とある幸せ
私より幸福な人はいないんじゃないか!
私は今日来たばっかりの合格通知を抱きしめて、思いっきりジャンプした。
本当にいきたい高校だったから、誰よりも努力したつもり。
面接の練習も、作文の練習も、遅くまで学校に残って先生にみてもらった。
その努力が実ったんだ。
ああ!幸せ!!
私はその日、友達にメールを送りまくった。
みんなに知ってもらいたくて。大勢の人に褒めてもらいたくて。
みんなお祝いしてくれた。
おばあちゃんは、まあるい大きなケーキとバラの花束を買ってきてくれた。
私は今、世界中の誰よりも幸せな自信がある。
学校でもみんなお祝いしてくれた。
自分のことのように、喜んでくれた。
私は嬉しくて、嬉しくて、春がくることばかり考えてた。
高校に入学したらどんなスクールライフが待っているんだろうとか。
授業の合間合間に、友達に私の明るい未来を話した。
学校の帰りにも、私は楽しい高校生活のことを友達と話していた。
友達が単語帳を持ち歩くようになった。
歴史の問題を出しあってる。
私は勉強しなくていいんだ!みんなのように。
勉強しないで行きたかった高校に入れるんだ!
私の幸せはいつでも口の端の笑みとなって、辺りに漏れていた。
ああ! 幸せ!!
友達に「受かったら何してるの? 暇じゃない??」と聞かれた。
友達は図書館で数学の問題を解いていた。
私はその横で借りた漫画を読んでいた。
私は「漫画読み耽って、撮りためた映画観て、……メッチャ遊んでる!」って答えた。
私は楽しい毎日を送ってる。誰よりも!
気がつくとみんな勉強していた。
授業の合間にもお喋りしなくなった。
放課後も単語帳をめくるみんなは、話掛けても答えてくれなくなった。
私だけが幸せ。私一人だけが……
ひそひそ声が聞こえたような気がした。
「……周りのことも考えてほしいよね……」
ひそひそ
「……自分ひとりだけ受かったからって……」
ひそひそ
「……みんな必死に勉強してるっていうのに……」
ひそひそ
「ホント、最悪じゃない?」
私だけ幸せ。一人だけ幸せ。
でもそれって、実はとっても不幸だったんだ。
気がついた時には本当に一人になっていた。
読んでくださってありがとうございます。
幸せがいっぺんに不幸に感じてしまう時。
それは自分の幸せを、大切な人と共有できないときだと思います。
自分のことのように喜んでくれる友達、とても大切にしていたいです。