第4話 一人で戦う者
それは、連携に慣れ始めた頃だった。
四人で進む洞窟は、少しだけ楽だった。
蓮斗が前に出て、白峰が動きを読む。
祖父が全体を見て、俺が隙を埋める。
そして――
ぴーちゃんが、静かに支えている。
「さっきより、安定してるな」
蓮斗が軽く肩を回す。
「無駄な動きが減ってる」
白峰が淡々と返す。
「最初からやれ」
祖父が短く言う。
「いや無理だろそれ」
軽いやり取り。
でも、少しだけ余裕が出てきていた。
その時だった。
音がした。
鋭い、風を切る音。
「……止まれ」
祖父の声。
全員の動きが止まる。
次の瞬間。
奥の暗闇から、黒い影が吹き飛んできた。
床に叩きつけられる。
そのまま、動かない。
「……一撃?」
白峰が小さく呟く。
理解が追いつく前に。
“それ”が現れた。
静かに、歩いてくる。
制服姿の、女子高生。
血がついている。
でも、表情は変わらない。
「……」
その手には、短い刃物。
そして。
彼女の足元。
黒い影が、ゆっくり崩れていく。
「……おいおい」
蓮斗が小さく笑う。
「今の、一人でやったのか?」
女子高生は、少しだけこちらを見る。
「……うん」
短い返事。
それだけ。
でも。
分かる。
強い。
さっきまでの敵とは、次元が違う。
祖父が、一歩前に出る。
「……何体やった」
「……分かんない」
嘘じゃない。
本当に数えていないだけだ。
女子高生の腕から、血が流れている。
「おい、怪我――」
「大丈夫」
即答だった。
次の瞬間。
傷が、ゆっくり閉じていく。
「……は?」
思わず声が出た。
蓮斗も、白峰も、言葉を失っている。
「……自己回復か」
祖父だけが、冷静に呟く。
「……多分」
女子高生は、少しだけ目を伏せた。
「……死ななかっただけ」
その言葉に。
少しだけ、空気が重くなる。
ぴーちゃんが、小さく揺れた。
「……いたいの、いや」
女子高生の視線が、ぴーちゃんに向く。
「……それ」
「ぴーちゃん」
「……そう」
それ以上は何も聞かない。
少しだけ沈黙。
そして。
「……一人?」
俺が聞く。
女子高生は、頷いた。
「……そう」
「……ここ、危ないぞ」
「……知ってる」
短い会話。
でも、それで十分だった。
祖父が、こちらを見る。
判断を促している。
少しだけ考える。
でも。
「……組まないか」
自然に出た。
女子高生は、少しだけ首を傾げる。
「……必要?」
「一人よりは確実だ」
数秒の沈黙。
そして。
「……いいよ」
あっさりと、頷いた。
その時。
足元に、何かが現れた。
黒い影じゃない。
猫だった。
黒い毛。
鋭い目。
完全に、やる気のない顔。
「……なんだこれ」
蓮斗が呟く。
「……ついてくる」
女子高生が言う。
「名前は?」
「……ない」
猫は、こちらを一度だけ見て。
そのまま、女子高生の隣に座った。
動じない。
逃げない。
明らかに、普通じゃない。
「……玲奈」
女子高生が、ぽつりと名乗る。
「……悠真」
「蓮斗!」
「白峰だ」
祖父は、何も言わなかった。
でも。
その目は、玲奈をしっかり見ていた。
「……強いな」
「……普通」
即答だった。
でも。
その“普通”は。
明らかに、普通じゃない。




