7-end いつかの思い出 【第1章 完結】
「――――で、用ってなんだよ」
後日。
いつかのショッピングモールのフードコート。
カロが、そう尋ねた相手は――――赤木だった。
4人がけの丸テーブルを、カロ、シズク、赤木の3人で囲う。
赤木は私服で、カロたちは制服だった。
「ってか、デジャヴなんですけど……」
カロは、じーっと目の前の赤木を見つめる。と、赤木はようやく重い口を開いた。
「……いろいろと、報告しとくことがあってな」
「報告?」
「まずお前らの身柄についてだが、逮捕する必要も殺す必要もなくなった。条件付きだけど」
「へ?」
「そもそも、あたしがあんなに骨喰ヒュウガを追ってたのは、手っ取り早くどでかい成果を上げる必要があったからなんだ。けど……」
「あ、今回の件で……」
「そう。禁書の回収と禁書魔術師の排除。2つも成果を達成したから、あたしは1等魔術士に昇格。糸魔術しか使えないちゃちい黒魔術師を、無理に逮捕する必要は無くなったってわけ。それに、お前は結果的に誰かを守っても、誰かを殺してはいないしな」
カロは「ちゃちい」という言葉に眉を顰めながらも、
「んで、条件ってのは?」
と、尋ねる。
「……まあ、特魔もいろいろ面倒なことになっててな。人手不足も否めないんだよ。だから、その条件ってのはな」
すると、赤木はドンッと机に肘を置いていった。
「高校を卒業したら、特魔に入れ――――それまでは、あたしの監視付きだ」
「……へ?」
「2年後には、あたしが先輩だな。骨喰」
ニヤッと赤木が笑う。カロは、思わず立ち上がってしまった。
「……ぇえええええッ!? お、俺が、特魔!? 待てよ、まだ返事も!」
すると、咎めるように赤木が言う。
「おいおい、静かにしろよ。ここはフードコートだぞ?」
「そんな重要な話を、フードコートでしてんじゃねえよ!!」
「……と言っても、お前に断る権利なんてねえぞ。断れば、すぐにあたしたち――――”特魔”は、お前と玉砂シズクを排除しにくる。お前は牢獄で、玉砂シズクは処分だ」
「……ッ、ずるいぞ」
カロは椅子に座り直すと、赤木を睨んだ。
「むしろ、良い話だと思うけどな。処分されないだけ」
赤木は、シズクを見つめる。と、釣られてカロもシズクを見る。
そして、カロは叔父からもらった手紙の《シズクさんは人間に近づいていく。おそらく1年をかけて》という一文を思い出した。
「まあ、でも確かに1年守り通せば……」
ぶつくさ呟くカロに、赤木はずいぶん面倒くさそうに、
「とりあえず、YESって答えとけよ」
と、言った。
「……わ、分かった。それで良いなら」
カロは、渋々提案を飲む。と、それから溜飲を下げるように、左手でオレンジジュースを口にした。
「……お前、その左手」
赤木がそれを見て、疑問を口にする。
「……ああ。流石に、元には戻らなかったからな。土人形の左手を作って、補強したんだ。魔石も埋め込んであるから魔力供給もいらないし、ちゃんと動くんだぜ、これ。いやあ、我ながら良い仕事したよ」
カロは左手をギュッギュと握ってみせる。と、シズクの方を向いて、
「それに、こいつとお揃いってのも、悪くないしな」
と、付け加えた。
「……ま、お前が良いならそれでいいよ」
赤木はカフェラテを啜る。と、今度はカロが尋ねた。
「しかし、あれはなんだったんだろうな」
「あれ?」
「ほら、シズクを生き返らせた時に、霊魂に糸が絡まってた……」
「……ああ」
すると、赤木は一泊置いてから、
「お前、こいつの魂をコアに縛り付けたりしなかったか?」
と、言った。
カロの頭の中には、これまでの日々で何度も爆散したシズクの姿が浮かんでくる。
「……まあ、心当たりはいくつも」
「そのうちの1本が運良く玉砂シズクの霊魂に絡まって、この世に留めていただけだ。それも、消える寸前のか細いやつがな」
「なんで、あの時、お前は『まだ間に合う』って分かったんだ?」
「あ? お前、魔力見えねえの?」
「そりゃ、見ようとすれば見えるけど」
「見ようとしなくても見えるのが、特魔なんだよ。幼少期の訓練のせいでな」
そう言うと、赤木は、
「んじゃ、そういうことで」
と、席を立った。
それからしばらくして、オレンジジュースも空になった頃。
カロはシズクと目を合わせると、
「……じゃ、俺たちも行くか」
と、言う。そして、シズクもそれに合わせて立ち上がった。――――その時。
「あ」
と、カロは何かを思い出したような声を漏らした。
▼ ▼ ▼ ▼
「こちら、返却でよろしいですね」
「はい」
そんなやり取りをして、カロは図書室を出る。
「ふぅ……。放課後、滑り込みセーフ……」
そして、外で待っていたシズクに歩み寄ると、続けた尋ねる。
「良かったのか? あの本、返しちまって。1回返せば、夏休みの間も借りれて……」
しかし、カロの提案にシズクはふるふると首を横に振ると、
「……もういい」
と、微笑んだ。そして、それからカロの少し前に出ると、
「行こ」
と、手を差し出した。
その姿を見ると、思わずカロの頬も緩んだ。
「最近、よく喋るようになってきたなぁ……」
そう言って、カロはシズクの手を取る。
その時、形がないはずの愛というものに、確かに触れた気がした。
窓の外で、セミが鳴く。
蝶々の飛び交う季節が過ぎて、カロたちの元へは暑い暑い夏がやって来た。
これにて、第1章完結です~。
今後は短編の別作品を挟みつつ、書き貯めて、また更新していければいいなと思っていますので、続きが気になった方は【ブックマーク】等をして待っていていただけると嬉しいです!
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《シューゼと水蒸気の姫君》
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