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陽菜の一日  作者: KI☆RARA
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12月2日 金曜日

 定時で仕事を終わり、一人の家に帰った陽菜(ひな)は、荷物を置き、床の上に敷きっぱなしになっていた来客用の布団の上に倒れこんだ。

 寝不足で、仕事中もたびたび危なかった。

(今日これから飲み会かぁ。めんどくさいな)

 金曜日の夜。

 以前同じ人に誘われて行った飲み会も当たりだった。今回も期待していいはずだ。

 彼氏のいないOLとしては、気合いを入れて行くべき合コン。

 しかし今の陽菜は、乗り気にはなれなかった。

(それよりも)

 こうして布団に顔をうずめていると、今朝ここにいた男の手の感触を思い出してしまう。

 その手がどんな風に腰に触れ、肌の上をさ迷ったか。頬をくっつけ合い、両腕にすっぽりと包まれて、自分よりも少し高い体温をどう感じていたか。

 匂いが残っていないかと、鼻をひくつかせるが、彼の男性らしい匂いはかけらも残っていなかった。今朝は匂いが残りませんようにと思っていたのに、今はそれを残念に思ってしまう。

(いけないいけない。切ろうって決めたのに)

 正確には、今すぐ切れるわけではない。

 陽菜は首を反対方向に向けて、置いてある男物のジーンズを見た。

(少なくとも、あれを返さなきゃいけないし)

 2週間前に置いて行った服が部屋の隅で存在感を放っている。

 男と陽菜の付き合いは、意外と長い。

 出会いは一年半前。女友達が「あ、男の子呼んだから」と当日になって呼び出した二人のうちの一人が、その男だった。その日のうちに身体の関係になり、その時は一カ月程度で関係が終わった。それ以来ずっと疎遠だったのが、ここ半年で再び連絡を取り始めたのだ。

 恋愛をする気がすっかり失せていた頃だったので、

(メールくらいなら)

と軽い気持ちで連絡を取っていたが、1カ月前、再びこういう関係に戻ってしまったのだった。それまでの半年間は毎日のようにしていたメールも、がくんと頻度が減った。

(メールだけにしておけばよかった)

 過信していたのだ。一年間ずっと男に惑わされることがなかったので、以前のように彼に翻弄されることはないだろうと。ところがどうだろう。男がいなくて平気だった期間は、ただ単に恋愛を忘れているだけだった。思い出してしまえば、それなしではいられない。

 はぁ、とため息をついて、陽菜は布団から身体を引き離した。


 気が強くそうに見える少し濃いめのアイラインと、ジャラジャラしたピアス、それにヒョウ柄のポイントの入ったセーターにジーンズで、さっそうとヒールの音を響かせながら、マンションの廊下を歩いた。

 今年に入ってからは、出会いがどうこうよりも、ナルシシズムに浸るために出歩いているようなものだ。

 今まで出来なかったファッションで出かけるのが楽しくて仕方がない。そしてそれを褒められるのも快感になっている。


 結果、合コンは楽しかった。

 職種は堅実で、しかし適度に遊んでいそうな男たちだった。男に関心を寄せられて、自分も相手に関心を持って、話は楽しかった。

 去年1年間の恋愛のもろもろで、相手の行動や言葉の端々から真意を読み取ろうという無駄な努力をしなくなった。異性の気持ちなど、永遠に分からないものなんだと割り切ると、心が自由になり、話すのが楽しくなった。楽しくなると、相手も楽しんでくれる。

(アイロニーだわ)

 同じように、好きじゃない相手に好かれて、好きな相手に好かれないということはよくある。諦めた途端に向こうから連絡があることも。

 今朝マンションで別れてからメールを寄越さない男はどうだろうか。気が付くと携帯を気にしている自分がいる。

(帰りに彼の家に寄ってっちゃおうか)

 しかし、こちらからメールをするのは癪だ。あんまり追いかけて、相手を慢心させてもいけない。メールが来なくて焦ってくれればいいと思う。

 誘惑に耐え、陽菜は大人しく家に帰ったのだった。


 この我慢も、アイロニーなのだろうか。



読んでくださってありがとうございます。一日一更新を目指しています。http://kirara-shosetsu.seesaa.net/でも同時掲載していますので、よろしくお願いします。

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