第21話 「一人で勝つ者」
逃げた。
あの場から。
誰も、何も言わなかった。
足音だけが響く。
荒い呼吸。
少し遅れて、止まる。
「……はぁ……」
蓮斗が、壁に背を預ける。
「マジで、なんだよあれ」
誰も答えない。
分かっている。
あれは。
今までの敵じゃない。
「……完敗だ」
白峰が、静かに言う。
否定するやつはいない。
祖父が、短く言う。
「死ななかっただけだ」
それが現実だった。
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……こわい」
誰も笑わない。
俺は、手を見る。
何もできなかった。
見えていたはずなのに。
追いつけなかった。
その時。
「……一人なら」
玲奈の声。
全員が、そちらを見る。
「……多分」
「勝てる」
空気が、止まる。
「……は?」
蓮斗が眉をひそめる。
「いやいや無理だろ」
「……無理じゃない」
玲奈は、静かに言う。
「……当たらなければいい」
その一言。
シンプルすぎて。
でも。
真実だった。
「……一人なら」
「全部、自分で決められる」
「ズレない」
白峰が、少しだけ目を細める。
「……なるほど」
「複数だからズレる」
「一人ならズレない」
祖父が言う。
「理屈は通る」
「……でも」
「リスクが高すぎる」
玲奈は、頷く。
「……うん」
「でも」
「やれる」
その言葉に。
迷いはなかった。
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……だめ」
即座だった。
「……あれは、だめ」
玲奈が、少しだけぴーちゃんを見る。
「……そう」
それ以上は言わない。
でも。
伝わっている。
あれは、危険だ。
でも。
「……見えた」
玲奈が、ぽつりと言う。
「……少しだけ」
「動き」
その一言で。
空気が変わる。
「……マジか」
蓮斗が言う。
「……ああ」
「完全じゃない」
「でも」
「ゼロじゃない」
白峰が言う。
「それは大きい」
祖父が頷く。
「次に繋がる」
俺は、考える。
一人なら勝てる。
複数なら崩れる。
でも。
それは。
逆にできるんじゃないか。
「……合わせるんじゃなくて」
「任せる」
「は?」
「一人で戦わせる」
「周りは、邪魔しない」
白峰が、少しだけ考える。
「……役割の再定義か」
「そう」
祖父が言う。
「面白い」
蓮斗が笑う。
「じゃあ、玲奈メインか?」
「……状況による」
玲奈は、短く答える。
「……でも」
「できる」
その言葉で。
少しだけ、見えた。
次の形が。
一人と複数。
どっちも強い。
でも。
使い方が違う。
それを。
選べるようになる。
それが。
次の段階だった。
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……まだ」
その一言で。
分かる。
まだ、足りない。
でも。
確実に。
近づいている。
あの存在に。
あの差に。
届くために。
進む。
止まらずに。
一人でも、戦える。
でも。
それだけじゃ、足りない。
だから。
選ぶ。
その形を。




