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第1話

 最初に違和感を覚えたのは、足元だった。


 踏みしめた地面が、やけに冷たい。


 いや、違う。

 冷たいんじゃない。均一すぎる。


「……ここ、変だな」


 思わず呟くと、背後から低い声が返ってきた。


「気づくのが遅い」


 振り返るまでもない。祖父だ。


 黒崎 恒一。

 元軍人で、今もなお現役みたいな目をしている。


「洞窟ってのはな、こんなに“整って”ねぇ」


「……整ってる?」


「壁見てみろ」


 言われて視線を上げる。


 ――ぞわっとした。


 岩のはずの壁が、妙に滑らかだった。

 削られたみたいに、均一で、綺麗すぎる。


 自然じゃない。


「……人工?」


「にしちゃ妙だな。人の手じゃねぇ」


 祖父はそう言って、ゆっくりと奥へ歩き出した。


「行くぞ」


「……ああ」


 止まる理由はなかった。


 というより――

 ここで引く選択肢が、頭に浮かばなかった。


 奥へ進むにつれて、空気が変わる。


 湿っているのに、息苦しくない。

 音が吸われるみたいに、静かだった。


「静かすぎるな」


「何もいないってことじゃないの?」


「逆だ。何かいるから静かなんだ」


 短い言葉。


 でも、妙に納得できた。


 数分ほど進んだところで、それはあった。


「……なんだこれ」


 思わず足を止める。


 部屋だった。


 洞窟の中に、明らかに“空間”がある。

 天井も、壁も、床も――整いすぎている。


 そして、その中央。


 黒い塊があった。


 うごめいている。


「……生きてるな」


 祖父が一歩前に出る。


「下がれ」


「いや、俺も――」


「死ぬぞ」


 その一言で、足が止まった。


 理屈じゃない。

 ただ、“そうなる”と分かる声だった。


 黒い塊が、こちらを向いた。


 目がある。


 いや、“目のようなもの”が、複数。


 ぞっとする。


 視線が合った瞬間、全身が硬直した。


 ――ヤバい。


 言葉にならない感覚が、脳を叩く。


 次の瞬間。


 祖父が動いた。


 無駄のない踏み込み。

 一直線の動き。


 黒い塊が反応するより早く、懐に入り込む。


「――遅い」


 低く呟き、振り下ろす。


 鈍い音。


 黒い塊が、歪んだ。


「今だ、悠真」


 その声で、身体が動いた。


 考えるより先に、地面を蹴る。


 怖い。

 でも、それ以上に――


 逃げる選択がない。


 近づく。


 黒い塊がこちらに腕のようなものを伸ばす。


 速い。


 でも、見える。


 いや――


 “どこに来るか分かる”


 身体が勝手に動いた。


 わずかにズラす。


 当たらない。


「……いける」


 そのまま、踏み込む。


 祖父が作った隙。

 そこに、迷いなく手を突き出す。


 触れた瞬間。


 黒い塊が、崩れた。


 ――静寂。


「……終わりか」


 息を吐く。


 全身がじんわり熱い。


 心臓の音がうるさい。


 その時だった。


 声が、聞こえた。


【初回ボーナスを付与します】


「……は?」


 思わず周囲を見る。


 祖父も同じように目を細めていた。


「今の……聞こえたか?」


「……ああ」


【スキルを獲得しました】


 次の瞬間。


 頭の奥に、何かが流れ込んできた。


 情報。

 感覚。

 理解。


 “最適行動補正(微)”


「……なんだこれ」


 意味は分かる。

 でも、理解が追いつかない。


 祖父が、静かに呟いた。


「……始まったな」


「何がだよ」


 少しだけ、間を置いて。


「――戦場だ」


 その言葉が落ちた瞬間。


 妙に、納得してしまった。


 まだ何も知らない。


 でも、分かる。


 これは、ただの洞窟じゃない。


 そして――


 ここから、全部が変わる。



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