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1-2 骨喰特等魔術士

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


「……ってわけで、ここに。夏休みの間だけなんだけど」


 カロが特魔に加入することになった経緯をあらかた説明すると、そこにフォローするように、


「アザミ1等もご存知でしょう? 今、この特魔には失ってしまったもう1つの禁書があること」


と、岩手(いわて)が付け加えた。


「だからって、なんでこいつを……」


「ボクが、推薦したんですよ」


「え?」


「この組織は慢性的な人手不足ですし、それに彼には禁書の確保に協力した実績があります。それは、あなたが1番分かっているでしょう? アザミ1等」


「それは……」


 岩手はニコッと笑う。


「名目上は、外部協力者ということになります。階級は、特別等級ということで“特等(とくとう)“。扱いは2等魔術士と同じですので、上司をつけることになりました。そこで、白羽の矢が立ったのが――――」


「――――私の姉。陽華(ようか)補佐、ということですね」


「ええ。『禁書探し』は、ボクの隊の任務ですから。ま、推薦したのもボクですし。ですが一応、以前の事件で接触があったアザミ1等には紹介しておかなければと思いまして」


 すると、頭を抱えていたアザミがハッと気づく。


「……ってことは、こいつの所属は!」


「彼は、ボクの部隊所属となります。それに伴って、彼とその土人形の監視任務も陽華補佐に移りますので、そのこともアザミ1等にお伝えさせていただかねば、と」


「ちょ、ちょっと待ってください! こいつは学生です! 特魔はあくまで公務員。未成年を入れることはできないはず……!」


「ええ。ですから、今は外部協力員としての採用です。階級も”特等”と、特別なものですし。これに関しては、総司令、副司令ともに合意しています」


「お、お父様が……!?」


「どのみち大学を卒業したら、特魔に加入する条件だったじゃないですか。……それに、この交渉のおかげで彼は監視付きで済んだのですから」


「……え?」


「まさか、禁書を倒すのに協力しただけで違法の存在である黒魔術師が許されるわけもないでしょう。それに、先の騒動にも一枚噛んでいたそうで。骨喰(ほねくい)ヒュウガの代わりの魔力供給機関として」


「……! どこまで知って……!?」


「そもそも彼が黒魔術師にならなければ、代替えの玉砂(たますな)シズクに対する魔力供給機関を得られず、骨喰ヒュウガの計画は破綻していたはず。つまり、骨喰加那太(かなた)にも罪はある、というのが上の見解です」


「そんなの! だったら、別にあいつは他の人間を利用したはずだ! こいつは、たまたま近くにいた存在だったから……」


「すべては、結果なのですよ。過程など、どうでもいい」


 その時、岩手はアザミが何も言えなくなるような冷たい表情を覗かせる。


「ともかく、会議は彼を裁く方向で進んでいきました。しかし、そこで彼の処遇を提案したのがボクだったのです。彼を悪と断定するにはまだ早い。社会奉仕をさせてはいかがか、とね」


 アザミは納得がいかなかった。しかし、反論をしようと言葉を探していると、


「――――口を慎みなさい。アザミ」


 と、ついに姉である陽華が釘を刺す。


「隊長の決めたことよ。そして、総司令も――――お父様も許可を出しているということ。組織と個人の感情。どっちが大事か。それくらい、もう分かる年齢でしょう?」


 そう言われてしまっては、アザミはもう何も言えなくなる。、


「ご納得いただけたようですね」


 最期に、岩手がニコッと笑った。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「――――というわけで、今日からここで生活していただきます。詳しい話は、明日。陽華補佐からあると思いますので、朝8時に演習場に集合してください」


「はぁ……」


 警視庁から車に乗せられて5、6分。特魔に用意された寮の部屋の前。


 いまいち歯切れの悪い返事をするカロに、岩手は「では」と別れを告げる。と、カロはやっとシズクと2人きりになれた。


 ともかく、カロは部屋に入ってみる。中は思ったよりも広く、清潔なワンルームだった。


「……広い」


 そう言いながら、シズクが部屋の中に駆け足で入っていった。


 入り口すぐにはキッチンがあり、部屋は少なくともカロが過ごしていたあのマンションの一室よりは倍くらい広い。トイレと風呂は別で、シャワーだけでなく浴槽まであった。


「……これ、本当に元監視対象者にあてがわれるクラスの部屋かよ」


 そう呟いて思い出す。確か、岩手は自分のことを“外部協力者“と言っていた。ならば、本来ここは魔術士に提供される部屋なのかもしれない。


 部屋を見て回って、最後にワンルームの中心に目をやると、その端でシズクが動物のように自分の居場所を探っていた。今この部屋には、用意された家電と家具、そして持って来たカバン1つくらいしか物がないから、居心地は悪いのかもしれない。


