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【4000PV 感謝】カロ - 黒魔術の子 と 人形少女 - 【第1章・第2章 完結済み/第3章 2月23日~(前倒しの可能性有り)】  作者: 誰時 じゃむ
2章 - 第7話 それぞれの敵

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7-end 懺悔

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん) 


 家中の窓という窓、カーテンというカーテン、扉という扉を開け、布団という布団を干すと、一行は環境が1番マシだった部屋で陽華以外はそれぞれが椅子に腰を掛けた。


 そこは庭と繋がっている大窓があるリビングで、1番新鮮な空気が出入りする空間でもあった。


「――――生物(なまもの)は無いようですね」


 棚の備蓄を確認しながら、陽華が言った。

 すぐ近くの机の上には、食べられるものと食べられないものに分かれ、主にカップラーメンや缶詰が並べられていた。


「ああ。ヒュウガさん、禁書の力で転生するつもりだったらしいし、最低限の備蓄以外は、整理して捨てて置いたんじゃ無いですかね」


 カロが答える。すると、陽華は「なるほど」と納得し、それから食べられない分の缶詰をひとまずゴミ袋にしまった。


「さて、今後についてですが――――」


 が、その時、陽華の言葉を遮るように――――項垂れていたアザミの腹がぐうっと鳴った。


「……食事にするか」


 カロがそう提案する。と、陽華も「そうですね」と同意して、


「どれにしますか? 焼き鳥……、鯖……、カンパンなんかもありますけど……」


 と、自分の食べたい缶を選ぶように促した。


「あ、そういえば、ここって水とか……」


「どうやら通っていないようです。でも、飲み水は棚の中にペットボトルがありましたから、なんとかなりそうです」


 それから陽華はアザミに「アザミはどうしますか?」と尋ねる。しかし、アザミから帰ってきたのは、


「いらない」


 という、返答だった。それは、この山に来てから初めてアザミが口にした言葉だった。


「あ? 何言って……」


 カロが振り返る。腹を鳴らした張本人だというのに、いらないとはどういう了見か。


「それより、次にどうするかを……」


 アザミがそう続けると、陽華は親が子を諭すように、


「アザミ、体調を崩しては元も子もありませんよ。次にいつ休憩できるかは、分かりません。ここでエネルギーを補給しておくべきです」


 と、返した。


「――――なら、その敬語やめてよ」


 すると、項垂れたまま、アザミは脈絡のないことを口にした。しかし、


「え……」


 と、困惑する陽華に、アザミは、


「いつもみたいにさぁ……。冷静に次のことだけ考えればいいじゃん。あたしのことなんか気にせずにさぁ……! 上っ面だけ気遣って、そういうのマジでイラつくんだけど……!!」


 と、何かのスイッチが入ったように沸々と語気を強めていく。アザミのその低く聞く者にぞくっとした緊張感を持たせる声を聞いて、カロは何かまずいことが起きる予感がした。


「……お姉ちゃん、岩手と何があったの?」


 アザミが問う。


「聞いたよ。カロと別れて捜査してたんだって? それで岩手に巻き込まれて、指名手配になって……」


「それは……」


 陽華が口ごもる。と、アザミはギリッと歯を食いしばり、そこからはもう止まれなくなった。


「ねえ、なんでカロを置いていったの? どこにいたの? なんで、自分でなんとかしようとするの?」


 カロだってアザミを(なだ)めたいが、アザミはずっと顔を伏せたままで、口を挟もうにも挟めない。


「お姉ちゃん、いつも何も言ってくれないよね……」


 だんだんとアザミの声が震え始める。


「怖かったよ、あたし……! 死んじゃったんじゃ無いかって……!! なのに、今後の話とか、なんでお姉ちゃんはそんな冷静でいられるの!? やっと会えたのに、なんで抱きしめ返してくれないの!?」


 言葉を紡ぐその声は、もはや悲鳴だった。

 姉の指名手配、いきなりの戦闘、そして再会、空腹と安堵、色々なものが積み重なって、心が限界を迎えていたのかもしれない。


「なんで、いつも守ろうとするの!? 何も言わないでどっか行っちゃうの!? 一緒に戦ってくれないの!? 置いてかないでよ……!! 家族でしょ……!! お姉ちゃんでしょ……!! あたしの、お姉ちゃん――――」


 アザミの口は止まらない。むしろ、どんどん熱を帯びていく。魔力も乱れ、アザミの周りにはチリチリとした炎が生まれ始める。


「――――ミ、アザミ!」


 その時、アザミの顔を無理やり上げさせたのは――――シズクだった。


 シズクが、アザミをそっと抱きしめる。と、カロが、アザミの疲れ切った顔に、


「アザミ、今日は一旦休め。陽華さんだって疲れてるし、それにお前やつれてる。――――心配すんな。陽華さんだって、岩手に狙われてるんだ。今は、勝手にどこにも行けやしねえから」


