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トイレの花子さん(OL編)

作者: 兎山紬
掲載日:2026/04/22

 私の名前は山中花子。

 今年、大学を卒業したばかりの22歳の新OLだ。


 今日は新人歓迎会。

 同じ部署の先輩方との飲み会だ。


 いい感じの料亭っぽいお店に連れて行かれて、

 うわーー、こんなところで食べれるんだ!

 と、気分は急上昇。


 入口からして違う。

 静かで、落ち着いていて、なんかちょっとだけ場違いな気がするくらい。


 でも、その違和感よりも、

「タダで食べれる」という現実の方が勝っていた。


 個室へと案内され、歓迎会は開始される。


「今日は新人歓迎会だ!存分に親交を深めてくれ!長い挨拶も嫌われるから、手っ取り早く、じゃあ、乾杯!」


 なんて言う先輩か分からないけど挨拶のあと、飲み会は始まった。


 こんなお店でタダとはラッキー!


 いい気分の中、出される料理とお酒に舌鼓。


 料理はどれも美味しいし、お酒も進む。

 正直、最高だった。


 そして、調子に乗って飲み食いをしていると、サバのお刺身が出て来た。


 生け簀で泳いでいるなとは思ってたけど、まさか出されるとは思ってもいなかった。


「先ほどまで、そちらの生け簀で泳いでいたものです。鮮度はバツグンなので、是非お楽しみください」


 と、自信満々に中居さんは告げると奥に戻って行った。


 私も、先輩達も、


「これは美味い」

「流石、鮮度バツグンだ!」


 といい感じにいただく。


 確かに美味しかった。

 口に入れた瞬間、舌に張り付くような感じがして、

 そのまま、ぬるっと喉の奥に滑り込んでいく。


 ……ちょっとだけ、変な感触だった気もする。


 でも、美味しかったから気にしなかった。


 いい感じに場も温まっているので、先輩達のご機嫌を取るために、お酌をして回ることにする。


「新人の山中です。よろしくお願いします!」


 といい感じに顔を売りながら回っていると……


 なんとも言えない腹痛が、


 最初は、違和感だった。


 あれ?くらいの。


 でも、それがすぐに「痛み」に変わる。


「……っ」


 みぞおちの辺りが、じわっと重くなる。


 内側から押されてるみたいな感覚。


(なにこれ……)


 少しずつ、確実に強くなる。


「すいません……ちょっとお花を摘みに行って来ます」


「ああ、わかった」


 と、答えられるも、もう私の耳には入らない。


 部屋を出るまでは平静を装う。


 でも。


 襖を閉めた瞬間。


 私の戦いは始まった。


 内股になりながら早歩き。


 歩幅は小さいのに妙にスピードの速い歩き方だ。


 探すはトイレの看板かお店の人。


 そう、私はトイレの場所が分からない。


 なんで、このお店、やたら広いの!


 さっきは「高級感」で済んでいた広さが、

 今はただの迷宮にしか思えない。


 廊下が長い。

 曲がる。

 また曲がる。


 似たような景色が続く。


 さっき通った気がする場所を、もう一度通ってる気がする。


(まだ!?)


 痛みが増す。


 しかも。


 なんか、おかしい。


 ただの腹痛じゃない。


 奥で、何かが動いてるような、


「……え?」


 一瞬、止まる。


 でも、すぐにまた痛み。


 ズキン、と鋭く。


(今……動いた?)


 そんなはずない。


 でも。


 確かに、内側から「触られた」みたいな感覚があった。


「もうっ!どれだけ広いの!」


 だんだん腹が立ってきた。


 正直、もうお腹は限界だ。


 しかもめちゃくちゃお腹が痛い。


 何これ!私、何か悪いことした!


 なんか、吐き気さえ催して来た。


 でも吐けない。


 喉まで上がってくるのに、何も出ない。


 ただ、気持ち悪いだけ。


 そして、やっとのことでトイレの看板を見つけて、急いで駆け込む!


 さっさと脱ぐものを脱いでトイレに!


 出すもの出した。


 ……けど。


 痛みは治まらない。


「……なんで」


 むしろ、強くなってる。


 みぞおちの辺り。


 そこ一点が、明確に痛い。


 いや、違う。


 痛いというより。


 何かに「噛まれてる」みたいな。


(え……)


 嫌な想像が頭をよぎる。


 でも、考えたくない。


 考えたくないのに、


 勝手に想像してしまう。


 中で、何かが動いている。


 小さい何かが、くねくねと。


「……やめて」


 声が漏れる。


 誰に向けてるのか分からない。


 でも、止めてほしい。


 痛い。


 とにかく痛い。


 今までに経験したことが無い痛みだ。


 子供を産む時の痛みってこんな感じなのかなとか、今はどうでもいいことすら頭に浮かぶ。


 もう、どうすればいいか分からない。


 ただ、やれることは限られている。


 やれることと言えば、もう……、


「神様!ごめんなさい!


 私、何か悪いことしましたか!


 もう悪いことはいたしません!


 だから、もう勘弁してください!」


 息が乱れる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 痛みのたびに、言葉が漏れる。


 とトイレの中で一人で騒いでいると、


「お客さま、大丈夫ですか?」


 と声を掛けられる。


「す、すいません……」


「トイレをしたのですけどお腹の痛みが治まらなくて……我慢できない痛みが今も……冷や汗が止まりません」


「どんな感じの痛みですか?」


「みぞおちの辺りがすごく痛くて……あと、吐き気もあります……」


「あーー、恐らくですが、それってアニサキスかも知れません」


 その言葉で、全部繋がった。


 サバ。


 さっきの感触。


 あの違和感。


 中で動く感じ。


(いる)


 確信した。


「救急車を呼んだほうが良いと思います」


「お、お願いします!」


     *


 その後、私は救急車で病院へ。


 診断はアニサキス。


 胃カメラで直接除去。


 画面に映ったそれは、


 白くて、細くて、


 くねくねと動いていた。


 私の中で。


     *


 その後、その時の話が出回って、


 裏でコソコソと


「トイレの花子さん」


 と呼ばれているのを私は知っている。


 もうサバなんて食べない。


 ……いや。


 正確には。


 食べられない。


 今でも時々、


 みぞおちの奥が、


 ピクッと動いた気がするから。

 

ここまで読んでいただきありがとうございます!


今回は、ちょっとした日常の中にある「リアルにありそうな怖さ」をテーマに書いてみました。

アニサキス、名前は知っていても実際に当たると本当に大変らしいですね……。


もし「面白かった」「ちょっと分かるかも」と思っていただけたら、

ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!


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