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陽菜の一日  作者: KI☆RARA
12/13

11月8日 木曜日

 目が覚めたとき、最近変えたばかりの冬用の羽根布団が温かかった。

 一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。じわじわと昨夜の記憶がよみがえる。メールの返信をしようと考えているうちに、いつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 スマートフォンの画面を表示させると、画面にはただ時間のみ。メールは来ていなかった。

 クラブで知り合った大学生と映画を見に行く予定の確認の返信は来ていない。さらに、大学の後輩を週末の食事に誘ったのだが、その返信も来ていなかった。他にも、ついこの間の週末の異業種交流会で出会った銀行員とのメールは返信していないし、ワインパーティーで会ったペットショップのオーナーのメールも返していない。

 もう一度、スマートフォンを布団に伏せて置き、布団をあごまで引き上げた。窓から差し込む日差しは明るく、人々はすでに活動を始めている。陽菜も会社へ行くべく準備を始める時間だというのに、身体を起こしたくなかった。

 昨日の仕事は最悪だった。電話で話の通じないクレーマーの対応をして、後輩から引き継ぐ業務も相手の説明不足で訳が分からないまま渡されて、途方に暮れてしまった。


 すべてが遠く感じる。


 クラブで知り合った大学生は、どうせ暇つぶしの身体狙いだ。大学の後輩も、きっと彼女がいる。異業種交流会では、自分はいないようなもので、周囲は陽菜の友達にばかり話しかけていた。ワインパーティーで知り合ったペットショップのオーナーは、表面的な会話ばかりで、遊びに誘ってこようとはしない。

 27歳にもなって、こんな希薄な関係にすがるしかない自分が、かわいそうで、こっけいで。もう家庭を持っていてもおかしくない年なのに、何をしているのだろう。こうして思い悩んでいるうちに、残り時間は刻々と減っているというのに。本当に結婚したいと思っているのに、そこに続く道の入り口がどこにあるのか分からない。


 こんな気持ちのまま仕事なんてできない。お腹が痛い気がすると思っていたら、本当に痛くなってきた。

 それを言い訳に会社に電話をして、体調不良で休みをもらった。

 一時間寝直して目を覚ましたとき、することがなくて余計に気持ちが沈んだ。


 さみしい。


 どこにも行き場がない。


 どうすれば、陽菜のそばにいてくれる人が現れるのだろうか。

 ずっと一緒にいようねって、そう言ってほしいだけなのに、それだけのことがこんなに難しい。こんなに必死で探して、いろいろな出会いの場にも出かけているのに。

 それでも見つからないのは、やっぱり自分に問題があるからなのか。

 誰かほかに連絡がとれそうな人を思い浮かべてみる。

 陽菜の初めての男性は、もう何年も陽菜の心の支えだが、一週間も前にメールをして、まだ返信がない。

 同期の男は、とても優しくて陽菜のためにいるような男だが、一度付き合ったら結婚まで進んでしまいそうだ。

 一回り年上の、大手メーカーで営業成績トップの男は、都合の良い愛人を探している。


 やっと関係が切れた、貴宏、彼なら、きっと話を聞いてくれる。

 結婚したいなら、こんな関係を続けていてはいけないと、連絡を絶った相手。

 関係を切ってからも、何度かメールが来ていた。そのたびに会うことを断っていたが。


 なんどかためらいながら、さみしい、とだけメールした。

 すぐに返信は帰ってきた。

 ――――何かあった?

 それを見て、陽菜はほっと息をついた。

 一緒に遊ぶ男はこれまで何人もいた。でも、陽菜の繊細な感情の揺れを気にされることは少なかったように思う。陽菜がこうして感情を吐露できる相手も、また少ないのだ。

 少しだけメールをしてお互いの近況をメールしあい、満足した陽菜はきりの良いところでメールを終えた。

 陽菜も貴宏も、似たもの同士だ。

 他人のために何かしようと思いつかないのに、さみしがりや。

 貴宏に期待するとがっかりすると分かっているから、一緒にはいられない。

 会えば期待してしまう。

 この距離感がちょうど良い。

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