第23話 「死なない理由」
静かだった。
少しだけ休んだ後。
誰も、すぐには動かなかった。
身体は回復している。
でも。
完全じゃない。
「……そろそろ行くか」
蓮斗が立ち上がる。
「……その前に」
白峰が言う。
「確認しておくべきことがある」
視線が、玲奈に向く。
「……何」
「お前の回復だ」
玲奈は、少しだけ目を伏せる。
「……普通」
「普通ではない」
即答だった。
「致命傷に近い損傷でも、動けている」
「説明が必要だ」
少しだけ、沈黙。
でも。
玲奈は、逃げなかった。
「……最初」
「死にかけた」
静かな声。
でも。
重い。
「……一人で?」
蓮斗が聞く。
「……うん」
「ダンジョン」
「知らなかった」
当たり前だ。
最初は、誰も知らない。
「……逃げた?」
「……逃げた」
「でも」
「間に合わなかった」
短い言葉。
でも。
その先は、想像できる。
「……そこで」
「スキルが出た」
玲奈が、自分の手を見る。
「……回復」
「それだけ」
シンプル。
でも。
それが、全てだった。
「……運が良かっただけ」
「違う」
祖父が言う。
「生きた」
「それが答えだ」
玲奈は、少しだけ目を閉じる。
「……死にたくなかった」
その一言。
静かで。
でも。
強かった。
「……だから」
「動いた」
「痛くても」
「怖くても」
「止まらなかった」
白峰が、小さく頷く。
「だから、今がある」
蓮斗が、少しだけ笑う。
「根性論じゃねぇか」
「……違う」
玲奈は、静かに言う。
「……選んだ」
「止まらないって」
それだけだった。
でも。
分かる。
それが。
強さだった。
スキルじゃない。
能力じゃない。
もっと前の。
“選択”。
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……いい」
その一言で。
少しだけ、空気が軽くなる。
俺は、考える。
死なない理由。
それは。
強さじゃない。
スキルでもない。
もっと単純な。
止まらないこと。
祖父が言う。
「覚えとけ」
「最後に残るのは、それだ」
頷く。
どれだけ強くなっても。
どれだけスキルが増えても。
最後に必要なのは。
それ。
止まらないこと。
進み続けること。
それが。
生きるってことだった。
「……行く」
玲奈が、立ち上がる。
その目に。
迷いはない。
俺たちも、立ち上がる。
進む。
奥へ。
もう一度。
戦うために。
生き残るために。
そして。
止まらないために。
死なない理由は、単純だ。
止まらないと決めたからだ。




