6-4 夕焼け列車に揺られながら
帰りの電車の中、3人はシズク、カロ、リトリーの順に並んで揺られていた。3人以外に人はいない。
「……結局、子供の行方は分からすじまいでしたね」
リトリーの呟きに、カロは反応を示さない。ただ、自身の足元を見下げているだけだった。
すると、右からシズクが頭でカロの肩を、左からリトリーが拳でカロの腹を殴った。
「いっ……!」
そうしてようやく顔を上げると、カロはいつもの調子で、
「何すんだ、てめえら……ッ!!」
と、左右を睨んだ。
「何をナーバスになっているんですか。そんな調子では、解決するものも解決しませんよ。何があったかは知りませんが、私情を捜査に持ち込まないでください。調子が狂います」
リトリーはそう言うと、じーっと前を見つめながら、
「確認したいことがあります」
と、言った。
「確認したいこと?」
「あなたは――――誰の味方なのですか?」
「……!」
「……いえ、この表現は正確ではなかったですね」
列車が大きく、ガタンと揺れる。
「あなたはもし、赤木派と岩手派が対立したとしたら、どちらにつくつもりなのですか? リトリーと陽華補佐が対立した時、どちらを殺すつもりなのですか?」
そう言い改めると、リトリーはカロの目をまっすぐ見つめた。
「……前から分かってたけど、お前、岩手隊長側なんだな。1人だけ“様“呼びしてたし」
「はい。岩手様も、リトリーを“リト”と呼びます」
「へえ……」
「あなたが呼んだ場合は、殺しますよ。リトリーは精神的潔癖症なので、親しくもない人間に愛称で呼ばれるのは不快なのです」
「呼んでねえし、呼ばねえよ」
少しの沈黙の後、カロは答える。
「……どっちにつくか、か。そんなの決まってらぁ。――――俺とシズクの都合がいい方だ」
「都合のいい方……」
「元々、スパイになるのもそういう条件だったしな。隊長も納得してる」
「……そうですか」
すると、リトリーは立ち上がる。そして、
「リトリーは、ここで降ります」
と、カロに告げた。
「え?」
「どうやら、人がたくさん乗り込んでくるようなので……」
そう言われて車窓を見てみると、いつの間にかもうホームに着いていたようで、ガラスの向こう側にはたくさんの人が並んでいた。
「人混みは嫌いです」
リトリーがそう言うとすぐに扉が開き、そのカロよりも小さな背中は人の波に消えていってしまった。
そして、今度はどっと人が乗り込んでくる。カロとシズクは、すっかり人で満ちた車内に閉じ込められてしまった。
(平日なのに、こんな混むなんて……)
幸いなのは、座れていることだった。――――と、その時。
ブーッ、ブーッ――――と、カロのスマートフォンが震えた。おそらく電話がかかってきたのだろう。
ちらっと見ると、画面には非通知の文字が。
(なら、出なくていいや……)
カロはそう思って、腕を組み、席に背を預けた。
すると、それを横から覗き見ていたシズクが「出ないの?」と言いたげに肩を叩いてくる。カロは、
「良いんだよ、非通知だし」
と、説明するが、しばらくその様を眺めた後――――シズクはそれに出てしまった。
電車の扉が開かれる。と、中からは、シズクを抱えたカロが出てきた。
「――――ああ、もう! 座れてたのになんで出ちゃうんだよ!!」
カロはシズクの手を引きながらホームに降り、人混みから少し離れたところに立つ。と、続けて、
「……ったく、で、誰からだったんだよ。どうせ詐欺か、間違い電話だろ」
シズクに、そう尋ねた。――――すると、その問いに返ってきたのは、
「陽華」
という言葉だった。
「陽華?」
カロはシズクからスマートフォンを受け取る。と、電話口に出たのは、
「――――骨喰特等、ですね!!」
という、聞き覚えのある声だった。
「陽華補佐!?」
やけに切羽詰まっているその声に、カロはただ事ではない予感がして、
「何があったんですか……!?」
と、動揺しながら聞き返す。
「周りに誰かいますか? 特魔の関係者は……」
「いえ、一般人しか……」
「なら良いです。説明している時間はありません。用件を伝えます」
辛そうな吐息まじりに、そう語る陽華。すると、次にその口から出てきたのは、
「始まってしまいました。――――岩手紫衣羽による、赤木家の排除が」
という、衝撃の言葉だった。
「隊長が!?」
「そこで、証拠を隠しておきました。あなたは、今からアザミとそこに向かってください」
「どうやって!」
「岩手の目的は、私の追放です。アザミの事件の真犯人を、私に仕立て上げようとしているんです……!!」
「陽華さんの……!? どうして!」
「今、それを説明している暇はありません。――――ですが、状況は利用できる。私に罪をなすりつけるということは、アザミの疑いを晴らすことでもあります。そうすれば、アザミは冤罪で解放されます」
「待って、話が……」
しかし、陽華はこちらに構わず、
「とにかく、アザミに花火が上がる場所と――――」
と、言いかけると、そこで通信中特有の電波の音が消えた。
嫌な予感がする。
「――――陽華補佐!? 陽華補佐!!」
返事はない。通話は切れてしまったようだ。
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