7-3 開戦
「……修行から逃げ込んだ場所ねえ」
カロが呟く。と、一行はちょうどよく山間部に出た。――――そこは、かつて思い出の中のアザミと陽華が会話をしていた場所だった。
「お姉ちゃんとの思い出の場所でもあるけど、良くも悪くも忘れられない場所だよ」
決して明るくはない声色でそう答えるアザミに、
「その肝心の隠し場所って……」
と、カロが尋ねる。
辺りはしばらく管理されていなかったのか、木や草花が生い茂っていて、隠すのには苦労しなさそうだが見つけるには大変な労力が必要そうだった。
「……あたしの炎で燃やしちまうか」
アザミが言った。
「え!?」
「冗談だよ。あたしが何年、妹やってきたと思ってんだ。心当たりぐらいある」
「やりかねないだろ……」
カロの言葉に、シズクもこくこくと頷く。
が、アザミはそんなことは気にせず、高く伸びた木の上の方を黙ってじっと見上げると、風を纏うようにして跳ね上がった。きっと、魔術を使ったのだろう。
「あった」
降りてくるなり、木々の間に隠されていた《魔術:障壁》で作られた玉をカロたちに見せてくる。と、中にあったのは――――丸められた2枚の紙と手紙の入った封筒だった。
アザミは「手袋」と言って、カロたちに指紋がつかないよう手袋をするように求めると、それから障壁を魔術で強化した拳で殴って砕き割った。
すると、パラパラと散っていく障壁から出てきたのは、1つは『飯原ヶ丘炉々の借用書』だった。
「斑目工業……。500万……」
カロが紙を手に取ってそう呟く。と、アザミは、
「こっちは土地の購入証明だ。名義は、岩手福寿。日付は……。ずいぶん前だな。何十年も前だ」
と、紙に書かれた内容を見せた。それから、アザミはカロの持っていた借用書の内容も、
「こっちの日付は、ずいぶん最近なんだな」
と、確認する。
「最近?」
そう口にすると、カロはそこに書かれた名前も相まって、
――――あの子、金を返しにきた。目処がついたって。
と、飯原ヶ丘の母親の言葉を思い出した。
その傍ら、アザミは最後の証拠である封筒を開ける。
「で、この手紙は……。差出人は飯原ヶ丘、宛先は……、これは岩手福寿の買った土地だな。内容は――――」
そう言って、アザミは封筒に入った手紙を読んだ。
× × × × ×
半田 レン 様へ
この度は、あんな素敵な提案だけではなく、借金まで肩代わりしていただきありがとうございました。
これで息子に会えると思うと、私は感謝しかありません。あの日、友人に誘われてあの集会に参加した日から、私は前向きに生きていくことができました。
私、怖くありません。あなたの下さった装置で、痛みもなく一瞬で済みますから。必ず、成功させてみせます。
私に、希望をくださってありがとうございました。
飯原ヶ丘 炉々
× × × × ×
そこには、『半田レン』『集会』『装置』『素敵な提案』と見慣れない単語が並んでいた。――――だが、読み取れることもある。
「……これは、飯原ヶ丘が死ぬ直前に出したであろう手紙……!?」
アザミの言葉には、カロも同意だった。
手紙の中で飯原ヶ丘は、感謝を述べ、『必ず成功させてみせる』と決意表明を見せていた。
「なあ、この土地って……」
カロが問うと、アザミはスマートフォンを取り出し、それから、
「……購入された土地、斑目工業の工場がある」
と、調べた結果を、カロに見せつけた。
「なら、次はここだ。車なら……。うん、1時間半くらいか」
アザミは地図を確認すると、山を降り始める。
カロは、何か重大なことに近付いている予感を抱きながらも、置いていかれてはたまらないので後に続いた。
▼ ▼ ▼ ▼
斑目工業の工場がある村は、閑散としていた。まるで、西部劇の決闘が始まる前のようだった。
カロたちは、陽華も以前訪れた工場にやってくると、中に向かって声をかける。――――しかし、その声は工場の影に吸い込まれてしまったのか、返事どころか人の気配すらなかった。
「勝手に入りますよー……」
カロがそう声をかけると、一行は恐る恐る足を踏み入れる。とにかく誰か人に話を聞こうと、たどり着いたのは『事務室』だった。
事務室の鍵は、かかっていなかった。
そして、中は不自然なくらいに書類がなかった。まるで、夜逃げでもしたみたいに。
「本当にここ、事務室なのか?」
アザミが呟く。手袋をして、いろいろな棚を開けてみても何も入っていなかった。
「逃げられたか……」