 そんなことを考えていると、部屋の扉がノックされた。何か岩手が伝え忘れたんだろうか、そう思ってカロは何の気無しに扉を開けた。


「骨喰くん、ちょっとお話ししましょ♡」


 バタンッ――――カロはすぐに扉を閉めた。鍵もした。


 見間違いでなければ、外にいたのは笑顔の赤木アザミだった。 


「おいごらッ!! 何で閉めてんだ、てめえッ!! 開けろ!!」


「……見間違いじゃねえや」


 そう呟くと、カロは鍵を解いて、


「何のようですか……?」


 と、今度は警戒しながらそーっと扉を開く。すると、アザミはすぐさま足を入れて、


「話、しようや。お・は・な・し」


 と、無理やり扉を開け、中に入ってきた。 



   ▼ ▼ ▼ ▼



「……来たばっかで。粗茶も出せねえんだけど」


「あ? いいよ、別に」


 ちゃぶ台を挟む、カロとアザミ。その様子を、シズクが部屋の端から心配そうに眺めていた。


「で、お話しってのは……」


「――――お前、あたしのスパイになれ」


 話を聞こうとするなり、アザミは唐突にそう言った。


「……へ?」


「具体的には、あたしの代わりにお姉ちゃんを――――陽華補佐を守って欲しいんだ」


 すると、カロは何かを察したように尋ねる。


「……それは、この組織の成り立ちに関係しているので?」


「知ってんのか」


「まあ、総司令から軽くは……」


「なら、分かってるんだろう? あいつが――――岩手が、かつて江戸時代に存在していた特魔の前身組織『灯篭守部(とうろうもりべ)』のころに追放された、一族の末裔だってこと」


「……でも、近年になって大きな成果を上げてこの組織に戻ってきた、と」


「ああ。政治家共に取り入って、さらに大量の魔石具(ませきぐ)とそれを操る戦闘集団を連れてな」


「魔石具?」


「魔術を扱う素養のないやつでも、命令を記した単純な魔術なら扱えるようにできるって厄介な代物さ。魔術士には、魔術が扱えなきゃ3等にすらなれない。けど、それが持ち込まれたせいで、魔術士にはなれなくとも戦闘力のあるやつってのが、岩手の隊にはごまんといるってわけ。……というか、お姉ちゃんを除けば、奴が連れてきたのはほとんどそんな奴らだな」


「……はぁ」


 いまいち重大さを理解してないカロの気の抜けた返事に、


「つまり、あいつは魔術士こそ自分の手駒にいないものの、やべえ戦力を外からこの組織に持ち込んだんだよ! そんな奴らが追放された復讐心に駆られて、この特魔を乗っ取ってみろ!! 一瞬にして、あたしたちはおしまいだ」


 と、アザミは苛立ちを見せる。


「……で、それがどうスパイと繋がるんだ? 俺のメリットは?」


「岩手が隊を作った時、お姉ちゃんは自ら志願して岩手の下に移った。お姉ちゃんは正義感が強いから、おそらく自分が岩手の監視役になるつもりなんだと思う。ううん、もしかしたらそれ以上のことだって……」


「だから、俺に陽華補佐を監視し、有事の際には止めるスパイになってほしいって?」


「あたしは、ただお姉ちゃんを守りたいだけ。……だけど、お姉ちゃんは、何考えてるかわからない。話してもくれなくて。だから――――」


「そうか……」


 カロは腕を組んで考える。そして、


「――――よし! 断る!」


 そう、勢いよく決断した。


「えっ……。……なっ!?」


「よく考えたら、俺、お前に恩とかないし。それに面倒ごとはごめんだね。俺はシズクと平和に暮らしてえんだよ」


 困惑するアザミに、冷めた目でそう告げるカロ。しかし、アザミも食い下がる。


「いやいや! 骨喰ヒュウガを倒すのに協力してやっただろ!!」


「それで点数稼いで1等魔術士に昇格したのは、どこのどいつだよ」


「うっ……!」


「せめて、メリットがありゃあ考えるけど……」


「メリットは……。メリットは……」


 カロの言葉に、アザミはグッと考え込む。


「……ない」


 しかし、いくら考えても答えは出てこなかった。


「……話にならねえな」


「待って、でも……!」


 すると、訴えを続けるアザミをよそに、


「シズク」


 と、カロが合図を出す。


 すると、片隅で体育座りをしていたシズクが立ち上がって、それからその細い体からは想像できない力強さで、アザミを担ぎ上げた。


「――――ッ!?」


 アザミの訴えは宙をもがくだけでカロには届かず、やがてシズクが扉に到達すると、アザミは廊下に放り出された。


「こいつ! 力つよ!! ちょ、待て……! 骨喰……ッ!!」


 バタンッ――――扉が閉まる。


 と、一仕事を終えたシズクは、カロの元に駆け寄り、


「カロ」


 と、頭を差し出した。


 カロは、その頭を撫でる。もう手慣れたものだった。


 満足そうに頭を屈める、シズク。

 一方で、カロは浮かない表情を浮かべると、


「スパイになれ、か。まさか――――総司令と同じことを頼まれるとはな」


 と、ため息混じりに呟いた。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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