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1-8 手紙の真意

挿絵(By みてみん)


     × × × × × × ×


  おっす、カロ! 

  前にあったのは、5つの頃か。約束した魔術の訓練してるか? 

  ダラダラとした前置きはなしにして、要件を伝える。

  ケースには、女の子が入っている。それを、お前に守って欲しい。

  がっかりしたか? お前のことだから、魔術の道具とでも思っただろ!

  よもや、女の子とはな! あ、えっちなことはしちゃダメだぞ~!

  目安としては、1年。世話を頼む。ま、学校まで連れて行けばなんとかな

  るから。土人形につき、ご飯は与えなくて大丈夫。ってことで、よろ☆


     × × × × × × ×


 カロが体を起こして、教室に戻ろうとした――――その時、冒頭の2文。


『おっす、カロ!』

『前にあったのは、5つのころか。約束した魔術の訓練してるか?』


 これらの頭の文字に光が落ちる。カロの目には、ふと『お前』と横に並んだ2文字が映し出される。


 ――――カロ! 見ろ! 横文字で『チン子』って書いてあるぞ!!


 カロは、『おっす、カロ!』の『お』のう部分に指を置く。と、それから縦に言葉をなぞっていく。


「『お』『前』『ダ』『ケ』『が』『よ』『目』『る』……。『お前だけが読める』……!?」


 と、その時――――どこからやって来たのか、突然3階から屋上へ向かって大量のカラスアゲハが通り抜けていく。


「うわっ!!」


 カロのいる踊り場は、一瞬にして台風のなかに置かれたように風の暴力に包まれる。


 カラスアゲハは扉を押し破ると、初夏の青空へと勢いを止めず飛び出す。

 カロはその間、手紙を話すまいと抵抗しながらも、風の勢いと強さに思わず右目を閉じた。――――その刹那のことだった。


 手紙の上に魔力を帯びた紫色の文字が浮かび上がっているのが、瞬いた視界の隙間から覗き見えた。


 カロは両目を閉じてカラスアゲハの大行進をなんとか耐え切る。

 と、くしゃくしゃになった髪もそのままに、もう一度手紙を見つめた。


『お前だけが』


 カロは、徐に右手で自身の右目を押さえる。


 そして、左目――――叔父の作ってくれた義眼だけで、手紙を再び見つめた。


      × × × × × × ×


 カロ、俺とお前の絆を信じて、ここに真実を記す。


 俺は降霊術に成功した。

 薄々分かっているとは思うが、シズクさんは俺の初恋の人だ。


 俺はシズクさんに、22歳で死んだシズクさんにもっと世界を見てほしかった。

 だから今回、彼女を冥界から呼び寄せたんだ。禁書に記された魔術と俺の命を使って。


 ただ冥界にいた期間が長かったのと、土人形に魂を張り付けたから、魂自体の反応が鈍くなってる。

 だから、人の言葉は理解できても、初めは赤子みたいな行動をとるはずだ。


 だが、魂が定着するたびにシズクさんは人間に近づいていく。おそらく1年かけて。


 だから、その間、シズクさんの魂を取り返しにやってくる悪霊や、シズクさんを霊に戻そうとする警視庁警備局特殊魔術対策課――――“特魔(とくま)“と呼ばれる公安の連中がやってくるかもしれないから、お前がシズクさんを守り通してくれ。


 大丈夫。もしシズクさんの体が崩壊してしまっても、コアの役割をしている赤い玉を壊されなければ死ない。

 ただし、悪霊は一定の形をしていないし、特魔の連中は聡い。気をつけろ。


 そして、頼む。もう一度、彼女に人生を。


     × × × × × × ×


 元々あった文の上に、魔力で書かれた文字が浮かび上がる。

 それは横文字も、気を(てら)った言葉もない、叔父の思いが込められた手紙だった。


『俺の命を使って』


 その言葉が、何より衝撃的だった。


(そこまでして、あいつを……。玉砂シズクを愛していたのか……)


 命を賭けてまで、あの少女を――――玉砂シズクを現世に呼び戻したのは、究極の愛と言う他なかった。


 嫉妬心すら覚えるほど、純粋な。

 そのために生きていたと言っても過言ではない。

 なんせ、人生を捧げたんだから。


 カロは、叔父の手紙の一端をグッと握り潰す。


「ヒュウガさん……」


 しかし、その余韻に浸っている暇はない。


 遅れて、カロの横を1匹のカラスアゲハが通る。

 と、カロはハッとして、その後をついて屋上に出た。


 空は、暗く歪んでいた。


 そして、校庭の中央には、円柱状に渦巻いて群れているカラスアゲハたちがいた。


 まるで、悪意を可視化したようなその存在は、カロの前にいた最後のカラスアゲハが合流するとやがて解け、中央に2つの影だけが残った。


 1つは、ツギハギだらけの体に黒い蝶の羽、鋭く尖った爪を持つカラスアゲハもとい悪霊の集合体。


 そして、もう1つは――――土人形の少女、玉砂シズクであった。


「あいつ……! なんであんあんところに!?」


 カロは魔術のムチを出し、屋上の手すりに巻きつけて、いますぐにでも少女の元へ向かおうとする。――――が、地面を見た瞬間、足がすくんでしまう。


 カロは葛藤を胸に屋上を飛び出し、階段を飛び出して玄関口へと向かった。



     ▼ ▼ ▼ ▼



「な、なにあれ……!! 人!? って、真ん中にいるの……」


「なんか、玉砂さんに蝶々が集まっていきなりああなったらしいよ」


「私、見た……! 玉砂さんがカラスアゲハと一緒に、玄関の方に(・・・・・)向かう姿!」


「そ、それより、先生!」


「警察は!?」


 と、流石にここまで霊が集まると魔術に疎い人でも見えるのか、窓から校庭を眺める群衆からそんな声が聞こえてきた。


「……なんでだよ」


 カロは、歯を食い縛る。ズキリと、左目が痛んだ。



     ▼ ▼ ▼ ▼



 校庭。


 少女は、首を絞める悪霊の両腕をどうにかして解こうと抵抗する。


 が、悪霊はものともしない。体を蹴っても腕を掴んでも、ただ少女の顔を睨んでいた。

 まるで、1人だけ現世に戻った少女の魂を恨むように。


 つぎはぎの悪霊は、いくつもの顔が張り付いたような頭部を持ち、両頬に1ずつ口を持っている。

 そして、そのどれもから言葉にならない呻き声が漏れていた。


 と、頬に張り付いた口は金切り声を上げ、ぐっと悪霊の爪が少女の首に食い込む。――――が、その時だった。

ここまで読んでくださりありがとうございました!


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