ドンッと壁を叩く、アザミ。
しかし、その時、――――叩きつけた拳のすぐ近くで、腕時計のデバイスが鳴った。
「……!」
アザミは、壁伝いに拳の先を目で辿っていく。と、そこには窓があり、窓を覗くと遠くに小さな建物が見えた。
窓から手を出してみると――――再びデバイスが鳴る。
この部屋の壁の向こう側、あの小屋の方に魔力の痕跡があるのは明らかだった。
カロたちは工場を出て、小屋の前までやって来る。と、ドアノブには、
「魔力の痕跡……!」
と、アザミが口にした通り、どうやら痕跡があるらしかった。
小屋の入り口からは、地下に向かって延々と階段が続いている。先も見えないほど真っ暗だった。
一行は、アザミを先頭にして、シズク、カロと降っていく。
そうして、長い長い階段を抜け、行き着いた場所でアザミは立ち止まった。すると、それにぶつかったシズクに、連鎖してカロもぶつかった。
「そうか……! そういうことだったのか……!!」
そんな間抜けなカロたちとは対照的に、全てを理解したかのような迫真の声を上げる、アザミ。
それを、
「急に立ち止まんなよ……。何があっ――――」
と、押しのけて、カロが向こう側を覗いた。
すると、そこに広がっていたのは――――陽華も目にした、巨大な魔石具工場だった。
ただし、今は暗くそれが分かりづらかったから、カロが、
「何の機械だ?」
と、アザミに尋ねて確認する。と、アザミは、
「これは魔石具工場なんだよ……!! そして、魔石具をこんな大量に生み出せるのは、岩手紫衣羽しかいねえ……!! この意味が分かるか……!?」
と、カロに問い返した。
「……この土地は岩手隊長のものってことか?」
「ああ。書面上では、岩手福寿という人物のものだがな!」
アザミは半分イラだったような態度で、説明を続ける。
「この工場は岩手紫衣羽のもの=この土地は岩手福寿のもの=上の工場は斑目工業のもの――――つまり、この3つはグルってわけだ」
「え、じゃあ、その斑目工業が飯原ヶ丘に金を貸していて、その飯原ヶ丘は手紙に『この度は、あんな素敵な提案だけではなく、借金まで肩代わりしていただきありがとうございました』ってあった通り――――借金を肩代わりしてもらって、お前を嵌める提案を受けたてことか……?」
「ああ。同じく手紙に『あなたの下さった装置で、痛みもなく一瞬で済みますから』ってあったことから、ハナから死ぬ気だったことが分かる。借用書の日付も最近だしな。――――つまり、これこそがお姉ちゃんが残してくれた岩手紫衣羽があたしを嵌めたっていう証拠だったってわけだ!」
アザミは確信を持ってそう言うと、
「これをお父様に、特魔に持っていかねえと!!」
と、焦った工場を後戻りした。
姉が指名手配になったのを知った時のように焦っているアザミを宥めようと、カロは、
「おい、待てよ! 写真撮ったりとかしなくていいのか!! 外観とか、場所とか!! それに、手紙を送ってきた半田レンってのは――――」
と、声をかける。しかし、それに返ってきたのは、
「――――俺だよ。半田レンってのは」
という、男の声だった。
カロたちが振り返ると、工場の奥からはオレンジ髪の男――――レンが現れる。
そして、さらに入り口の階段の方からは、
「この情報だけで、一瞬で答えに辿り着きますか。さすが、禁書《支配》を確保したコンビ、いやトリオですね。一応、レンに連絡を入れておいて良かったです」
と、聞き馴染みのある声が、聞こえてきた。
「お前は――――リトリー!?」
すると、正解を確認するよりも早く、リトリーの後ろからはさらにずらっと作業服姿の青年男女が現れて、カロたちを一瞬にして取り囲んでしまった。
「さ、証拠を返してもらいましょう。――――岩手様のために」
リトリーが闇の中から鋭い目つきでカロを睨む。と、アザミが、シズクに証拠の入ったカバンを押し付けるように渡した。
そして、
「シズクを突破させて、特魔に向かわせるぞ。そのほうが、お前も気合い入るだろ」
と、カロに言う。すると、カロも勇ましく笑って、
「よく分かってんじゃん」
と、応えた。
「アザミ、任せて」
シズクもカバンを肩から下げ、真剣な顔つきになる。
そうして、リトリーたち岩手派とカロたち陽華派の視線がぶつかると――――圧倒的に人数不利の戦いの火蓋が切られることとなった。
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