7-5 覚醒に次ぐ、覚醒
一方、出口へと向かってカロに押し出されたシズクは――――魔石具の山にガシャンッと背中から着地し、それから地面へと転がり出た。
すると、それを予測していたのか、あっという間に作業服を着た魔石具使いの青年たちがやって来る。その数、4人と言ったところだろうか。
右も左も塞がれてしまった、シズク。
しかし、シズクはそこでハッと閃くと、自分が着地した山から魔石具を取り出して身に着け、ファイティングポーズをとった。
身に着けたそれは、機械製の手袋のようなものだった。
手の甲側、各指の根本には小さな魔石が埋め込まれていて、どれも紫色をしていた。
「馬鹿め!! それは生体を登録された人間にしか、使えねえんだよ!!」
すると、青年の中から1人、男が黄色の魔石のついた斧で殴りかかってきた。――――しかし、シズクは怯まない。
シズクはグッと拳を握ると、土人形由来の持ち前の身体能力で男の懐に入り込み、
「早っ――――」
と、驚く暇も与えず、その拳で男を彼方まで殴り飛ばした。
残された3人は、一斉に臨戦体制になる。と、シズクはガシャンッとその拳を自分の前で打ち合わせて、
「押し通る」
と、言ってみせた。
▼ ▼ ▼ ▼
「チッ……!!」
殴りかかってきた斧を十字架のハンマーで受け止め、声を漏らす、アザミ。
今、アザミは半田レンを含む3人の追手に襲われていた。
アザミのハンマーは相変わらず巨大だった。
全長はアザミの大きさをゆうに超えていたし、槌の部分だけでも半身ほどの大きさがあった。潰されてしまえば、ひとたまりもないだろう。
が、その大きさこそが、このものが密集した工場ではデメリットになっていた。
「《爆花爆ッ――――」
アザミは自分にのしかかっている斧を持った男をどかそうと、ハンマーを爆破させるためそう口にしかけた。――――が、そこへ横から宙を切り裂いて、赤い矢が飛んでくる。
アザミは咄嗟に体を左に捻り、同時にハンマーを1度消して、斧を受け流しつつ矢も躱してみせる。
しかし、さらにそこへ飛び込んできたのが――――レンだった。
「くたばりやがれ」
レンはアザミの頭上で高々とトンファーを掲げると、容赦なくそれを振り下ろす。直後、辺りは土煙で包まれた。
土煙の中から、弓を持った女、斧を持った男、そしてトンファーを携えたレンが先に現れる。
レンのトンファーには、拳を守るように持ち手の前に取り付けられたカバーに魔石が埋め込まれていた。色は、レンの髪と同じオレンジだった。
「……爆発で自分を飛ばし、逃げたか」
レンは土煙の向こうを睨む。
そこには、片膝をつきながら、ハンマーを支えにして荒く呼吸をするアザミの姿があった。
「か弱い女に3対1かよ……」
アザミは、息も絶え絶えになりながらレンたちを睨み返す。と、レンはそんなアザミの言葉に対して、
「……ハンマー振り回す爆弾魔の、どこがか弱い女だよ」
と、顰めっ面で突っ込まざるをえなかった。
「これ傘くらい軽いんだぜ、あたしにとっては。自分の魔力で生み出してるからな」
そう言いながら膝に手をつき、立ち上がる、アザミ。
「しかし、もっと小さくなってくれりゃあ、使い勝手もいいんだが――――」
すると、アザミはそう語っておきながら、遅れて自分の言った意味に気がついたようで、
「――――いや、やってみるか。どうせなら」
と、笑った。
「《聖痕火葬》――――《減殺》」
そうして、アザミの前に新たに現れたのは――――身の丈より大きかったハンマーではなく、細くデッキブラシのように先端も持ち手も洗礼された小回りの利くものだった。
「よし――――」
しかし、そう喜べたのも束の間――――アザミの元には赤い魔力を纏った矢が飛んでくる。
が、アザミはそれをハンマーをくるっと回して柄のほうで払ってみせると、足元に赤い魔力を回し、
「――――《爆花爆々》」
の言葉と共に、足元を爆破させ、自身を前に吹き飛ばし、一瞬で矢を放った女の目の前に現れてみせた。
すると、女は怯える暇もなくアザミのハンマーで吹き飛ばされ、壁に激突し、戦闘不能となる。ここまでのアザミの動きを目で終えていたのは、レンだけだった。
遅れて、斧を持った男が、
「……ッ!? うっ、うぁあああああッ!!」
と、悲鳴を上げながら斧で殴りかかるも、アザミはハンマーを背中でくるっと回して持ち変えると、男の斧を真上に弾き飛ばし、ズドンッとハンマーで男の頭を殴り、地面に叩きつけた。