 と、告げた。


「陽華さんも、今後の話は明日でいいですね?」


 カロが問うと、


「……そうですね 今日は各自休養ということで」


 と、陽華が答える。


「行こ。アザミ」


 それを聞いてシズクが立たせて手を繋ぐと、アザミは呼吸を整えてから何も言わず小さく頷いた。


 リビングに残された、カロと陽華。

 2人の元には、静かに階段を登っていくシズクとアザミの足音が気まずく響いた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 アザミが寝ている部屋をノックして、中に入る。


 スースーと寝息を立てているアザミのすぐそばで、椅子に座ったシズクが心配そうにその顔を見つめていた。


「これ、缶詰いくつか見繕ってきた。あと、一応おかゆのパックも。起きたら食べさせてやれ」


 シズクは黙って頷く。その時、開けっぱなしの窓から微風が流れ込んだ。


 窓から差し込む光は微睡み、もうすっかり日は傾いていた。


「もう少し、換気してた方が良さそうだな。寒くなってくる前には、閉めろよ」


 カロは机の上に缶詰を置いて、


「無理すんなよ。あと、魔力供給だけに頼るんじゃなくて、ちゃんとお前も飯食えよ。その体、人間に近づいていってるんだから」


 と、その背中に告げる。しかし、シズクは、


「うん」


 と、生返事をするだけだった。


 それを見かねてか、カロはその頭にポンと手を乗せると、


「お前まで倒れたら、誰がアザミを看病すんだよ。そういう意味でも、ちゃんと食えよ」


 と、さらに言い聞かす。すると、今度は、


「……うん」


 と、同じような声の調子だけどしっかり聞き入れたようで、それが分かったカロは、


「じゃあ、俺は汗を流してから。アザミのこと、頼んだぞ」


 と、言い残し、その場を立ち去った。


 パタンと扉を閉じると、


「……どうしたもんかね」


 と、呟くカロ。


(現状は証拠を持ってるから、こっちが有利……)


 階段を降りながら考えを巡らせる、カロ。


(……と、見せかけて、陽華さんは指名手配だし、特魔は岩手隊に警戒されてるし、時間をかければ総司令も立場が悪くなるだろうし。追い詰められてるのは、こっちなんだよな)


 そうして、何気なく開けた洗面所の扉――――目に飛び込んできたのは、真っ赤に染まったシャツを脱ぎかけていた半裸の陽華の白い素肌だった。


「――――おわおわおわおわッ!! 失礼しました!!」


 その光景はカロには刺激が強すぎた。

 忘れるなかれ、カロはまだ高校2年生。色々な事柄でドキドキしてしまう、年頃の男子なのだ。


(忘れろ忘れろ……!!)


 頭を振って邪念を払おうとする、カロ。――――しかし、同時に引っかかっていることもあった。


「あ、あの、陽華さん。そのシャツの染みって……」


 それは、陽華の裸よりも先に目に飛び込んできた、シャツに広がる赤い染みだった。おそらく、血であろう。それも、尋常じゃない量の。


 呼びかけた洗面所の扉の向こう。返事は返ってこない。


 しかし、それから1分が経つ頃だろうか。陽華は、


「……洗面所に、入ってきてください。私は浴室にいますから」


 と、カロに声をかけた。


「へ……?」


 またもや、返事はない。それから、浴室の扉を閉めたであろう音がして、カロは葛藤の末、


「し、失礼しまーす……」


 と、洗面所に入ることにした。


 さっきの出来事もあってか、カロは慎重に扉を開ける。と、そこには言葉通り陽華の姿はなくて、着替えだけが置いてあった。


「すみません。シャツを処分しようと思っていたのですが、鍵をかけ忘れていたみたいで……」


 陽華の言葉が、浴室に反響する。


「……いえ、こっちも考え事してたんで」


「でも、お風呂には入れますよ。この家、雨水を貯水してたみたいで。それを熱した石を入れて、沸かしておきました。骨喰特等も入る際は、お声がけください。温め直しますから」


「そ、そうですか。それはどうも。……で、何の用で?」


 カロが本題に入ろうとすると、陽華は一瞬黙り込む。そして、何かを決意したように息を吸うと、


「……そこで、話を聞いてくれますか?」


 と、真剣な面持ちで言った。


 陽華の言葉に従うように、カロは浴室と洗面所とを区切る扉の前に体育座りになる。


「……アザミが寝ているうちに、話しておこうと思ったのです。捜査の間、何があったのか。そして、どうしてあの場から逃げ出せたのか。どうして、岩手は私を追うのか」


 チャパッと、浴槽に溜まったお湯の揺らぎが聞こえてくる。


「骨喰特等。……いえ、骨喰加那太くん。あの日、禁書災禍(きんしょさいか)で失われたもう1つの禁書、禁書《盲信(アイポニー)》を持っているのは――――私なのです」


 再び、チャポッと浴槽が揺れた。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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