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闇鍋なパーティー  作者: 朧 月華
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歪んだ運命の糸

 Q、父が再婚しました。新しく母親になった人には息子さんがいました。そしてその息子さんに嫌われてしまったらあなたはどんな対応をしますか?



 と、こんな問題があれば今の私ならばははっきり断言する事が出来るだろう。



「なんだ、今頃帰ってきたのか」


 相変わらず愛想がない奴め。今に見てろと思いつつ。


「あれぇ~?愛歌、帰って来ちゃいけなかったのぉ~?」



 ねっとりとした如何にも媚び、甘えた声と態度で、3ヶ月前に兄となった人に嫌がらせの為に色目を使う。



 そう。

 私が選んだ答えは、相手に張り合い、時には報復行動に出ると言うもの。


 この兄は頭も性格も口調もゆるゆるなバカ女が嫌いで嫌いで仕方ないのだ。

 理由は至極簡単。

 そんな女は兄の金と権力にしか興味を持たないからだ。


 (けっ、バカな奴め。)


 女は男よりリアリストなんだよ。

 金と権力がなきゃ、今の世知辛いご時世は生きていけないっつうの。


 酒と安い香水と煙草の煙の匂いが染み着いた露出度の高い服を脱ぎ、下着姿になった私は、冷蔵庫から発泡酒を取り出して自分の部屋へと向かった。



 私の仕事は接客業で、別名フロアレディーとも言い方もあるのだけど、簡単に言えばキャバ嬢だ。しかも枕営業黙認店のそこそこ人気売れっ子。


 父さんはお堅い大学の教授だけど、娘の私は母さんの血を引いた尻軽女。と思っていればいい。



 だから父さんも綾奈さんも早く、兄さんのように私を嫌いになれば良いんだ。そうなれば、私は誰かに遠慮もせず、に誰の目にも憚ることもなくあのヒトの所へ行けるのに…。


 全ては、あの人を支える為だけに、今の私は存在しているのだから。




 私のそんな願いを叶えるチャンスは割と早く実現した。





 私の計画に利用されたのは、兄の恋人で婚約者だった人。


 私はその人が両親と結納の挨拶に来る日の朝に、兄の飲み物に薬を盛って、時間を見計らって兄の身体を奪って、その現場を意図的に目撃させた。



 そうしたらね?



