5-end 骨喰加那汰の確信
カロたちが、ショッピングモールから帰ってきた夕方。
会議室。――――そう掲げられた部屋の中では、各隊の隊長と隊長補佐がずらりと並んでいた。
その中でも一際、難しい顔をしている陽華と総司令。
会議は、ただ『処分を下す』というシンプルな内容にも関わらず、1時間に渡って行われた。
「――――陽華補佐!」
会議室から岩手隊のオフィスに戻ってくる、陽華にカロが声をかける。
すると、陽華はすぐさまカロとリトリーに、
「明日の朝から調査を開始します。仔細も、その時に」
と、告げた。
▼ ▼ ▼ ▼
寮の自室。
カロは、難しい顔をしながら扉を開ける。――――と、そこには、
「カロ、お帰り」
と、なんでもないような顔で料理をするシズクがいた。
「……ただいま」
それからものの数分で、食卓には肉じゃが、鮭の塩焼き、味噌汁、たくあん、そして茶碗一杯の白米が並ぶ。それは、どれも美味しそうだった。
「ずいぶん、和風だな」
「生前、作り慣れてた。……と、思う」
「曖昧なんだな」
「まだはっきりしないこと、多い」
「……そうだな」
カロは手を合わせて、食事に手をつける。と、シズクは、
「アザミ、どうなる?」
「さあな。明日次第だ」
「アザミ、殺してない。私のこと、逃がしてくれた」
と、続けた。
カロの箸が止まる。
「……そうか、シズクってあそこにいたのか!」
「うん。アザミ、お前まで疑われる必要ないって、私のこと逃した。――――『自分の無実を証明してくれるやつがいなきゃ困るから』って」
「何があったかは?」
シズクは首を横に振る。
「私、そこにいなかった。迷子、案内してた」
「そうか……」
肩を落とす、カロ。すると、シズクが言った。
「分からないこと、多い。でも、分かることもある。――――アザミ、むやみやたらに魔術使わない。人も、殺さない」
カロはその言葉に何度か小さく頷くと、シズクの様子を覗き見て、それから、
「……だな。よおし、調査のためにも、たらふく食わねえと」
と、ガツガツとご飯を食べ進めた。
「うん。早く連れ帰って、お祝いする。食材、腐る前に」
▼ ▼ ▼ ▼
「――――始まったな」
夜。副司令室。副司令が、窓の外を見つめながら呟く。
「しかし、考えたな」
その後ろに立っていたのは、岩手だった。そんな岩手の返答を待たず、副司令は続ける。
「魔術士はたとえ不意打ちの弾丸だろうが事故だろうが、無意識的に《魔術:障壁》でそれらを弾くように教育されている。だからこそ、一般人が殺すことは難しい」
「ええ。それ以上の力を加えれば障壁を砕くこともできますが、それには魔石具を使う必要がある。すると、その痕跡からボクが手を回したと疑われてしまう。――――ならば、魔術士を被害者ではなく、加害者に変えてしまえばいい」
「魔力の痕跡は?」
「もちろんありますよ。だって――――魔術士は、意識的に《魔術:障壁》でそれらを弾くように教育されているんですから。女性の爆発に対して、いやでも障壁を張ってしまう。そうすれば、彼女が魔術を使った痕跡はそこに残る。――――そして、その性質上、魔術は使った痕跡は分かっても、発動された魔術までは特定できません。もしそれができるなら、明坂ストリートの事件はもっと早く解決されていましたしね」
「……で、念には念を入れて、私といることで自分にもアリバイを持たせる、か」
「岩手隊は全て、今日は地方に調査に出ています。ボクが手を回すこともできない」
「赤木アザミの処分は?」
「本来ならは、1ヶ月の調査期間……。ですが、今回はことがことなので。1週間の調査期間の後、何も変化がなければ除籍。まあ、総司令が手を回すでしょうから、自己防衛かつ情状酌量の余地ありで、数年の刑務所生活ってところでしょうかね」
「……表面上、特魔は公務員。不祥事があれば、それも殺人となれば籍を置いておくこともできない。それに、家族に何かあれば、赤木清流――――総司令の進退にも影響を与えることができる、か」
「大事なのは、結果です。どうして女性が赤木アザミ1等を襲ったのか、気にする連中も現れるでしょう。が、その辺りは適当に因縁をつければいい。それよりも、アザミ1等の手により女性が爆死した。魔術の痕跡もある。そして、彼女は爆破魔術を得意とする。――――その事実の方が、はるかに印象も強く、重い」
そう淡々と語る様を見て、副司令が気難しそうな顔で「ふん」と鼻を鳴らす。
「そうまでして、成し遂げたいか。――――一族の悲願、特魔への復讐を」
▼ ▼ ▼ ▼
「処分は、現場のカメラと周りの証言から証拠は十分として、アザミ1等は現在、警視庁監視下の元で勾留されています」
翌日、車の中で陽華が言った。
カロ、シズク、陽華、リトリーの4人は、聞き込みに向かう途中だった。
「映像があるんですか……!?」
カロが驚きの声を上げる。と、陽華はバックミラー越しに後部座席のシズクを見た。
「ええ。どうやら、あなたと出かけていたようですね。――――玉砂シズク」
「……どんな映像だったんです」
今度は、リトリーが尋ねる。
「側から見れば、ナイフで襲われたアザミ1等が、過剰な自己防衛として女性の頭を彼女の魔術で爆発したように見えました。前日、仕事が朝までかかっていたこともあり、錯乱していたんだろう。……と」
「仕事疲れからの錯乱……。確かに、いくつもの現場を経験していると、敵意に対して過剰になりすぎる魔術士は少なくありません。それで、制圧でいいところを殺害ですか」
「だけど、そんなことは――――」
リトリーの言葉に目を伏せる、陽華。
「――――そんなことは、あり得ません」
しかし、次に聞こえてきたのは自分の考え代弁したカロの言葉だった。
「あいつは、魔術士ということにも特魔ということにもプライドを持っていた。少なくともそんな簡単に振るうわけない。俺の時だって……」
「俺の時?」
「以前に一度、あいつに禁書も持っていると疑われたことがあった。その時は襲われたけど、でも、あの時は証拠があったし、それにちゃんと話だって通じた。あいつがそういう行動を起こす時は少なくとも何か原因があると思うんだ」
そう語るカロの言葉に、陽華は、
「……印象だけで罪の有無を判断するのは、あまり推奨しません」
と、返す。しかし、すぐに、
「だからこそ、調査を急ぎましょう。期間は、1週間。それまでに、何か証拠を持ち帰りましょう」
と、言葉を紡ぐと、前を向いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
励みになりますので、良いと思ってくださった方は【☆】や【ブックマーク】をポチッとしていただけると嬉しいです!




