第13話 「一人と複数」
洞窟の奥は、これまでよりも静かだった。
いや、違う。
「……静かすぎる」
自然に口に出る。
蓮斗が肩を回す。
「なんか逆に気持ち悪いな」
「気配が薄い」
白峰が言う。
「だが、消えているわけではない」
祖父が短く言う。
「来るぞ」
その瞬間。
風が走った。
「――っ!」
何かが横を抜ける。
速い。
視界に、影だけが残る。
「今の何だ!?」
蓮斗が振り返る。
「……新種」
白峰の声がわずかに低くなる。
次の瞬間。
背後から、音。
「後ろ!」
振り向く。
そこにいたのは。
細い。
鋭い。
黒い影。
――疾影。
今までの“塊”とは違う。
明らかに軽い。
「……速い」
玲奈が、小さく呟く。
疾影が動く。
消える。
「見え――」
間に合わない。
蓮斗の肩が、切り裂かれる。
「っ……!」
血が飛ぶ。
「……浅い!」
でも、速い。
「パターンがない!」
白峰が言う。
「動きが不規則!」
つまり。
今までの戦い方が通じない。
「……散るぞ!」
即座に判断する。
全員が距離を取る。
連携を崩す。
「は!?またかよ!」
「一人で見ろ!」
言い切る。
疾影は、一対一で動く。
群れじゃない。
単体で狩るタイプだ。
なら。
こっちも単体で対応する。
「……来る」
感覚が走る。
“危険察知”が反応する。
身体が、先に動く。
横にズレる。
直後。
空間を切る音。
「……そこか」
見える。
ほんの一瞬だけ。
視覚が補正される。
動きが、繋がる。
足を踏み込む。
当たる。
浅い。
でも。
「……効く」
玲奈も動く。
「……速い」
でも、追いついている。
自己回復で無理を押し通す。
蓮斗が叫ぶ。
「こいつ、軽い!」
「耐久が低い!」
白峰が即座に言う。
「当てれば落ちる!」
なら。
削るんじゃない。
当てる。
「……絞るぞ」
無駄を削る。
動きを減らす。
最短だけを見る。
疾影が来る。
見えない。
でも。
来る場所は分かる。
「……ここだ」
踏み込む。
刃が入る。
疾影が、大きく揺れる。
玲奈が、同時に入る。
「……落とす」
一閃。
黒い影が、崩れた。
静寂。
「……はぁ……」
蓮斗が息を吐く。
「なんだよ今の」
「完全に別物だ」
白峰が言う。
「戦術を変えなければ対応できない」
祖父が短く言う。
「いい判断だ」
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……つよい」
その時。
床に、何かが残っていた。
「……ん?」
黒い粒。
さっきの敵とは違う。
少しだけ、光っている。
「……これ」
触れる。
その瞬間。
頭の中に、情報が流れ込む。
「――っ!」
【速度因子を取得しました】
「……は?」
全員がこちらを見る。
「何があった」
「……分からない」
でも。
分かることが一つだけある。
これは。
スキルに近い。
白峰が、静かに言う。
「……敵が“落とした”のか」
「……多分」
蓮斗が笑う。
「いいじゃねぇか」
「強くなるってことだろ?」
祖父は、何も言わない。
ただ。
少しだけ、目を細めていた。
ぴーちゃんが、小さく揺れる。
「……へん」
「何がだ?」
「……ちがう」
その一言が。
妙に引っかかった。
その時。
あの声が、響いた。
【追加ボーナスを付与します】
少しだけ、間があって。
【……あ、いえ、問題ありません】
「……は?」
今。
何か、おかしかった。
白峰も気づいている。
「……今の、遅れたな」
祖父が低く言う。
「……ああ」
ぴーちゃんが、震える。
「……だめ」
その一言で。
確信した。
これは。
ただの“力”じゃない。
そして。
俺たちは、まだ知らない。
この世界の。
本当の仕組みを。




