黒毛達の憂鬱
しいなここみ様主催『華麗なる短編料理企画』、三品目です。
オチで気持ち悪くなる可能性もございますので覚悟を以てご賞味ください。
「ほら、こっちだ。 こっちに来いって」
オレはいつもの様にいつもの仕事を今日も行っている。
親会社の持つ大規模な酪農場での、家畜の分別作業だ。
サイズや性別、地毛の色で選別し、搾乳用、繁殖用、食肉用に分別するのだ。
搾乳用は判りやすいが、繁殖用と食肉用に分けるのは中々センスのいる作業だと自負している。 もっとも、搾乳用も将来性を考えるならただ単純に余ったメスを全て、という訳にもいかない。 いい血筋を残す為に搾乳の為の繁殖用、食肉の為の繁殖用を残していくのがプロというものだろう。
「おいこら、お前はこっちだ」
しかし、こいつら、言葉が解っているはずもないのだが、食肉用に選んだ者達は大抵悲痛な叫びを上げながら抵抗する。 轡をしているせいで叫びと言うより唸り声にしか聞こえないが、何となくではあるがそれは表情からも読み取れるのだ。
家畜の表情が解るなんて、オレもこの仕事が長いからなあ……。
「この、こら抵抗すんな!」
この家畜の中で、特に黒毛は食肉として人気のある種類だ。 その為、オスは八割方食肉へ回される。
問題はこの黒毛にそっくりで別種のモノがいるのだが、そっちは脂が酷くて家畜のエサにしかならない点だろう。
買い付け担当がたまに間違えてしまうくらいそっくりで、それを篩に掛けるのもオレの仕事という訳だ。
こいつが間違って繁殖用に入ってしまえば会社が大打撃を受けることになるからな。
「って、やっぱりいたか! おい、こいつは即殺処分だ! 急げ! 逃がすなよ!」
しれっと混ざってやがった別種を柵の外へ放り投げる。
頭から落ちたせいかまともに立てずにいる内に、担当スタッフが駆け寄り縄を掛けた。
首に掛けられた縄が痛々しいが、情けを掛ける訳にはいかない。
次に生まれる時は芦毛か黒毛になって来てくれ。 そしたら歓迎だからさ。
この日も四桁近い選別を終えて、アフターファイブとなる。
オレは蹄で角を掻きながら今晩の食事を待っていた。
我が社の社員食堂は、端肉ながらも黒毛で作られた料理を振る舞ってくれるのだ。 社長様々である。
今日は結構な量の肉が入ったカレーだった。 ただカレーというだけでも食欲をそそるというのに、そこに入る肉が黒毛だなんて! 匂いだけでも涎の止まらなくなる様な一品である。
もう着席した時点で口の中はカレーフェスティバルだ!
お待ちかねのカレー皿からもう視線を逸らせない。
まず一口
すかさず二口
ああ、いい……。 やはり、旨い……!!
黒毛和人の肉はやはり最高だな!
オレ
種族:タウロシアン
性別:オス
嗜好:肉食よりの雑食
ちょっとカレーの絡みが足りなかったかな? カレーだけに。