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1-6 目的

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


 事件を解決し、黒魔術を使っていた眼帯の少女を確保した、カロと陽華。すると、そこに現れたのは、岩手隊隊長――――岩手(いわて)紫衣羽(しえば)だった。


「岩手隊長、どうしてここに……」


 そこからともなく現れた岩手に対して、陽華は当然の疑問をぶつける。が、岩手はそれを無視して、


「彼女、恋愛のもつれが募り募って蝋人形で人を呪い殺そうとしていたみたいですね」


 と、岩手は地面に倒れている少女に歩み寄った。


「もっとも、ろくに訓練を受けてない者が儀式を行っても十中八九成功しませんが。しかし、もっと良くないことが起こる可能性もあった。素早い対応に感謝します。ご苦労様でした」


「……いえ」


 すると、岩手は少女のそばにしゃがみ込み、陽華に聞いた。 


「……ところで、なぜ2人で出動することにしたのですか? あの任務は、我々の()で対処するよう命じられていたはず」


「……骨喰特等の実力を、見てみたくなったのです」


「実力?」


「骨喰特等本人から話を聞いたところ、彼は以前の禁書騒ぎの際、魔術師的恍惚感(ビヨンド)に入っていた疑いがありました。実戦なら、それが見られるのではないかと」


「なるほど。……それで、魔術的恍惚感には?」


「いえ、そこまでの相手ではなかったようです。しかし……」


 陽華は言い淀むと、カロの方を向いて、


「一方で、彼は驚くほどの度胸を見せました。彼の強さは、ただ魔術的恍惚感が使えたからではないように思います。基礎魔術が使えないからと言って、価値が否定されるほど弱くもありません」


 と、言った。


「ふむ。そういう事情でしたか……」


 岩手は探るような目でカロを見つめる。が、それからすぐに、


「なら、OKです。ま、事前に止めず事後確認にしたのも、陽華補佐の判断を信頼してのことですしね」


 と、空気を変えるように柔らかい声色になって、手を払い、立ち上がった。


「――――では、2人とも行きましょうか」


「行く?」


 カロが聞くと、岩手はニコッと笑って、


「調査ですよ。禁書の調査」


 と、言った。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「お疲れ様です」


 岩手に連れられてカロたちが現場に到着すると、そこには魔石の埋め込まれた武器――――いわゆる『魔石具』と呼ばれる代物を携えた人間が多くいた。


「魔石具……。ていうか、いっぱいいるなぁ……」


 カロが呟くと、


「みんな、岩手隊ですよ。我々の本来の役目は『失われた禁書《盲信(アイポニー)》の捜索』ですから、こちらに注力してるんです。ただ特魔自体が人手不足なので、そこまで大きくない黒魔術の反応を対処することもありますが」

 

「なるほど……」


 黄色と黒の縞模様のテープを潜り抜け、キープアウトされた土地に入る。そこは、まるで2階建てのコンクリ造りの廃墟のようだった。 


 遅れてカロも現場に足を踏み入れると、


「足元、気をつけてください。崩れやすくなってますから。あと、2階にいくのもお勧めしません」


 と、岩手が警告した。

 よく見てみれば、建物たちはどれもところどころが崩れていて、風には砂や砂利が混ざっていた。


「ここは、もともと特魔の施設があったところなのです」


 岩手はそう語りながら建物を案内していく。地下へと降りるための階段は、外の吹き曝しのものとは違い、安心感があった。


「しかし、“禁書災禍(きんしょさいか)“によって、この施設はその価値を失い、今は新しく建てられた警視庁に敷設された施設が特魔の本拠地として使われているといるのです。ま、とどめを刺したのはクラゲ大樹による地震なんですけど」


「禁書、災禍?」


 すると、カロは岩手の語る言葉の中に知らない単語を見つける。


「……かつて、この世界の魔術士は正魔術(せいまじゅつ)協会と呼ばれる組織に一括して管理されていました。それは、日本もフランスもイギリスもドイツもアメリカも関係なく、全ては『何者も利用せず、何者にも利用されず』――――つまり、人類の存続や魔術に関わる事象以外は、出来る限り干渉しないという理念のもとに。そして、その正魔術協会は、禁書と呼ばれる7冊の書を各国で管理していたのです」


「だけど、その1つをヒュウガさんが持ってた……」


 カロの言葉に、岩手は頷く。


「24年前、世界中の禁書を管理する組織――――日本で言う“特魔“に、黒魔術師が一斉に攻め込むという事件が起きました。結果、日本は2冊、フランスとイギリスは1冊、アメリカは日本と同じく2冊の禁書を失った。防衛に成功したのは、ドイツのたった1冊だけでした」


「それが、禁書災禍……」 


「ここ20年で行方が分かったのは、骨喰特等が回収したものだけです。……ね、陽華補佐」


 どこかの部屋に行き着くと、岩手はそう言って陽華に視線をやった。すると、陽華は顔色も変えず、何も答えず。代わりに、


「それで、ここに私たちを連れてきた目的は?」


 と、質問をした。


「もちろん。ボクたちの関わっている捜査を紹介するためです。明日から、彼にもこれに加わってもらいますから。……それと、禁書と対峙した者にしか気づけない何かがあるかもしれないかと思って」


 岩手は「どうです?」と、カロに尋ねる。


 カロは、改めて部屋を見回した。

 大きな空間。中心には、鈍い色をした空の台座があり、部屋全体が役目を失ったように薄暗く、まるで光を待っているようだった。

 天井には、大きな穴が空いていた。おそらくここから攻め入ったであろうことが読み取れた。

 カロは、手がかりを求めて台座に近づこうとした。――――が、ピリッとした嫌な感覚が指や頬を撫でたので近づくのをやめ、代わりに辺りをぐるぐると見回ってみることにした。


「……特には、何も。ていうか、すでにほかの人たちが漁った後なんじゃ……」


「そうですか。いえいえ、同じ見解で安心しました。なんせ、ボクらの中で禁書と直接対峙したことがあるのは()()()()()なんですから」


 すると、次に岩手は、


「――――では、あなたはどうですか? 玉砂シズク」


 と言って、カロの後ろに目をやった。


「……え?」


 カロは、自分の背後に続く岩手の視線を追っていく。と、そこにいたのは、魔石隊員に連れられたシズクだった。シズクは、糸魔術で作られた縄によってぐるぐる巻きに縛られていた。


「シズク!!」


「カロ……!!」


 シズクは、魔石隊員に魔石の入ったナイフで縄を切られ解放されると、一直線にカロに向かって走っていく。と、カロはそれを抱きとめて、聞いた。


「なんで、ここにシズクが……!?」


「玉砂シズクは、禁書魔術によって呼び出された存在。つまりは、魔術を扱うボクらとも、禁書と対峙したことのある骨喰特等とも違う、異端の存在です。だからこそ、彼女の見解も聞こうと思いましてね。……まあ、多少暴れたので拘束しましたが」


 シズクは、カロの陰に隠れ、怯えた様子で岩手を見る。しかし、岩手は何も気にしていない様子で、


「さ、今度は何か分かりますか?」


 と、部屋の中央に鎮座する台座に向けて手を広げた。


 カロは訝しげな視線を向けながらも、シズクと共に改めて台座に近づく。と、シズクが、


「カロ――――」


 と、きゅっと袖握り、


「――――嫌な予感がする」


 そう言った、次の瞬間――――爆発音と共に床が崩壊した。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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