残ったのは、アザミとレンだけだった。2人は仁王立ちで対峙する。
「やるか?」
アザミは狂気的な笑顔で問うた。すると、レンもそれに怖気付くことなく、むしろ笑って、
「早々に、死んでくれるなよ」
と、トンファーを振るった。
2人の争いは――――レンが細かく技を仕掛ければ、アザミがそれを操作がしやすい柄や持ち手部分で防ぎ――――アザミが大槌部分で攻撃を繰り出せば、レンは両腕に添うようにトンファーを持ってきて、受け止め――――アザミが柄をやりのように使って細かい攻撃を仕掛ければ、レンは腕をワイパーのように使ってそれを払った。
まさに、一進一退の攻防。
どちらかが少しでもダメージを負えば、一気に崩れてしまうようなそんな拮抗したやり取りの中で、しかし、アザミには気になることが1つあった。
それは、先ほど見せた狂気的な笑顔から一転して、鋭い目つきでやり合うアザミに対して――――対照的に、攻撃が止められたり、攻撃を防いだりすればするほど、どんどん笑顔になっていくレンの表情だった。
「……!!」
ズドンッ――――その時、トンファーの重い一撃がアザミに入る。
かろうじで今の攻撃は防げたが、心なしかトンファーの打撃も重くなっている気がした。
(……早々に決めるか)
アザミはこれまでの戦闘の傾向から、自身がハンマーを空振ればレンはそこを突いてくるということは、なんとなく予測できていた。――――だからこそ、アザミはそこを狙い撃つことにした。
アザミはわざとレンから距離を取ると、最初にやってみせたように足元を爆発させて一瞬で距離を詰める。
と、案の定、レンは後ろに飛び退き、アザミのハンマーは何者にも当たることなく地面に突き刺さった。
その直後――――レンは好機とばかりに距離を詰め、アザミに向かってトンファーを振おうとする。
そこでアザミは、ハンマーをレンに向かって放り投げた。魔力も込めてない、ただのハンマーそのままで。
「――――ッ!」
その一瞬、レンは立ち止まり、思考も停止する。と、アザミは、
「その一瞬が欲しかった」
そう言って、低い体勢でハンマーの下から現れた。手には何も持っていない。――――いや、持つ必要がなかった。
アザミは勢いのまま、レンの顔近くに手を差し込むと、
「――――《爆花爆々》」
と、唱えてみせる。それは、爆破の合図だった。
「お前……!! ハンマーしか爆破できないんじゃ……」
レンの目を丸くした顔に、アザミは笑って、
「魔術は解釈次第なんだぜ。使えないやつには、知らねえだろうけどな」
と、言った。
次の瞬間、アザミの手で包まれたレンの顔は、とてつもない爆発に包まれる。それは、発動者であるアザミ自身がのけ反ってしまうほどだった。
シュゥウッ……。
何かが蒸発するような音の中、蒸気が上がる。きっとレンの顔は吹き飛んでいるか、骨が剥き出しになっているだろう。
グロテスクな想像が過ぎって、思わず顔を逸らしたくなる蒸気の向こう。――――しかし、そこに映し出されたものを見て、アザミが口にしたのは、
「お前……!! 魔術使えるのかよ……!!」
という、驚きの言葉だった。
直後、アザミは腹を膝で蹴られ、勢いのまま地面をずるずると滑っていく。
一方で、レンは頭をガクッと下げると、未だ蒸気の止まぬ顔の下で、
「……ふふふふふふふ、んなははははははははッ!!」
と、大笑いした。
「ああ、昂った時だけな! だから、俺が生きてるのはてめえのおかげだ!! 感謝するよ!!」
「お前まさか……! 魔術的恍惚に……!?」
体から溢れるオレンジ色が、レンの顔を包む。と、レンの顔は急速に回復し、元の形を取り戻していった。
「確か生得魔術っていったっけか……!? 俺のそれは――――《V・4》。死なない限り、魔力の限り、超回復を可能にする。戦いにぴったりの力だ。どうだ羨ましいだろ!!」
ハイになりながらそう語るレンを見つめながら、アザミは冷静に、
(魔力の色、なんだったけな。赤は怒りで、確かオレンジは――――)
と、考える。
「さあ、もっと楽しませてくれよ!! なあ、赤木家!! なあ、一等魔術士!!」
そして、その言葉を聞いて、アザミは完全に思い出す。
(そうだ。確かオレンジは――――楽しさ、だったかな)
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