2-end 古本みちくさ堂
陽華の提案で、地道に聞き込み調査をすることにした4人。しかし――――。
「と、言ったものの……」
カロは明坂ストリートを歩きながら、がっくりと肩を落としていた。
「まさか、あそこまで繁盛しているとは……」
陽華が続ける。
先ほどまでカロたちは疑いのあるカフェ、そして美容室を訪ねようとしたが、どちらともとてもじゃないが取材に答えられる忙しさではなかった。
「ここが最後の希望ですね」
リトリーがそう言って見上げたのは、『古本みちくさ堂』と看板の掲げられた古本屋だった。古本屋は他の2つの店よりは混んでおらず、独特の落ち着いた雰囲気を持っていた。
中に入れば、本の匂いが4人を包む。シズクが、すんすんと鼻を鳴らした。
整頓された本たちと、清潔な店内。――――しかし、不思議なことにカウンターには誰もいなかった。
シズクが、カウンターの上に置かれたベルをチンッと鳴らしてみる。
「……」
それでも、やっぱり誰もやってこない。
すると、陽華が言った。
「お客様がいて店員がいないということはないでしょうから、各自で店内を少し見回って待ちましょうか」
「なら、リトリーは外を見張っておきますよ。ここは、人口密度が高くてかないません」
そうして解散することになると、カロは立ち並ぶ本棚たちに目をやりながら、緑を基調とした木造りの古風な店内をシズクと共に歩いていく。
その時、ふとシズクが学校の図書館で借りた児童書のことを思い出した。確か『危なっかしい魔法使い』という本だった。
「なんか欲しいもんでもあるか?」
シズクに聞いてみる。すると、シズクは本棚をじっと眺めてから1番上を指差した。
「あれか?」
カロが、シズクの示した本に向かって手を伸ばしてみる。しかし、微妙に届かない。すると、
「カロ、合体」
と、シズクがカロの肩を叩いた。
カロは、呆れと驚きの混じった顔でシズクを見つめる。
しかし、シズクも負けじとそれをジーっと見つめ返し、最後にはカロが根負けすると――――2人はカロが下、シズクが上となって、肩車をした。
「と、取れそうか……?」
カロがややくぐもった声で聞く。
すると、シズクはその本を手に取り、それからパラパラとめくり――――元の棚に戻した。
「いや、戻すんかいッ!!」
カロが思わず突っ込む。と、カロの背後から、
「――――おお、お嬢さん随分と高身長だねえ」
と、男の声が聞こえてくる。そして、その男は、
「だけど、危ないから肩車は止めてね。そこに梯子あるから」
と、柔らかな声色で続けた。
▼ ▼ ▼ ▼
「おお、そうですか! 公安の方々」
先ほどカロに声をかけた男が、カウンターの前に蓋つきのバスケットをドサッと置く。
男は柔らかな物腰似合わず、大柄でコケ色のドレッドヘアをしていた。しかし、一方で緑のシャツに青いエプロン、さらに眼鏡をかけていて、格好はまさに古本屋の店主だった。
「ええ。実はこの辺りで聞き込みをしていまして……。といっても、カフェと美容室はそれどころではなかったんですが」
カロが言うと、店主は「はっはっはっ」と笑って、それから、
「あの店たちは、ここ数ヶ月で客足を増やしましたからねえ……。うちもありがたく、その恩恵を受けさせてもらってますよ」
と、ドレッドヘアを撫でた。
「先ほどは、どちらに?」
さりげなく陽華が聞く。
「いやあ、実は向こうでは絵の展示もしてましてね。普段はこっちにいるんですけど、ご購入いただいた際には手渡しをって」
「今も、買われていった方が?」
「ええ。ありがたいことに、少しずつそっちで食えるようになってきていて。……これも、恩恵ですかね?」
冗談っぽく言ってみせる、店主。
その時、カロがバスケットをジーっと見つめているシズクに気がつく。
「……あの、このバスケットって」
カロが、シズクの代わりに尋ねる。すると、店主は気さくに、
「それは絵の具です。近くにアトリエもあって、ちょうどこっちにストックしてあった最後の分を持っていくところだったんですよ」
と、答える。しかし、その言葉を聞くと、シズクはふるふると首を横に振る。そして、カロの裾を引っ張り、バスケットの下に挟まった白いカードを指差した。
カロがそれを拾い上げて、まじまじと見る。――――と、その時だった。
「ああーっ!! 渡し忘れた!!」
店主が声を上げる。
「メッセージカードですか?」
「そうなんだ! いつも買っていただいた方にささいだけど、ね」
カロの問いに店主はそう答えると、カロたちに「少し店番お願いします!」と言って、慌てて明坂ストリートへと飛び出していってしまった。
「……え?」
その後ろ姿を断る暇もなくぽかんと見つめていた、カロたち。
すると、しばらくして、店主が後ろ走りで明坂ストリートの向こうから戻ってくる。
そして、店の入り口で、
「それと聞き込みなら、明日がおすすめですよ。明日はミサだから、午前中は静かだ。店を開く前なら、話を聞いてくれるんじゃないかな」
と、告げた。
「ミサ?」
「この町の住人はね、みんなミサに参加するんです。明坂ストリートのはずれにある教会に。――――ってことで、店番お願いしますね!」
そして、最後にそう言うと店主はメガネをクイッと直して、今度こそ人込みの中へと消えて行ってしまった。
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