第9話 「足りない力」
崩れない形。
それは、確かにできていた。
でも。
それだけだった。
「……静かだな」
蓮斗が小さく呟く。
「嵐の前だ」
祖父が短く返す。
嫌な予感は、外れない。
奥から来る気配。
重い。
今までと、明らかに違う。
「……一体」
白峰が言う。
「だが――」
言葉が止まる。
暗闇の中から現れたそれは。
明らかに“質”が違った。
黒い塊。
でも、形が安定している。
揺れていない。
そして。
こちらを、見ている。
「……来るぞ」
次の瞬間。
消えた。
「は――」
速い。
見えない。
「左!」
叫ぶ。
蓮斗が反応する。
ギリギリで、受ける。
「っ……重っ!」
腕が弾かれる。
押し込まれる。
「止めろ!」
祖父の声。
玲奈が動く。
「……削る」
踏み込む。
でも。
弾かれる。
「……硬い」
さっきとは、比べ物にならない。
「パターンが読めない」
白峰が言う。
「動きが変則的だ」
つまり。
今までのやり方が通じない。
「……っ!」
再び、消える。
「右後ろ!」
叫ぶ。
でも。
間に合わない。
玲奈の身体が、吹き飛んだ。
「玲奈!」
壁に叩きつけられる。
血が、飛ぶ。
でも。
「……まだ」
立ち上がる。
自己回復。
でも、追いついていない。
「このままじゃ削り切れない!」
白峰が叫ぶ。
「役割が機能していない!」
その通りだった。
前衛が止められない。
突破も通らない。
分析も追いつかない。
そして。
俺も。
「……見えない」
最適が。
分からない。
今までの感覚が、通じない。
「……下がれ!」
祖父の声。
全員が距離を取る。
黒い塊は、追ってこない。
ただ、そこにいる。
余裕のように。
蓮斗が、歯を食いしばる。
「……どうすんだよ」
誰も、すぐには答えられない。
白峰が、低く言う。
「……現状の戦力では、勝率は低い」
「低いって、どのくらいだよ」
「三割以下だ」
「……は?」
空気が重くなる。
祖父が、静かに言う。
「ならやめるか?」
その言葉に。
誰も、すぐには答えなかった。
戦うか。
引くか。
選択。
俺は、前を見る。
黒い塊。
動かない。
でも。
分かる。
あれは、放置できない。
「……やる」
口に出していた。
蓮斗が笑う。
「だよな」
玲奈が、小さく頷く。
「……やる」
白峰が、短く言う。
「なら、勝ち筋を作る」
祖父が、最後に言う。
「なら、考えろ」
それだけだった。
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……こわい」
その一言が。
妙に、現実だった。
俺は、目を閉じる。
考える。
今までの形は、通じない。
役割も、崩される。
なら。
どうする。
どうすれば、勝てる。
答えは、まだ出ない。
でも。
ここを越えないと、先に進めない。




