その後
日曜日、陽菜は一日の予定をキャンセルして、部屋にいた。昨日のエステティシャンの言葉が頭から離れない。
(たまには自分の身体をメンテナンスしてあげないと、か)
そう言えばこの部屋も、ずいぶん季節外れになってきている。寒い寒いと思っていながら、なぜ今までエアコン以外の暖房器具を用意していなかったのか。
改めて最近の自分のことを見返してみると、色々なものを放っておいていることに気が付いた。そのことがまったく見えていなかった事実に愕然とする。
(遊びの予定はキャンセルしてるし、習いごともお金を払ったまま行ってないわ。それに、部屋も寒々しい)
早速ネットでラグとホットカーペットを注文すると、心の中がすっきりした。
貴宏と会う日は翌日に迫っている。しかし、陽菜は携帯電話を前に、思わずうなった。
(どうしてこんなことになってしまったのかしら)
そこには、陽菜の部屋に泊まるという内容の貴宏からのメールが。
自然な流れで、いつの間にかそうなってしまったのだった。
(まぁ、いいか)
貴宏とのことを切らなければという、土曜日に感じていた切迫感のようなものはなくなっていた。その分、心に余裕も生まれている。会うのはいい。泊るのもいい。でも、貴宏のことを考えすぎないようにしよう。
今ならそれが出来る気がした。
貴宏は仕事後に陽菜の部屋に泊った。
キスを繰り返す合間に、貴宏がふっと笑う。
「陽菜は本当にキスが好きだね」
うん、と陽菜も笑った。
「それとも、俺のことが好きなの?」
聞かれて、どっちも、と素直に答えた。それに対する貴宏の答えはなかったが、気にはならなかった。別に貴宏に何かがして欲しいわけではなかったからだ。貴宏でなければ、という追いつめられた気持ちはすでになくなっている。
貴宏の荷物がなくなり、再び陽菜の空間が戻ってきた。部屋を模様替えして、髪を切って、気持ちを新たにした。陽菜にとって髪を切ることは、儀式に近い。何かに囚われているうちは、髪を切ることができない。髪型を変えて新しい自分にチャレンジ出来ているということは、もうすっかり自分を取り戻しているということだ。
そして、新しい出会いも忘れない。
週末には、2週間前に知り合った合コン相手と鍋パーティーをした。友人も誘い、4人だ。狭い部屋で隣に座ると、男性の身体を意識する。やらしくない程度に、指や髪に少し触れられるのも、くすぐったい気持ちになる。
(あ、なんかこういうのいいかも)
その2人のうちかどうかは別として、今度はきっと楽しい恋が出来る気がした。