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1-1 姉妹喧嘩と介入者

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)



「――――お姉ちゃん!」


 静かな廊下に声が響く。ここは、特魔の本部だった。

 慌ただしい革靴の音が、廊下に敷かれた赤い絨毯に吸い込まれる。


 “お姉ちゃん“――――そう言って、やけにスタイルのいい女を呼び止めたのは赤木アザミだった。


「お姉ちゃん、何であいつの――――岩手(いわて)の部下なんかに」


 女は、黒髪を靡かせて振り向くと、


「……アザミ。お姉ちゃんではなく、陽華(ようか)補佐と呼びなさい」


 と、アザミと同じように赤くとろんだ瞳を向けた。


「ねえ、どうして? どうして、そんな突き放すみたいにどっか行っちゃうの――――」


 そう訴えるように陽華にもう1歩詰め寄ろうとする、アザミ。しかし、その時、


「――――()()の部隊の不祥事なら、どうぞ、ボクに。赤木アザミ2等」


 と、男の声がアザミを呼び止めた。続けて、陽華の後ろから声の主である紫の髪をした男が現れる。


「失礼。今は1等魔術士でしたね」


 男は、全く悪気のない様子で薄ら笑いを浮かべていた。

 アザミはそんな男を睨みながらも、


「……いえ、何でも。()()()()。ただの姉妹喧嘩です」


 と、返す。すると、岩手は一瞬鋭い目つきになるも、


「そうですか」


 と、納得したように言った。

 

 それからすぐに、アザミは「では……」と言って、アザミはその場を立ち去ろうとした。しかし、アザミはそこで、


「あ、ちょっと待ってください。2人に紹介したい人がいるんです」


 と、岩手に呼び止められた。


「紹介したい人?」


 陽華が尋ねる。と、岩手は頷いて、それから自身の後ろで存在感を消して立っていた影に、前に出るよう促す。


「今日付で陽華補佐の部下になります。ただ、アザミ1等にも紹介したかったのは、あなたも彼と面識があるからです。何かあれば、手を貸してあげてください」


 そう岩手に紹介されて、姿を現したのは――――。


「――――骨喰(ほねくい)加那太(かなた)。と、玉砂(たますな)シズク」


 アザミはその名前を呼ぶと、それから続けて、


「な、なんで、お前がここに……!?」


 と、当然の疑問を口にした。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 時は戻って、昨夜。


「お別れは、お済みですか?」


 深夜。カロのマンションの廊下。

 そうカロに尋ねてきたのは、特魔が派遣してきた魔術士だった。


 カロは頷く。と、魔術士は改めて、


「あなたは今後、監視対象として特魔の寮に移り住んでもらいます。そのため、これより魔術布による記憶改変をあなたの家族に行います」


 と、丁寧に説明した。


「そんな丁寧に何度も確認しなくていいですよ」


 カロはそう言って部屋の方を振り返ると、


「……元々、本当の家族じゃないんだし」


 と、寂しそうな目をして呟いた。そして、再び魔術士の方に向き直る。


「お願いします」


 カロの言葉に魔術士が頷くと、その後ろからは10に満たない魔術士が姿を現す。そして、部屋の中に入り魔術布を設置すると、廊下に出て並び、


「《魔術:付与(ふよ)》《魔術:強化(きょうか)》――――《舞文曲筆(まいぶんきょくひつ)》――――《魔術:付与》《魔術:障壁(しょうへき)》――――《舞文曲筆》」


