが、上司の勧めもあり、お見合いと言う形をとり、周囲に勧められるがまま婚約、結婚し、翌年には子供も授かり、もう一人欲しいなと思っていた頃合いに娘も授かり、まぁまぁ、順調でも満ち足りた平凡な幸せを築いていると思っておりました。
ですが最近その夫がおかしいのです。
私は何度も目を覚まして欲しいと懇願しました。
異世界から召喚された神子など、どこの馬の骨とも知らぬ女に心を奪われてはならない。それくらいなら妾を囲って下さいと。
ですが夫は年甲斐もなくその異世界から召喚されたと言う黒髪の娘に夢中になり、心酔し、今では家にも帰ってきません。
そんな夫を子供達も徐々に呆れ(最初は夫を庇っていたのですよ。)てきたのか、今では夫の顔すら覚えてないようです。
そんなの当然ですよね。
父親は自分達より他の存在に心を奪われたのですから。
私と息子、娘達はそれでも2年は我慢しました。
今はちょっと私達の事を忘れているようだけれど、いつか自分達の所へ帰って来てくれると。
ですが流石にもう限界です。
私と夫が離れ離れになって、今年の花の月で丸2年になりました。
そこで私は国が定めた法により、婚姻の破綻を申請したく、今回のこの様な不躾な書を認めたしだいです。
一度は生涯を誓いあった相手ですが、もうこれ以上あの人を待つことは出来ません。
どうか国法およびヴィアル国教会法王様が御定めになった、《2年以上の白の婚姻》に基づき、私と夫の離縁をお認め下さる様、宜しくお願い致します。
二ルへミア伯爵家夫人・ルウラ・イブルス
その手紙を読み終えた男は、自分よりも前にその手紙を読み、そのショックにより今にも死んでしまいそうなほど顔色を蒼褪めさせている、己が最も信頼している側近になんと言葉をかけるべきか迷っていた。
尤も、彼以外にもその被害者はいるのだが。
長年かけ、やっとの事で婚約の約束を取り付けた相手からの婚約破棄に始まり、婚姻の無効に出家の申請。
婚姻の違約金は要らないから、籍だけを抜いてくれと、次々と届く申請書。
それもこれも全てが異世界から神子が召喚されてからの事である。
確かに異世界から召喚され、我が国に降り立った神子は麗しく、儚げで、そのくせ神通力は近代稀に見ぬ量ではあったが、所詮は異世界人。
この国の仕来りに馴染もうとはせずに、自分達の世界の考えを押し付けてくるばかりか、国のあり方を揺るがす事ばかりの猛言の数々。
そして、今回の離縁状の相手である彼へ恋情。
神子の力は神子本人の精神からなる神聖なる力と我が国では古くからその様に伝わっている。
それ故に今の今まで、この事態を静観してきたが、もうここが限界なのだろう。
男は彼の名を呼んだ。
そして命じた。
「ニクス、お前を今日で以て俺の護衛騎士長としての任から外し、暫くの間謹慎とする。――他のお前らもだ。」
「陛下、ですが、」
男-この国の王から直々に命を下されたニクスは、反論を試みたが、やはり妻に捨てられる方が怖いのか、国王に頭を深々と下げ、執務室を出るなり駆け出した。それを見ていた死にかけていた他の男達も、それに続けとばかりに、男の執務室から慌しく出て行った。
それらを全て見送った彼は。
「これで良いか、神よ」
《――よい。これでこの国は二度と異世界からの干渉は無くなるだろう。苦労をかけたな》
「なに、これで秩序が保てるのならば安いモノだ」
《そなたらしいことだ。――では、我は神子を還そう》
長年、異界の神によっての、度重なる世界の干渉に煩わされてきたこの国の歴史も、漸く解放される時を迎えた。
今回、その犠牲となる為に召喚された神子には気の毒な話ではあったが、これも国の平穏を保つ為だ。
国の急変は混乱と動乱しかもたらさない。
時代が違えば受け入れられた意見と存在だろうが、今後は要らない、不分子だ。
国は自分達で作っていくモノであり、不穏分子は要らない。
さて、今頃はバカ息子も目が覚めて、必死に妃に縋り謝っている頃合いだろう。
法王に届け出されるはずであった離縁状を握りつぶし、神と取引をしてこの国の秩序を秘かに取り戻した男は、窓の外に急に出現した、光の柱が現れ、消えていくのを見届けた後、握りつぶした書類の数々を火にくべ、本来の己の執務へと戻ったのだった。
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数多の神がいようと、世界の干渉はこれ如何に。
干渉は不和を呼び、混乱を招く。
干渉により生じた異分子は、元よりいた存在に悪意ある影響を及ぼす。
よって、第15代世界創造主のもと、これ以降の世界干渉を禁ず。




