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3-4 風

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「あの、ここの占い受けたことって……」


 占い師の弟子を名乗る女性が、陽華に聞いた。


「ありますよ」


「なら、不思議な風、感じたことないですかぁ……。器を杖で3回叩いて占ったら、最後に『アジャラカモクレン・テケレッツのぱぁっ!』って……」


 女性のやったそれは占い師よりももっと暗く不気味なものだったが、それでも確かに占い師の唱えたものと同じだった。それも、きっちり2回、パンパンッと手を叩くところまで。


「……あれ?」


 すると、カロは占われた時に感じた風を今は感じず、思わずそう声を漏らす。

 カロは、女性の言う「風」を魔術を使う際に発生する高揚感に似た風だと思っていた。だが――――。


「あの風、拍手の合図に合わせて、私が後ろから風吹かせてるんですぅ……」


 ――――と、話を聞いてみると、それは違うらしかった。


「インチキ、ってこと?」


 カロが尋ねると、女性は肯定も否定もせず、


「わ、私だって、信じてましたよ、初めは。ズバズバ言い当てられて、あの力が欲しいって……。そうすれば、私だって自分に嫌なこともう起こらないんじゃないかって……」


 と、ぶつぶつと言い訳を始めた。


 そんな女性の傍で、陽華が、


「しかし、占いの力は本当のように思えましたが……。それにズバズバと言い当てられたなら、あながちインチキというわけでも……」


 と、呟いた。すると、女性は不気味にニヤッと笑って、


「あ、あ、あ、あなた、責任感が強いタイプでしょう?」


 と、言った。


「どうです?」


 女性は、カロたちの方を向いて答えを確かめる。

 カロたちは目を見合わせると、3人ともその言葉に頷いた。


「ほ、ほら、私だってできた……!」


「でも、どうやって……」


「コールド・リーディングにバーナム効果、あとは誘導したり信じ込ませたり、説得力を持たせる話術とか……」


「コールド・リーディング……。確か、その場で相手の反応を見ながら情報を収集していって、あたかも占いで導き出されたかのように見せる技術でしたか?」


 リトリーが尋ねると、女性はこくりと頷く。


「た、例えばですけど……。あなた、最初に私に話しかけてきましたよね」


「ええ」


「その時、息を切らしてなかったし、私もここにずっといたことから落ち着いて話しかけることができたと予測できます。――――つまりは、誰が話しかけるか選べる状況だったということです。さらに、あなたたちは公安を名乗った。だとしたら、真っ先に怪しい人物に声をかけるのは上司、あるいは責任感の強い人間や成果を出したいと思っている人間です。……っていうか、警察組織なんて責任感が強い奴ばっかでしょ。ふふふっ」


 不気味な笑いの中には偏見もあったと思うが、確かにそれは当たっている。すると、リトリーが、


「よくよく考えれば、占い師に占われた時も指定された範囲は曖昧でしたね。確か、兄弟がいるとかなんとか」


 と、陽華のほうを見た。


 ――――でしょうねえ。しかも、長女。少なくとも、下に1人はいるはず。


 そんな占い師の言葉が、陽華の頭の中に蘇ってくる。すると、リトリーは続けて、


「確か、日本人の約50%が2人兄弟あるいは姉妹のはずです。さらに次に多いのは3人兄弟の割合で、一人っ子はそこまで多くなかったはず。……と、考えると、兄弟に言及するのはむしろ悪くない選択と言える」


 と、付け加えた。


「あ! そっか、お昼に来てた人たち……。あの時、確かあなた先頭を歩いてませんでした?」


 その時、女性が思い出したように顔を上げて、陽華に言う。そして、


「自分で先行したり、地図を見て気を配ったり、そう言う人には長女長男の場合が多いんですよ。話しかける時も、おそらくお姉さんが最初だったんじゃ……」


 と、尋ねた。 


「……確かにあの時、私は率いてはいましたが。でも、それだけで?」


「あとは、経験からくる立ち回りでなんとなく分かるんです」


「では、不幸ばかり言い当てるというのも……」


「ああ、あれですか。あんなの、半分悪口ですよ」


「……え?」


「いるでしょ、典型的な破滅が見える人間。しなくちゃいけないことがあるのに、それを全部ほっぽり出して恋人にうつつ抜かす人間。感謝も全部忘れて、自分を過大評価している人間。親に隠して水商売に片足突っ込んでる人間。自分を大切にしないで、身を切り売りするように良い人になろうとする人間。みんな、みんな、成功する道は見えなくても、破滅の形は見えてくる」


 卑屈な態度でぶつぶつと語る女性の言葉には、確かに説得力があった。


「なら、あの時の魔石は……」


 陽華がそう言うと、女性が、


「ま、魔石?」


 と、訳が分かっていない様子で尋ねる。


「あの器に入れていた石ですよ」


 その言葉を聞くと、女性は「ぷっ」と吹き出してから、


「ああ、あれはただのガラスで出来た石ですよ!」


 と、笑った。


「え? でも……」 


「使ってる本人が、そう言ってるんですから! たまにいるんですよねぇ。『この石からは、何か不思議な力を感じる』って言う人。光ったとか、赤色になったとか。そんなわけないってのに……!」


 女性は緊迫した雰囲気から解き放たれたからか、堰を切ったように笑い続けた。


 そんな様子を見て陽華がカロたちの方を振り向く。と、カロたちも互いの顔を見合わせて首を傾げた。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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