 と、口を揃えて唱えた。


 それから、促されて乗った車の中。

 荷物はカバン1つと――――シズク1人。窓の外を眺めるカロの瞳には、電気のつかない自分の部屋が映っていた。


 1時間もしないうちに、警視庁に着く。


 と、車から降りるなり先ほど会話を交わしていた魔術士の1人が、


「寮に行く前に寄っていただきたいところがあるのですか、ご同行願えますか? 荷物はお運びいたしますので」


 と、カロに言った。


 断れる権利なんかないだろ、と、カロは思いながら、


「シズクも一緒でいいですか?」


 と、ささやかな反撃をしてみせる。シズクと離れ離れにはさせないぞ、と。


 しかし、その牽制は、


「構いません。こちらです」


 と、あっさり躱されてしまった。


 カロたちは、薄暗い廊下を進んでいく。カロとシズクが招かれたのは、警視庁のずっと地下だった。


「……ずいぶん暗いんすね」


「本来は、時間外労働ですからね。電源も必要最低限以外は落ちてます」


「時間外労働……。公務員なのに……」


「教師とかもそうでしょう?」


「……確かに」


 あっけらかんと笑う魔術士を、少し冷めた目で見るカロ。そうして導かれるままたどり着いたのは、大きく広がった空間だった。


「――――うわっ!!」


 次の瞬間、暗かった部屋に光が灯る。――――と、その中央にはスーツ姿で立ち尽くす1つの影があった。


 どうやら、赤い髪を後ろに持っていっていて、顎には髭を生やしていた。おそらく、男だろう。


「では」


 すると、自分をここに案内した魔術士はそう言って、カロを部屋の中に向かって押し、シズクと共に廊下へと出てしまった。


「え? ……え!?」


 困惑しながら閉まった扉の前に立つ、カロ。しかし、それにはもう鍵がかけられて、開かなくなっていた。


 次に、カロは扉を背に部屋の中央にいる男に向かって、


「あの、何する気なんですか!? 何も、悪いことしてないと思うんですけど……!!」


 と、呼びかけてみる。――――すると、次に男から返って来たのは、


「これより、試験を始める。戦闘の準備をしたまえ」


 という言葉だった。


「へ……?」


 直後、目の前に男の髭面が迫った。――――かと思うと、カロは逆さになった男の背中を見つめていた。


「でっ――――」


 それからドサッという地面に叩きつけられた感覚が背中に伝わってきて、ようやくカロは男に投げられたことを自覚した。


「……ふむ。何と言ったかな、あの土人形の少女」


 すると、そんなカロを見下しながら男が言った。


「いってぇ……ッ!! ……ッ、なんだよ。いきなり……ッ!!」


「そうだ、玉砂シズク。あれ、禁書魔術の産物らしいですねえ」


「は……?」


「では、こうしましょう。もし、この私を止められなければ――――あれを殺します」


「……は!?」


「全力で防いでみせてください」


 そう言って、男はカロの意見を聞くまもなく、再びカロに襲いかかる。


「……ッ、なんなんだよッ!! いきなり!!」


 スピードに慣れたのか、カロの目にも何とか男の動きが捉えられるようになる。と、カロは、


「――――ッ!! 《魔術:強化》、《魔蜘蛛の糸》ッ!!」


 と、魔術のムチを取り出した。


 カロは男に向かってムチを振るう。兎にも角にも、その攻撃を止めさせなければ話はできそうになかった。


「ほう、あれが禁書を倒した初級魔術か……。質自体は、ヒュウガのものと似ている。では、その実力――――」


 男はカロの紫の魔力を、黒い瞳でじっと見つめる。と、それから、


「――――拝見させていただく」


 と、ムチを交わすように、カロの右下に向かってしゃがみながら大きくスライドした。


 忍者のような姿勢になって、カロよりも低い位置に構えた男は――――次の瞬間、カロの顎を目掛けて足を蹴り上げる。


「――――っ、ぶねえな……ッ!!」


 カロは間一髪それを躱し、食いしばった歯の隙間から憤りを漏らす。と、今度は、カロが男の腹に向かって蹴りを繰り出した。


 しかし、姿勢の崩れた状態での蹴りはたいした威力もなく、あっさりと男に受け止められると、むしろその足を掴まれてカロはまた軽々と投げ飛ばされた。


「――――《(ソー・)蜘蛛古城(アリラスティーク)》ッ!」


 しかし、それこそがカロの狙いだった。


 カロは、出しっ放していたムチに網になるように命令を出す。と、それが男の足に絡まり、男は宙に浮かされ、後ろに向かって転びかける。


「むっ――――」


 男が困惑した様を見せると、カロは網を解除し、地面に着地する。そして、次の瞬間、宙に浮いた男に向かってムチを振るって見せた。


 だが、男もタダでは転ばない。男はブレイクダンサーのように地面に片手をつくと、その場でくるっと周り、簡単に体勢を整える。そして、向かってくるムチを、


「《魔術:障壁》」


 と言って、弾いてみせた。


 お互いに攻撃の手止めて、部屋の中央で睨み合う2人。


 すると、男は不意に、


「……さっきから、攻撃に敵意も殺意も感じられないのですが」


 と、聞いた。


 カロは一呼吸置くと、


「……禁書と対峙したあの日、人の醜さを知った。悪意も敵意も殺意も……。だけど、あんたの攻撃にはそれがなかった。本物の殺意はもっと違う。それに、試験とも言ってたし。なら合格の条件を探るのが自然でしょ」


 と、答える。

 その言葉通り、これまでの戦いを通じて、悪意、敵意、そして殺意の違いがなんとなく分かるようになっていた。


「……ふむ」


 男は考え込むようにそう呟くと、カロを睨む。その時、カロは一瞬ビクッと体を震わせると、次の瞬間には自然と身構え、少しして汗が頬を伝った。


「どうやら、本当のようですね」


 その反応を見て、男は確信する。と、続けて、


「冷静さも良し。とても禁書を倒せたようには思いませんが、しかし、倒しているのもまた事実。……合格ということにしておきます。もう警戒しなくていいですよ」


 と、カロに告げた。


「な、なんだったんだ……」


 ムチを引っ込める、カロ。すると、廊下と部屋とを区切る扉が開いて、自分を案内した魔術士とシズクが姿を現した。


「シズク……!」


 駆け寄ってくるシズクを抱き止める、カロ。すると、そんなカロに、


「骨喰くん、《魔術:障壁》は使えますか?」


 と、男が聞いた。


「は?」


「魔術ですよ。習ったことは?」


「い、いえ……」


「《魔術:浮遊(ふゆう)》は?」


「それも……。でも、《魔術:付与》と《魔術:強化》は一応……」


「……ほお。よくこれで、禁書を倒せたものだ。しかし、今の攻撃にも、最低限の対応ができたのは事実。裏を返せば、ポテンシャルは……」


 自分から質問をしておいて、カロを置き去りにしてぐっと考え込み始める、男。


「あ、あの……」


 そして、次にカロが話しかけた時だった。


「骨喰くん、まずは唐突に君を傷つけたこと、すみませんでした」


 と、男が頭を下げた。そして、顔を上げると続けて、


「私は、赤木静水(せいすい)。赤木アザミの父であり、この特魔の総司令を務めています」


 と、自己紹介した。


「そそそ、総司令……!? なんで、そんな人が……」


「その総司令として、お願いがあるのです」


「お願い?」


「骨喰くん。あなたには、今すぐ我々の仲間になっていただきたい。――――禁書探しのために、ね」



 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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