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陽菜の一日  作者: KI☆RARA
7/13

12月8日 木曜日



 携帯電話がずっしりと重く感じる。定時に終わった仕事から帰って来た陽菜は、携帯電話を手に取っては置き、手に取っては置きを繰り返していた。

 滞っているメールが3件ある。

 一件は、化粧品の販売をしている年上の女性で、30代だというのにまるで同じ20代の半ばのような若々しさのある人からのメールだ。それまで歳を取るのが怖くて仕方なかったのが、彼女の生き生きとした様子に、歳を取って魅力が増すこともあるのだと教えられた。また化粧品のことを教えてください、とメールした返信が来ていたのだ。

 もう一件は、この間の土曜日にランチデートをドタキャンしてしまった男性。この間、行けなかったので……と、陽菜から食事に誘ったメールの返信だった。

 そして最後の一件は、金曜日に合コンした男性。あれからメールは続き、週末に飲みに行く誘いがあった。その日は予定が入っていたため断り、この日だったら、と伝えた日に決まった。そして、どこで飲むか、というメールが来ていた。

 3件とも、メールが来てから丸一日が経っている。

(今は、メールが嫌い)

 思わずため息が漏れた。

 貴宏とのメールが、続かないのだ。

 火曜日の貴宏とのメールは、その日のうちに完結してしまった。最後にメールを送ったのは陽菜だった。以前だったら、話が続かないようなメールにも返信してくれていた貴宏だったのに、メールは終わってしまった。いよいよ、別れが現実味を帯びてきた。

 貴宏に送りたいけど送れない、そんな陽菜が逃げた別のメールは、すぐに気が重くなってしまった。陽菜の恋愛はいつもこうだ。最初はメールをしていても、すぐにおっくうになって、返信しなくなってしまう。最初のデートをしてから、次のデートの約束が立たないまま終わってしまうのは、そのためだ。デートの時に次の約束をしていればまだ続くが、メールで誘いがあると、まず決まらない。

 陽菜は、自分の恋愛観にまったく自信がない。身体を重ねた相手で陽菜に恋をしていた相手はいなかったし、陽菜に恋していた相手とは身体を重ねていない。貴宏以外にそうした関係になった相手は二人。その二人に共通するのは、一回り以上年上で、背が180センチ以上あり、タバコを吸い、社交的。その二人とは、たった数回会っただけだ。つまり、陽菜に肉体的な快楽を教えたのは、貴宏なのだ。

 自分が本当に、きちんとした恋をして幸せになれるのか、そもそも幸せとはどのようなものなのか、陽菜にはまったく分からなかった。なにせ、快楽と恋の違いすら理解できないのだから。

 陽菜には一つ、信条がある。女は、月に一度血を流す。古いものを捨て、何度も生まれ変わる生き物なのだ。その度ごとに新しい自分を生きることで、人生を味わい尽くすことが出来ると信じている。恋愛でも同じ。貴宏のことを思うことを、次の生理が来るまでは自分に許そう。しかし、次の生理が始まったら気持ちを切り替えて、まっさらな状態でスタートするのだ。



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