「出て行け。お前とは今日限りで親子の縁を切る。二度と顔を見せるな。」



 頬を強く叩かれ、吐き捨てられるように告げられた離別の言葉も、私にとっては待ちに待った瞬間であって、悲しむ要素は全くなかった。

 だから私は何も言わずに、事を起こす前から用意していた手荷物を持って家を出ようとした。


 なのに、家を出る直前に父の後妻に収まった人は遂に最後の最後で本性を現したのか、



「どうしてなの愛歌ちゃん」



 と、如何にも哀しげな言葉を口にしながら、目の奥は笑っていた。だから私も辛辣な言葉と共に笑い返してやった。



「愛歌のママはママだけなのぉ~。愛歌はぁ、綾奈さん達がぁ~、大ッキライなのぉ~。もう死んじゃって欲しいくらいぃ~♪」



 手をひらひらと振って、踵の高い靴を履いて、住み慣れた家から出て行き、その足で大学病院へと向かい、転院の手続きを取った。



 ――これでもう悲しませなくて済む。



 父には新しい家族が出来た。

 でも、あのヒトには私しか頼れるヒトがいない。

 全ては私の自己満足。

 でも、それでもあのヒトはきっと優しく微笑んでくれる。


 転院の手続きを終了させ、病室に迎えに行けば、私が家族を落胆させてまで選んだ人が、気遅れを感じつつも温かく出迎えてくれた。



「愛歌、本当にママで良いの?」



「何言ってんのよ。ママこそアタシで良いの?本当に後悔しない?」



 父と泥沼離婚したママ。

 離婚の原因はママの浮気だったけど、私は離婚の原因となった浮気の理由を病院で偶然再会したママから聞きだして、納得した。



「良いのよ。ママには愛歌がいれば他には何も要らないわ。」



 すっかり艶の失せた長い髪と、張りが喪われた肌がどれほどママの身体を侵している病の進行と病状が悪いのかを如実に知らしめてくれる。



「ママ、これからは何時も一緒にいられるからね。だから早く病気を治そうね」



「えぇ。きっと良くなるわ。」



 ――約束よ



 と、幸せそうに微笑み、固く約束したのに、ママは治療と手術のかいもなく、1人でこの世から私と娘だけを残して天国へと旅立ってしまった。



 お墓に供えた線香の煙りが空に伸びていくのを見つめながら、私は今年の春、3歳の誕生日を迎えたばかりの娘の小さな手を握り締めた。



「まま?おばーちゃまは?」



 まだヒトの死を理解出来ない幼い娘は、良くも悪くもあの兄に似ていて。けれど雰囲気だけはママにそっくりで。

 だから私の口から自然に漏れてしまったのかもしれない。



「ゆきちゃん、いつか、そうね、ゆきちゃんがもう少し大きくなったら、もう一人のおばーちゃまに逢いに行きましょうね。」



「もう一人のおばーちゃま?」



 首をコテンと傾げる可愛い一人娘に微笑んで、私はお墓から離れた。

 私は確かにこの時、娘のゆきと約束をしたのに、神様はそれを許してはくれなかった。





 ――月日は流れ



「ごめんね、ゆき。…ママ、もうおばーちゃまの側にいかなきゃ。」


「そんなっ、ママ、約束したじゃない!!元気になってゆきの結婚式に出てくれるって。」


「うん、でも、ごめんね…、ママ、もう無理みたい。」


 もうモルヒネも効かない程身体中が痛み、意識が途切れ途切れになっていく。

 叶う事ならば、もう一度だけあの人に会い、謝りたかったけれど、それももう無理のようだ。今にも私の命は途切れ、先に旅立ってしまった母がいる天に召されるのだろう。


 それでも一言、あの人に、謝りたかった。


「・・・・・っ」


 最期の力を振り絞り、音にならぬ言葉を発し、とうとう力尽きてしまった所で、つぅーっと、眦から熱い雫が滴り落ちた時には、私の生命維持装置はピーっと、かん高い音を奏で、無慈悲にも私の心肺停止を告げていた。

 

 まだ、16歳になったばかりの愛娘を遺して。



 私が物言わぬ骸になり、娘のゆきが嘆きの悲鳴を上げた直後、病室にある人が駆け込んで来たことを私は知らない。

 全ては遅かったのだ。



「嘘だろ?愛歌。おい、起きろ、愛歌。やっと、やっと見つけたんだ…。」



「ママに触らないでっ!!」



 その男の手を自分の母親から払いのけ、憎しみの眼差しを向ける少女。



 もし、もう少し早く誰かが早く助けてくれたのなら、少女の母親は黄泉路の世界へと旅立っていかなくてもすんだと医師から聞かされていたからこその憎しみと怨み。


 例え血の繋がった実の親であろうと、自分は母をここまで苦労させ、今まで見向きもしなかった男を赦さないし、父とは認めない。


「私はママじゃないから絶対赦してなんてあげないんだから。」



 虹色に輝き、交わるはずだった運命の糸はどす黒く変色し、複雑に絡み合い、芽生える筈だった感情と関係を歪ませ、永久の決別を生じさせた。



 桜がはらはらと舞い散る日、紗嶋 愛歌は遂に娘の父親と再会する事なく、40年と言う短い生涯を閉じた。

 

 人は時に大切な人を失ってから初めてその人の大切さを理解する。



「好きだったんだ、愛歌。お前のことが」



 最早、その愛の言葉に返事を返してくれるヒトはいない…ー。



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