12月7日 水曜日
陽菜の“男友達”は名を貴宏と言う。白い肌に、黒々した髪と眉。陽菜は、彼の眉から鼻にかけてのラインが好きだ。この間会ったときは、思わず見とれてしまった。そしてもう一つ好きなのは、肩から二の腕にかけて。組み伏せられた時に見上げた肩は男らしくて、胸がきゅんとした。
貴宏の身長は180センチ近くある。隣に並んだときに、陽菜は彼の背の高さを実感する。貴宏の腰の位置が陽菜のお腹の辺りにくるのだ。さらに両腕が陽菜の肩より上にあるため、ぎゅっと抱きしめられると、陽菜はその腕の中にすっぽり収まってしまう。
女とは違う男の身体にどうしようもなく惹かれる。
(これって、雌の本能だよね)
陽菜はカタカタとパソコンのキーボードを叩きながら、貴宏のどこが好きなのかを考えていた。仕事をしながら考えることではないと分かっていても、彼のことが頭から離れてくれないのだ。
あの、力強さ。彼がその気になれば身動きを封じることも出来るその腕の中で、踊らされている感覚。自分が女だと思い知らされる――――、
屈服の、瞬間。
ぞく、と背中に痺れが走った。
なぜこんなに、彼に惹かれるのか。他の人では駄目なのか。それが分かれば、貴宏でなくても、他の男の人を代わりに出来るかもしれないという思惑とは裏腹に、貴宏のことばかり考えてしまうのだった。
お昼休みの間、子供を持つ親でもある上司が二人で話しているのを、隣の机で何とはなしに聞いていた。
「え、そうなんですか?」
「そうそう、PTAなんて不倫の巣窟だよ」
どこからそんな話になったのかは知らないが、昼ドラばりの不倫劇を、一方が話して聞かせていた。
「PTAで一緒だった二人が不倫して、お互いの夫婦と別れて一緒になった例もあるし、不倫をされた二人が、どうしようかと相談しているうちにくっついた例もあるよ。どちらも、もう引っ越してしまったけどね」
聞いていないふりをするのが難しいほど、陽菜はその話に興味津々だった。
(すごい世界だわ。そういえば、私は知らないけど、この職場内でもあるって誰かが言ってたな)
陽菜の中で、結婚したらもう恋愛生活は終わり、という意識があったが、いくつになっても恋はするもののようだ。
(そう考えれば、これから10年経っても36歳。十分に恋愛出来る歳だわ。子供だって、少し体力的につらいかもしれないけど、まだ産める)
慎重になりすぎず、とりあえず結婚してみてもいいかもしれないと思った陽菜だった。






