第2話 違和感の正体
洞窟の奥は、思ったよりも広かった。
さっきの“部屋”を抜けた先にも、同じような空間が続いている。
ただの一本道じゃない。
構造がある。
「……これ、完全に“作られてる”よな」
「だろうな」
祖父は迷いなく歩く。
足音が、妙に軽い。
「さっきのも、あれ……なんだったんだ?」
「敵だろ」
「いや、そうだけど……」
言葉が続かない。
敵。
それで説明はつく。
でも、納得はできない。
ふと、違和感に気づいた。
「……静かすぎないか?」
「言っただろ」
祖父は振り返らない。
「“何かいるから静かなんだ”」
その瞬間。
小さな音がした。
ぴち、という、水音みたいな音。
「……今の聞いたか?」
「ああ」
祖父が止まる。
視線だけで、周囲を探る。
もう一度。
ぴち。
音のする方へ、ゆっくり近づく。
足元。
岩の隙間に、何かがあった。
「……なんだこれ」
それは、小さかった。
手のひらに収まるくらいの、透明な塊。
ぷるぷるしている。
――スライム?
でも、妙だった。
普通なら、逃げるか、襲うかするはずなのに。
ただ、そこにいる。
そして。
目が合った。
「……」
「……」
沈黙。
「……おい」
思わず声をかける。
すると。
「……だいじょうぶ?」
固まった。
「……は?」
祖父が一歩前に出る。
その目は、さっきの戦闘よりも鋭い。
「今、何て言った」
透明なそれは、少しだけ揺れた。
「……いたいの、ない?」
「……」
頭が追いつかない。
喋った?
今、これが?
「……敵か?」
祖父の声が低くなる。
透明なそれは、少しだけ後ろに下がった。
でも、逃げない。
「……こわいの、やだ」
その一言で。
身体の力が、少し抜けた。
「……いや、これ」
どう見ても、敵じゃない。
少なくとも、さっきの黒い塊とは違う。
しゃがみ込む。
「……お前、何なんだ?」
少し間があって。
「……ぴーちゃん」
「名前かよ」
思わず笑いそうになった。
この状況で、その名前。
祖父が、まだ警戒したまま言う。
「拾うのか?」
少しだけ考える。
でも、答えはすぐ出た。
「……置いてく理由もないだろ」
手を伸ばす。
一瞬だけ、ぴーちゃんが揺れた。
でも、逃げなかった。
そっと持ち上げる。
軽い。
温かい。
「……ほんとに大丈夫か、これ」
「分からん」
祖父は即答した。
「ただ一つ言える」
「何」
「“普通じゃない”」
それは、間違いなかった。
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……いっしょ、いく?」
その言葉に、少しだけ迷った。
でも。
「……ああ」
自然に頷いていた。
その瞬間。
また、あの声が響いた。
【個体の接触を確認】
「……またか」
【判定:対象外】
「……は?」
意味が分からない。
祖父が、わずかに眉を動かす。
「……今のは、さっきと違うな」
確かに違う。
同じ“声”なのに。
どこか、ズレている。
ぴーちゃんが、小さく震えた。
「……へん」
その一言だけで。
背筋が、冷たくなった。
理解したわけじゃない。
でも。
これは、ただの“力”じゃない。
そして。
何かが、こっちを見ている。




