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第20話 「越えられない差」


 進む。


 足取りは、安定している。


 迷いもない。


 戦い方は、完成した。


「……いい感じだな」


 蓮斗が軽く笑う。


「現状の最適に近い」


 白峰も頷く。


 祖父が言う。


「油断するな」


「してねぇって」


 軽口。


 でも。


 どこかで。


 思っていた。


 ――もう、大丈夫だと。


 その時。


 空気が変わった。


「……止まれ」


 祖父の声。


 全員が、動きを止める。


 気配。


 今までとは、明らかに違う。


 重い。


 濃い。


 そして。


 “静かすぎる”


「……何だ、これ」


 蓮斗の声が、少しだけ低くなる。


 姿が、見える。


 影。


 でも。


 今までの“影”とは違う。


 形が、はっきりしている。


 人型。


「……魔王じゃない」


 白峰が言う。


「だが、それに近い」


 祖父が、わずかに構える。


「……来るぞ」


 次の瞬間。


 消えた。


「――!」


 速い。


 いや。


 違う。


 認識が、追いつかない。


「右!」


 叫ぶ。


 でも。


 遅い。


 蓮斗の身体が、吹き飛ぶ。


「っ――!!」


 壁に叩きつけられる。


 動かない。


「蓮斗!」


 玲奈が動く。


 踏み込む。


 でも。


 当たらない。


「……見えない」


 その声の直後。


 玲奈が、弾かれる。


 床に転がる。


「……っ」


 立ち上がる。


 でも。


 間に合っていない。


 白峰が言う。


「……パターンがない」


「いや」


「ある」


 自然に口に出る。


「……こっちが追えてないだけだ」


 祖父が、わずかに笑う。


「いい見方だ」


 でも。


 分かっている。


 見えていない。


 届いていない。


 今までの全部が。


 通じていない。


 重なる動きも。


 優先順位も。


 無駄削減も。


 全部。


 意味がない。


「……下がれ」


 祖父の声。


 即座に距離を取る。


 影は、追ってこない。


 ただ。


 そこに立っている。


 余裕。


 完全な、格上。


 蓮斗が、かすかに動く。


「……くそ」


 生きている。


 でも、ダメージが大きい。


 ぴーちゃんが、強く光る。


「……だめ」


 回復。


 でも、追いつかない。


 玲奈が、低く言う。


「……勝てない」


 白峰も、否定しない。


「現状では、無理だ」


 静かな結論。


 祖父が、言う。


「逃げるぞ」


 迷いがない。


「……いいのかよ」


 蓮斗が言う。


「いい」


「勝てない戦いは、するな」


 それが。


 現実だった。


 俺は、前を見る。


 影。


 動かない。


 追ってこない。


 ただ。


 そこにいる。


 圧倒的な存在として。


 そして。


 理解する。


 今の俺たちでは。


 届かない。


 どれだけ積み上げても。


 まだ。


 足りない。


 その時。


 声が、響いた。


【……対象を確認】


 少しだけ、間があって。


【適応を開始します】


「……は?」


 白峰が、わずかに目を見開く。


「……今の、何だ」


 ぴーちゃんが、震える。


「……やだ」


 その一言で。


 分かった。


 あれは。


 ただの敵じゃない。


 そして。


 この世界は。


 まだ。


 何かを隠している。


 俺たちは、後退する。


 逃げる。


 悔しさはある。


 でも。


 それ以上に。


 理解している。


 今は。


 まだ、戦う時じゃない。


 でも。


 いつか。


 あれを越える。


 そのために。


 積み上げる。


 もっと。


 強くなる。


 越えられない差は、確かに存在する。


 でも。


 それを越えるために、進む。



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