三連――キセキノナマエ
その墓は、妖精界の光と闇、どちらにも属さない“緑の静域”と呼ばれる森の中心にある。
そこに眠っているのは、最後に“光と闇を一度だけ結ぼうとした”という伝説の妖精――
「アルノス」
彼は失敗し、その記憶も消されたはずだった。
でも、私は、「その名をなぜか忘れられなかった」。
森を抜け、霧の谷を渡り、私とフォレスは、静域の丘へとたどり着いた。
そこには、ひとつの小さな石碑。風にゆれる草に囲まれて、ひっそりと佇んでいる。
「ここだ・・・」
私が近づくと、ふいに、碑の表面にうすく光る紋章が浮かびあがった。
まるで、私を待っていたように。紋章は、輪の中に三つの枝が広がる形――
どこかで見たことがある。いや、心の中に最初からあったような気がする。
フォレスが、そっとささやいた。
「この紋章は、”名の記憶”を宿すための鍵。あなたの名前――それは、”アルノス”が遺した最後の言葉に結ばれているかもしれない」
石碑の前に立ち、紋章の中央に手を重ねる。
私の心の中に、ひとつの”響き”が落ちてきた。
「ミラノア」
その響きは、意味も、由来も分からない。
でも私の心に、ぴったりと“重なった”。
フォレス、微笑みながら言った。
「・・・その名、すでにあなたの中に宿っていたのね。ようこそ、”ミラノア”。これからの物語は、あなたが選んで綴るもの。あなたの名を持った、”あなた自身の冒険”として」
ミラノア・・・私は、「ミラノア」。やっと、自分の名前が見つかった。
―――でも。
空を見上げる。まだ、空と壁は戻っていないけれど・・・
「これは、長く続かない」はっきりと、そう思った。
なぜみんなは記憶を失っているのか、なぜ記憶を失っているのにつなごうとするのか。
その謎を解き明かしたうえで、「ウロ」を消さないと、妖精界は「元に戻ってしまう」いや、「元に戻らない」。
今、みんなは、壁があったところに集まっている。大人たちは、心を躍らしている。私は、静かにその様子を見降ろしていた。
「なぜ誰も、”失敗の記憶”を覚えていないのか。それはきっと、ウロ自身の力。”記憶にとどまることを許さない力”。だからみんな、つなぐたびに失敗しても、また希望を抱いてしまう――」
フォレスは、遠くを見るような目で語った。私にとって「よくない存在」が、近くにいる気がした。
「でも、ミラノア――あなたは”ウロの時代”に生まれた唯一の存在。しかも光と闇の両方から生まれた、中立の妖精。あなたには、ウロのちからが通じない。いえ、逆に馴染みすぎているのね。だからこそ、記憶をもっていられる。つまり、ウロに立ち向かえる」
フォレスがこちらを向く。その顔は、幼い子のような笑顔。
「次は、どこに行こうか」
その瞬間、世界が何かを祝っているかのように、優しく風が吹いた。
―――なのに。
胸の奥で、何かが“痛んだ”。
まるで、遠くで誰かが同じ言葉を聞いているみたいに。
『ミラノア・・・気づいてくれて、ありがとう』
背後から聞こえた声は――あのとき消えたはずの花。
けれど今、姿はなく、声だけが耳に届く。
『ウロは、あなたと同じ心から生まれた。あなたが――かつて”雫を落としたその心”に触れること。それが、最後の鍵』
空の色は少しずつ変わろうとしている。
でも、まだ間に合う。
“つなぐ”ことは、悪くない。でも、それが“正しく”行われるためには――
「すべてを思い出す」ことが、どうしても必要。




