愛妾な魔女の受難の日。
「お前が北の最果ての森、【宵闇の森】の魔女だな?」
そう言って、偉そうに妾に刃向かい、魔法付加の武器を構え、今にも襲いかかろうとしている若者たちは、今、人が支配する国で有名な【勇者】の一行と言うモノ達なんだろうねぇ?
あぁ、確かにそなた達は偉いだろうねぇ?
何しろ人の王に命じられ妾を始め、【闇】に魅入られたモノ達を討伐するように命じられているのだからね。なれど、妾は人であって人で在らざる死と再生を司る魔女。
そしてそなたらが最終的に倒す目論みを企んでいる【悪の魔王】とやらの妾の一人だと言う事を理解してるのかえ?まぁ、理解してないだろうね、その鳥頭であれば。
と、まぁ、ここまで何とか物語ならばモノローグを語った辺りで、妾の名前でも一応名乗っておく事にしようかね。 全く、こんな事をして何が楽しいんだろうね、天界の奴等は。
ハハン・・・?暇なのかい?暇なんだね?なら後でたっぷりと甚振ってやろうじゃないかい。
「さて、妾の土地と知りながら良からぬ企みを持ち侵入してきた愚か共とは、そなたらの事かぇ?――なるほど、確かに妾がこの地の魔女よ。」
そして、魔王の避難先でもあるのだがね。
ただ一言で魔王と言っても妾の仕えている魔王は、魔族と魔物を纏める長であり、異世界でいうなれば、胃の腑をキリキリと締め付けられるような、厄介で、哀れな管理職の類なのだがねぇ。
そこの所を人の王達は理解しないせいか、妾をはじめとする魔族達は巨大な迷惑を被っている。主に睡眠時間とか、体力とか、体力とか、睡眠時間とか、仕事時間が・・・。
今もやっと魔王が満足して久方ぶりの睡眠を享受していると言うに、こ奴らのせいで・・・!!
「即刻退ち去りゃ、今なら命だけは見逃してやるに「この世から去るのはお前だ、悪しき魔女め!!」
――うん?妾の耳が腐ってしもうたのかぇ?
妾は事前に予告したと言うに、何故こんなにも無謀に立ち向かってくるのやら、理解に苦しむどころではない。もしや、これが最近よく耳にする【気が触れた】病とやらなのかもしれないね、と、内心で納得しかけた所に、実に軽い声が妾の頭の中によく響いてきた。
《――ごっめーん、魔女ちゃん。この子達、あ、聖女ちゃんだけだけどね?異世界の転生者と言うか、トリップさせちゃった子なんだよね?
それでね?なんだかこの世界がその聖女ちゃんの住んでた世界のげーむ?に、似てるんだって。だから、折角の暇潰しとして、付き合ってくれる?主にボク達の為に》
何ともまぁ、勝手な事を抜かす神よ。
そなたらがそう不真面目だから、魔王が疲れことを知っていながらのその所業、ほんに、近々腹を割って話さねばならぬようだねぇ~~。
故にここでピクリピクリと、妾の眦が痙攣しても仕方無かろう?何しろこちらは天界を司る者共の暇潰しに半ば無理矢理付き合わされているのだからね。
《おぉ~い、まっじょ、ちゃーん。後でエルフ達に世界樹の樹の雫と、葉の露を持たせて向わせるからさぁ~、付き合ってよ?ね?
――ってなことで、お願いね?あ、あと、まおうー君にもヨロシクネ?やり過ぎは腰に良くないよって、注意しておいてね》
神との通信はそこで強制的に途切れてしもうた。と言うのも・・・。
「――エリンダ、いつまで待たせるつもりだ?」
「なっっ、ま、魔王!?」
――ぬかった!!
妾はその声で自分がやらかしてしまった事を自覚した。
魔王は、妾が自分が目覚めたときに隣にいなければ酷く機嫌が悪くなる。それ故に今回の【勇者】一行の、森への侵入は有難迷惑だったと言うことを、妾はすっかりそれを失念していた。
たらりと背中に冷や汗が流れても、それも自業自得。
今や魔王は、妾の首筋にその冷たくも形の良い唇を押しあて、妾の快感を高めていこうとすると共に、天界の長から送りこまれた愚か共を睥睨し、パチンと、その長くも節くれだった指を鳴らす事で、あっさりと妾が守護する【宵闇の森】から追放してしもうた。
あぁ、折角の平穏が・・・。
がくりと項垂れた妾を抱き掬い、当代一の魔力を誇る魔族の王は、世間の女子が一見するだけで腰砕けになるような色香を滲ませた淫靡な笑みを浮かべると、妾の小さな庵へと姿を隠した。
その後の妾の様子など、想像に難くない。
ただ一言説明を付けるとしたのならば、妾はその後、七日は食事はおろか、仕事も出来なかった事だけはここに記しておこうと思う。
「エリンダ、よそ見とは随分余裕があるな・・・?」
「ひっっ、」
「あぁ、そんなに喜ばなくても良い。俺はお前よりもお前を理解しているからな」
勇者どもめ、憶えておくが良い!!と思う暇も与えられず、妾は魔王と共に暫くの間は寝台の住人と化したのだった。




