7-6 さらなる乱入者
薄紫の髪が揺れる。――――シズクの顔が、棍棒のような魔石具で殴られた。
しかし、シズクはすぐにキッと顔を正面に戻すと、殴ってきた女を手にはめた機械製の拳でぶっ飛ばした。
出口の階段はすぐそこだった。
服はボロボロだし満身創痍だが、カバンの証拠さえ特魔に持っていければそれで良かった。
しかし――――そんな希望はすぐに打ち砕かれる。
「――――止まりな」
そんな言葉と共に、シズクの足元にアザミが転がってくる。
アザミの来た方を振り返ると、そこに立っていたのはレンだった。
「あ? 魔石具使えねえ人形1体に、どこまでやられてんだよ。……ま、主力はあっちの対処に行ってるし、仕方ねえか」
レンは、辺りを見回すとそう愚痴を吐いた。
すると、それに続いてコインの弾む甲高い音と共に、リトリーに蹴り飛ばされながらカロも現れる。
「カロ!!」
シズクがそれを抱き止めると、リトリーは、
「なんだ。みんな、ここにいたんですか」
と、地面に降り立った。
「おいおい、工場を壊すんじゃねえよ……」
レンが気だるそうに呟く。
「今はこっちが優先です」
「……で、殺したの? あいつ」
「今からです」
「あっそ。こっちもだ。普通に掻っ捌くか?」
「まあ、証拠の回収さえできれば、いいんじゃないですかね」
淡々と当たり前のように殺し方を話し合う、リトリーとレン。その光を背負って立つ2人の姿が、シズクには悪魔に見えただろう。
どう足掻いたって勝てる気はしない。
だが、横にある地上へ続く階段から証拠を持って外出ればいいだけだった。別に勝つ必要なんてない。――――だけど、目の前にはカロとアザミが倒れている。なら、ここに2人を置いてはいけない。シズクはそういう性格だ。
シズクは決心し、カロを地面に優しく置くと、拳を2人に向かって構える。
「なんです? やるつもりですか?」
「なら、とっとと終わらせよう。楽しくもなさそうだ」
すると、リトリーとレンも各々武器を構えて、再び開戦の火蓋が切られる。――――そんな時だった。
ゾクッ――――ヒュウガと対峙した時に味わったのと同じような異常な寒気が工場全体を襲う。
すると、次の瞬間――――階段から雪崩れ込んできたのは、黒い魔力だった。
それがカーテンとなって、シズクの姿をリトリーたちから隠す。と、次にリトリーたちが目を開けた時、そこにシズクたちはいなかった。
▼ ▼ ▼ ▼
次に黒の魔力の霧が晴れた時、カロたちがいたのはアザミと陽華の思い出の丘だった。
「……陽華!」
そんなシズクの声で、カロとアザミが起き上がる。
すると、2人の目に映ったのは――――確かに陽華の姿だった。
「お姉ちゃん!!」
アザミは反射的に陽華に抱きつくと、
「良かった……!!」
と、安心したように声を漏らす。しかし、一方で陽華の顔は強張ったままだった。
「どうやって、ここに……」
カロが尋ねると、それを制すように、
「今は説明している暇はありません。それより、今はどこか安全なところへ避難を」
と、陽華は言った。
「何言ってるの、お姉ちゃん! このまま、証拠を持って特魔に――――」
その提案にアザミは反論する。が、陽華は毅然とした態度で、
「今、特魔の周りには岩手の魔石具部隊が跋扈しています。この満身創痍の面々では、そこに到達する前に死んでしまう」
と、アザミの案を否定した。
「ともかく、ここから動きましょう。いつ、彼らが魔力の痕跡を辿ってここへくるか分からない」
陽華はこんな事態になっても再会を噛み締めはせず、理性的な態度でアザミを自分から引き剥がし、カロたちにそう提案する。
と、カロはその言葉を聞いて、
「……あの、なら麓の赤木家に魔術布って余ってないっすかね。できれば、3枚。俺に考えがあります」
と、答えた。
▼ ▼ ▼ ▼
赤木家はしんとしていた。
鍵には魔術がかけられていたが、陽華がその解除の仕方を知っていたのでカロたちの行手を阻むことはなかった。
「……何年振りですかね。ここへ帰ってくるのは」
それは、大きな和風造りの家だった。
大きな庭に、奥には道場。離れには蔵があって、まるで古い時代をテーマにした作品で出てくる大地主の家のようだった。
「家族で集まったりしないんすか?」
カロが靴を脱ぎながら、何気なく聞く。
「ええ。今は、誰も。母は海外ですし、父は仕事にかかりきりですから」
陽華がそう答えると、横からアザミが、
「お姉ちゃんだって、帰ってこなくなったくせに」
と、口を挟んだ。そして、そのままアザミは玄関と廊下の境にどかっと座り込んだ。
「あたしは、ここで待ってるから」
それを見ても、陽華は何も言わず、
「……魔術布はこっちです。ついてきてください」
と、カロを促す。やがて、カロたちは廊下の奥へと消えていってしまった。
「やっと会えたってのに、喜んでもくれないんだな」
遠のく足音。アザミは玄関で、まるで独りぼっちになったかのような気分になった。
(この家に来ると、嫌なことばっか思い出すな……)
そして、心が独りぼっちになると、人は自分の内側と嫌でも向き合うことになる。
(あの時もそうだった。お姉ちゃんは何も話してくれなかった――――)
この環境が、家が想起させたのは――――カロに語った花火の思い出の日の夜のことだった。
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