第2章 プロローグ
ガラッ――――窓が唐突に開かれる。ここは、マンションの一室。それも3階だった。
「なんで、特魔が……!!」
明かなメンヘラ姿の眼帯をした少女が、クマの人形を抱えながらとある部屋の中に逃げ込んでくる。と、少女は窓の下に目をやった。
「――――ええい、ままよ!!」
そして、次の瞬間――――少女は、窓から地上に向かって飛び降りた。
「はぁああああッ!?」
後から遅れてやってきた男が、慌てて窓の下を覗く。
と、少女はアパート沿いに停めてあったボックスカーの屋根に、何とか着地していた。ボックスカーの高さが2メートルだとしても、4メートルくらいはあっただろう。
「追い詰めたと思ったでしょ!! ざまあみろ!」
そう言って、窓から覗く男に向かってベッと舌を出す少女。
少女は、それから「じゃあね~」と言うと地面に着地し、住宅街の中へと逃げ込み姿を消す。――――かに、思えた。
「――――《魔蜘蛛古城》ッ!!」
しかし、直後――――ズシンッ――――と、逃げる少女の後ろで何かが落ちてきたような鈍い音がする。
少女が、ギギギッと錆びついた機械のように首を回して振り返る。と、そこにいたのは――――。
「待っ……!!」 ……てや、こらァ……ッ!!」
――――と、ぎらついた目つきで自分を睨む、自分を追ってきた男の姿だった。
「な、なんなのよぉ!!」
さらに、少女を挟んで反対側から革靴の音が聞こえてくる。
「――――追い詰めたと思った。のではなく、あなたは追い詰められています」
少女は、進行方向に向き直る。と、そこには赤い瞳に黒い髪を靡かせたやけにスタイルの良いスーツ姿の似合う女が立っていた。おそらく彼女も、特魔なのだろう。
「追い詰める。――――というのは、何も壁で遮ったり部屋に閉じ込めることだけではありません。ルートを1つに絞ること。それも、追い詰めるのうちの1つです」
ここは、住宅街の一本道。少女は、完全に囲まれてしまっていた。しかし――――いや、だからこそ少女は抗おうと、ナイフを取り出す。
そして、それを女のほうに向け、
「舐めんなッ!!」
と、その腹部に目がけて走り出した。
「舐めてるのは、どっちですか」
が、女は依然として冷静な態度でそれと向き合うと、それから「《魔術:強化》」という呟きだけを残して、少女の目の前から消えた。
「どこに――――」
少女は女が残した微かな風の動きと影の揺らめきを辿って頭上を見上げる。――――その直後、
「――――遅い」
という言葉が耳に届くと同時にナイフを払われ、後ろから肘と腕で首を締め上げられた。それは、いわゆるチョークスリーパーという技だった。
息が出来ずにただ溺れたようにもがく、少女。しかし、そんな少女を胸に抱きながらも女は、
「しかし、よく飛び降りましたね。その度胸は、お見事です。――――骨喰特等魔術士」
と、一緒に少女を追い詰めた男――――カロに向かって、教師のように落ち着き払った様子で言ってみせた。
カロはその様子を遠巻きに見ながら、
「は、はぁ……。一応、糸魔術をクッションに使いましたし、何より飛び降りるのは慣れてるもんで」
と、引き攣った表情で答える。――――と、その時、少女がドサッと地面に倒れ込んだ。その肌は、化粧で取り繕った以上に青白かった。
「……とはいえ、取り逃がしかけたので0点です」
妹と同じく、人の限界点を知っているのかこういう状況になれているのか、淡々と対象に手錠をかけていく、女。
カロは、足元に転がる少女の気絶した顔を見る。と、ごくりと喉を鳴らした。
(俺は、骨喰加那太。どこにでもいる普通の高校生。……では、ないんだけど。それでも、こんな目に合うはずじゃなかったはずだ――――)
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