表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/98

6-4 夕焼け列車に揺られながら

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



 帰りの電車の中、3人はシズク、カロ、リトリーの順に並んで揺られていた。3人以外に人はいない。


「……結局、子供の行方は分からすじまいでしたね」


 リトリーの呟きに、カロは反応を示さない。ただ、自身の足元を見下げているだけだった。

 

 すると、右からシズクが頭でカロの肩を、左からリトリーが拳でカロの腹を殴った。


「いっ……!」


 そうしてようやく顔を上げると、カロはいつもの調子で、


「何すんだ、てめえら……ッ!!」


 と、左右を睨んだ。


「何をナーバスになっているんですか。そんな調子では、解決するものも解決しませんよ。何があったかは知りませんが、私情を捜査に持ち込まないでください。調子が狂います」


 リトリーはそう言うと、じーっと前を見つめながら、


「確認したいことがあります」


 と、言った。


「確認したいこと?」


「あなたは――――誰の味方なのですか?」


「……!」


「……いえ、この表現は正確ではなかったですね」


 列車が大きく、ガタンと揺れる。


「あなたはもし、赤木派と岩手派が対立したとしたら、どちらにつくつもりなのですか? リトリーと陽華補佐が対立した時、どちらを殺すつもりなのですか?」


 そう言い改めると、リトリーはカロの目をまっすぐ見つめた。


「……前から分かってたけど、お前、岩手隊長側なんだな。1人だけ“様“呼びしてたし」


「はい。岩手様も、リトリーを“リト”と呼びます」


「へえ……」


「あなたが呼んだ場合は、殺しますよ。リトリーは精神的潔癖症なので、親しくもない人間に愛称で呼ばれるのは不快なのです」


「呼んでねえし、呼ばねえよ」


 少しの沈黙の後、カロは答える。


「……どっちにつくか、か。そんなの決まってらぁ。――――俺とシズクの都合がいい方だ」


「都合のいい方……」


「元々、スパイになるのもそういう条件だったしな。隊長も納得してる」


「……そうですか」


 すると、リトリーは立ち上がる。そして、


「リトリーは、ここで降ります」


 と、カロに告げた。


「え?」


「どうやら、人がたくさん乗り込んでくるようなので……」


 そう言われて車窓を見てみると、いつの間にかもうホームに着いていたようで、ガラスの向こう側にはたくさんの人が並んでいた。


「人混みは嫌いです」


 リトリーがそう言うとすぐに扉が開き、そのカロよりも小さな背中は人の波に消えていってしまった。


 そして、今度はどっと人が乗り込んでくる。カロとシズクは、すっかり人で満ちた車内に閉じ込められてしまった。


(平日なのに、こんな混むなんて……)


 幸いなのは、座れていることだった。――――と、その時。


 ブーッ、ブーッ――――と、カロのスマートフォンが震えた。おそらく電話がかかってきたのだろう。


 ちらっと見ると、画面には非通知の文字が。


(なら、出なくていいや……)


 カロはそう思って、腕を組み、席に背を預けた。


 すると、それを横から覗き見ていたシズクが「出ないの?」と言いたげに肩を叩いてくる。カロは、


「良いんだよ、非通知だし」


 と、説明するが、しばらくその様を眺めた後――――シズクはそれに出てしまった。


 電車の扉が開かれる。と、中からは、シズクを抱えたカロが出てきた。


「――――ああ、もう! 座れてたのになんで出ちゃうんだよ!!」


 カロはシズクの手を引きながらホームに降り、人混みから少し離れたところに立つ。と、続けて、


「……ったく、で、誰からだったんだよ。どうせ詐欺か、間違い電話だろ」


 シズクに、そう尋ねた。――――すると、その問いに返ってきたのは、


「陽華」


 という言葉だった。


「陽華?」


 カロはシズクからスマートフォンを受け取る。と、電話口に出たのは、


「――――骨喰特等、ですね!!」


 という、聞き覚えのある声だった。


「陽華補佐!?」


 やけに切羽詰まっているその声に、カロはただ事ではない予感がして、


「何があったんですか……!?」


 と、動揺しながら聞き返す。


「周りに誰かいますか? 特魔の関係者は……」


「いえ、一般人しか……」


「なら良いです。説明している時間はありません。用件を伝えます」


 辛そうな吐息まじりに、そう語る陽華。すると、次にその口から出てきたのは、


「始まってしまいました。――――岩手紫衣羽による、赤木家の排除が」


 という、衝撃の言葉だった。


「隊長が!?」


「そこで、証拠を隠しておきました。あなたは、今からアザミとそこに向かってください」


「どうやって!」


「岩手の目的は、私の追放です。アザミの事件の真犯人を、私に仕立て上げようとしているんです……!!」


「陽華さんの……!? どうして!」


「今、それを説明している暇はありません。――――ですが、状況は利用できる。私に罪をなすりつけるということは、アザミの疑いを晴らすことでもあります。そうすれば、アザミは冤罪で解放されます」


「待って、話が……」


 しかし、陽華はこちらに構わず、


「とにかく、アザミに花火が上がる場所と――――」


 と、言いかけると、そこで通信中特有の電波の音が消えた。


 嫌な予感がする。


「――――陽華補佐!? 陽華補佐!!」


 返事はない。通話は切れてしまったようだ。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


 励みになりますので、良いと思ってくださった方は【☆】や【ブックマーク】をポチッとしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